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平成14年/2002年上半期
(平成14年/2002年7月17日決定発表/『オール讀物』平成14年/2002年9月号選評掲載)
選考委員  黒岩重吾
男78歳
林真理子
女48歳
津本陽
男73歳
渡辺淳一
男68歳
阿刀田高
男67歳
田辺聖子
女74歳
宮城谷昌光
男57歳
五木寛之
男69歳
北方謙三
男54歳
平岩弓枝
女70歳
井上ひさし
男67歳
選評総行数  96 97 74 79 105 114 110 73 123 84 215
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
乙川優三郎 『生きる』
372
男49歳
43 21 22 29 22 41 19 8 16 45 39
宇江佐真理 『斬られ権佐』
486
女52歳
9 9 7 3 14 13 0 13 18 6 35
江國香織 『泳ぐのに、安全でも
適切でもありません』
235
女38歳
9 17 10 16 18 24 15 15 14 10 33
奥田英朗 『イン・ザ・プール』
437
男42歳
15 10 11 10 29 15 30 10 28 11 45
中山可穂 『花伽藍』
364
女41歳
8 31 6 18 10 11 45 10 17 4 30
松井今朝子 『非道、行ずべからず』
911
女48歳
12 9 18 4 13 10 0 19 16 11 36
                     
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『オール讀物』平成14年/2002年9月号
1行当たりの文字数:13字


選考委員
黒岩重吾男78歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
入魂の受賞作 総行数96 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
乙川優三郎
男49歳
43 「最も優れていた。主人公をも含めた周囲の人々の呻吟が、地上を覆った枯葉の下から自然に聞えてくる。」「今回の作品で氏は見事に脱皮した。周囲の人物像にも目配りを怠らず、肌理細かく描いた結果、情感が違和感なく響き合い、人間の業が持つ侘しさ醜さを浮き彫りにした。」「何よりも感心したのは、三作とも手抜きがなく、まさに入魂の作品であることだ。」
宇江佐真理
女52歳
9 「八十八ヶ所も斬られ、動くにもやっとという身体では、権佐に乗れない。私は権佐に付いてゆくことに疲れた。」
江國香織
女38歳
9 「現代の若者の感性が光っている。」「ただラストの方の作品はエッセイで小説とはいえない。私としては本短篇集を候補作品として真剣に論ずる気にはなれなかった。」
奥田英朗
男42歳
15 「面白く読めた。」「ただ直木賞の作品にしては文章が荒っぽく、既成作家が才能にまかせて書きまくったという感じがしないでもない。」「半ばあたりから飽きてきた。面白いが虚しさが残る。」
中山可穂
女41歳
8 「冒頭の作品が新鮮だっただけに、鮮度が落ちると魅力がない。伊都子の便を排泄させる場面など、男女ならもっと感動的に描けるのではないかと感じた。」
松井今朝子
女48歳
12 「芝居を知らない読者には長過ぎる。」「殺人事件を盛り込み読者を引っ張ろうとしたようだが、この描き方では読者は混乱するばかりである。」
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他の選考委員
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選考委員
林真理子女48歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
生きることのせつなさ 総行数97 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
乙川優三郎
男49歳
21 「読んだ時、これで受賞は間違いないだろうという確信を持った。」「それまでの候補作に見られた気取りが消え、端正な文章が一層冴えている。特に心をうったのは「安穏河原」で、生きることのせつなさが見事に表現されている。」
宇江佐真理
女52歳
9 「最後の方はほろりとさせられるものの、そこに行きつくまでかなり退屈を強いられる。」「この小説はそれほどの魅力もないように思われる。」
江國香織
女38歳
17 「繊細で美しく、若い女性に人気があるのはとてもよくわかる。けれども私のように、小説というのは登場人物の心にムーブメントを起こし、それを描写していくものだと思っている者にとっては、とても物足りない。この物足りなさが、現代であり、若い女性が求めたものだとわかっていても、私は納得出来ない。」
奥田英朗
男42歳
10 「奥田さんのはちゃめちゃさが、大好きである。」「けれど今回の作品は少々弱かった。前作の方がはるかに面白い。」
中山可穂
女41歳
31 「中山さんのデビュー作は、私が選考委員をつとめていたある新人賞であった。(引用者中略)この時の中山さんの小説は、キラキラとした輝きに溢れ、同時にガラス細工のような脆さを持っていた。」「久しぶりに読んだ中山さんの小説は、既に「売り」を前面に押し出していた。」「私を驚かせうならせた、あのガラス細工の趣は失くなっていた。(引用者中略)私はとてもがっかりしている。」
松井今朝子
女48歳
9 「前半はひと息に読めた。ところが後半のつまらなさはどうしたことであろう。ミステリーとしても破綻しているし、ここで登場人物たちがいっせいに精彩を失くす。」
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平岩弓枝
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選考委員
津本陽男73歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
余韻がある 総行数74 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
乙川優三郎
男49歳
22 「江戸時代に生きた男女の切実な人生を陰影ふかくえがいた秀作である。」「不幸な境遇を耐える人々が、感慨をこめて低い声音でうたう、追分の旋律のようなものがうねっているような、余韻のある作品だ。」「この作品集の受賞に、心から賛成する。」
宇江佐真理
女52歳
7 「作者の力倆が復活の過程にある作品のように思った。疵をいえばたしかにあるが、読者を離さない「引き」のようなものが、ふたたびあらわれてきているように思った。」
江國香織
女38歳
10 「細部に心配りのゆきとどいた繊細な、短篇集である。この作者の特徴は、一篇ごとに切れ味のいい締めくくりかたをしていることであろう。」
奥田英朗
男42歳
11 「大病院の総領息子の精神科医というのが、非常に興味を持たされる人物で、患者もそれぞれ、実におもしろい。」「小説としては楽しめた。もっと書きこんだら、様変りして重みが出てくるかも知れないと思わされた。」
中山可穂
女41歳
6 「全篇に作者の精力が満ちわたり、大輪の花弁をひらいた花のような派手な感じがする。つよさというか、いさぎよさというか、その点は買う。」
松井今朝子
女48歳
18 「内容にくらべ、分量が多いという難点があるので、まとまりがよくないが、決しておもしろくない小説ではない。」「ちょっと飽きかけてくると、はっと引き戻されるような、巧みな場面の描写と表現が光彩を放ってあらわれてくる。」
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選考委員
渡辺淳一男68歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
たしかな力量 総行数79 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
乙川優三郎
男49歳
29 「きわだつ視点や鋭利な切り込みはないが、かわりに安心して読める手堅さがある。とくにこれまで候補になった長篇では、小説がパターン化して単調になる嫌いがあったが、今回は短篇集になった分だけ、一篇一篇が引き締って、印象が鮮やかである。」「真っ当なものを真っ当に書く、その力量はたしかで、経歴からいっても当然の受賞である。」
宇江佐真理
女52歳
3 「小説としての粗さが目立ち、」
江國香織
女38歳
16 「シャープで、かつ飛躍的な言葉で、現代の若者をとらえて刺激的である。だが、いずれも過去からいまの状態を描いているだけで、いまから未来へ発進しない。」「小説はやはり、いまから未来へ動くべきで、その間の人間や人生のうねりと実感を描かなければ、散文の本当の強さは生まれてこないだろう。」
奥田英朗
男42歳
10 「作者の意図が見えすぎて、いささかあざとすぎる。「勃ちっ放し」などはとくにおふざけをこして下司で、この種のことを書くときはもう少し勉強して、真摯に書くべきだろう。」
中山可穂
女41歳
18 「わたしは面白く読んだ。基本的にレズビアンの小説で、そのリアリティの濃密さは当然のことだが、同時に転がりこんできたヒロシや、「偽アマント」の中年の男などもよく描けている。しかし、これらさまざまな事件のあとに、「やはりあいつでなくては駄目なのだ」と呟くだけでは、いかにも弱すぎる。」
松井今朝子
女48歳
4 「これだけの長さと舞台装置で、この程度の推理小説では軽すぎる。」
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他の選考委員
黒岩重吾
林真理子
津本陽
阿刀田高
田辺聖子
宮城谷昌光
五木寛之
北方謙三
平岩弓枝
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選考委員
阿刀田高男67歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
一つの到達点 総行数105 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
乙川優三郎
男49歳
22 「デビュー以来数年を経て、一つの到達点に達したように感じられた。暗く、つらい筋運びはこの作家の特徴だが、その中から人生についてのサムシングがほの見えてくる、それが深い味わいにまで昇華している。とりわけ第三作〈早梅記〉に強い感動を覚えた。」
宇江佐真理
女52歳
14 「巧みではあるけれど(あえて強い言い方をすれば)安直なものを感じてしまった。」「大人の鑑賞には鼻白むところがなきにしもあらず。どうかもう少し慎重に、そして高いところを目ざしてほしい、と願った。」
江國香織
女38歳
18 「一つの完成品である。あかぬけた感性、巧みな表現、目線の確かさ、どれもみごとである。が、スケッチに留まって、小説としての深さに不足を感じてしまう。」「私には直木賞はもっとストーリー性豊かなものであってほしい、という願いがある。受賞に到らなかったのは小説観のちがいかもしれない。」
奥田英朗
男42歳
29 「軽く読むことができたが、残念ながら私にはじみじみと楽しむというわけにはいかなかった。」「読者の笑いを取ることに傾斜し、現代の病理をえぐる鋭さが薄れた、ということだろうか。それをことさらに言うのは野暮であり、この作品を好編とする他の委員の意見にも納得できるところがあったけれど、やはり今回は見送りのほうへ傾いた。」
中山可穂
女41歳
10 「端倪すべからざる筆力を感じた。」「厚化粧に映る表現もないではないけれど文章への関心とセンスのよさが頼もしい。いずれしなやかな名文を次々に示してくれることだろう。」
松井今朝子
女48歳
13 「力わざであり、小説の構築を充分に感じさせながら、その反面で過不足が目立った。」「多彩ではあったが、小説として、――どこをどう楽しんだらよいのかなァ――と苦渋してしまう。もう一息、と思った。」
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他の選考委員
黒岩重吾
林真理子
津本陽
渡辺淳一
田辺聖子
宮城谷昌光
五木寛之
北方謙三
平岩弓枝
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選考委員
田辺聖子女74歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
時代小説の夢 総行数114 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
乙川優三郎
男49歳
41 「よくできた時代小説には、読者を没入させる熱気と、それを中和する滋味、そして綿密な構成による論理性の説得力がある。」「(引用者注:表題作「生きる」は)まさしくそれで、私はこの、地味で手堅い“時代小説”にすっかり魅了された。」「山本周五郎さんでもなく、藤沢周平さんでもない、新しい時代の、新しい〈時代小説〉の誕生に居合せた、という嬉しい衝撃を与えられた。」
宇江佐真理
女52歳
13 「興味のもてる設定だが、お話に身(原文傍点)が入りすぎて、どこか、人情ものもどき、捕物帖ものもどき(原文傍点)というもどかしさが残念だった。しかし江戸の仕立屋なんて、はじめて小説で読んで面白かった。」
江國香織
女38歳
24 「ビーズのように、きらきらした美しい短篇が詰っている。」「こういう小説を待っている読者はいつの時代にもいるし、供給する作家もいるのは、私は、すてきだと思うものだ。」「でもそのうち、ヒロインたちは漠然とした不満がかたまり、快適さの靄を息で吹き払いたくなるかもしれない。」「展開を期待している。」
奥田英朗
男42歳
15 「脂ののりきった作者が、手練の手並みもあざやかに、という清新溌剌たる印象。いやあ、笑ってしまった。」「カルチャーショックという上品なものでも諷刺小説というでもなく、とても巧い落語みたい、ただこの落語のオチはつけにくく、そこがまたいい、というところ。」
中山可穂
女41歳
11 「面白い小説集だけど、何かをどっかへ取り落したような、前のページをめくり返して捜すような気のする本だ。文章も明晰だけれど。レズ小説とはそういうものかもしれない。」
松井今朝子
女48歳
10 「入り組んで人間関係がややこしい。」「歌舞伎の絢爛のうらの暗部が鋭く描かれていて面白かったが、印象としては大鍋にごった煮の材料、という感じで勿体ない。」
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他の選考委員
黒岩重吾
林真理子
津本陽
渡辺淳一
阿刀田高
宮城谷昌光
五木寛之
北方謙三
平岩弓枝
井上ひさし
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選考委員
宮城谷昌光男57歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
意欲と表現 総行数110 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
乙川優三郎
男49歳
19 「用心深い作品であるように感じられた。」「その作品(引用者注:「蔓の端々」)からこの作品まで、氏は何かをつらぬいてきたのであり、その努力と研鑽は私の想像のおよばぬものであろう。」
宇江佐真理
女52歳
0  
江國香織
女38歳
15 「(引用者注:この小説の)なかにある語句は時間を包含しているのである。」「江國氏の文からは時の厚みを感じる」
奥田英朗
男42歳
30 「まえの候補作品の『邪魔』には隠微な笑いがあった。が、今回は笑いが顕現した。」「それは氏のなかにバランスのよい客観性が生じたからであろうと推察している。克己があったのではないか。ゆえに、氏は読者に一歩も二歩も近づいたのであり、小説の愉しさが幅をひろげたのである。」「これほどの才能が受賞という光を浴びなかったのは、解せず、私は廓如とした気分になった。」
中山可穂
女41歳
45 「非現実が、現実以上に現実であるというのが、卓越した小説なのであろうが、ここでは非現実がそのままの形と力で残っている。」「もっとも読みやすかったのは、「偽アマント」である。(引用者中略)ほかの作品は作者の意欲の旺盛さと表現の熟成に差があることは明瞭である。」「作者が小説に用いる語句を凝視する時間が短すぎるということではないか。」
松井今朝子
女48歳
0  
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他の選考委員
黒岩重吾
林真理子
津本陽
渡辺淳一
阿刀田高
田辺聖子
五木寛之
北方謙三
平岩弓枝
井上ひさし
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選考委員
五木寛之男69歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
読みごたえのある候補作揃い 総行数73 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
乙川優三郎
男49歳
8 「技術的な安定感と作家としての誠実さには感心しつつも、どことなく印象が薄く、積極的に推すにはいたらなかった。」
宇江佐真理
女52歳
13 「小説家としてむずかしい所へきているように思う。最初に候補になった作品に強く惹かれたこともあって、近作がいずれもお手軽に感じられて残念である。」
江國香織
女38歳
15 「興味ぶかく読んだ」「詩人としての才能が小説を書く上でマイナスになっていない、めずらしい作家である。」「すでに山本周五郎賞を受けていることもあって受賞を逸したが、それもまたこの人らしいという思いもあった。私は好きな作品である。」
奥田英朗
男42歳
10 「興味ぶかく読んだ」「非常に惹かれる部分と、首をかしげる部分とがあったが、(引用者中略)才能のある書き手だと思う。」
中山可穂
女41歳
10 「興味ぶかく読んだ」「非常に惹かれる部分と、首をかしげる部分とがあったが、(引用者中略)才能のある書き手だと思う。」
松井今朝子
女48歳
19 「興味ぶかく読んだ」「当選作となって少しも不思議でない作品である。」「これをミステリーとして読めば、幾分の不満もあろうが、江戸時代を背景にした風俗小説として読めば抜群のおもしろさである。章のはじめに引用される文章も卓抜な批評性を感じさせて、私は今回随一の力作だったと思っている。」
  「今回の選考会は、非常に長い時間がかかった。」「ひとつひとつの候補作について、順番に、丹念すぎるほどの感想を語りあっていたために時間をついやしただけのことである。」
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他の選考委員
黒岩重吾
林真理子
津本陽
渡辺淳一
阿刀田高
田辺聖子
宮城谷昌光
北方謙三
平岩弓枝
井上ひさし
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選考委員
北方謙三男54歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
さまざまな傾向 総行数123 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
乙川優三郎
男49歳
16 「文体、構成ともに完成された手腕を感じさせた。全篇に漂う哀切な情感は、紛れもなく小説というかたちで表現されるべきものである。作者が人を見つめる視線に、私は共感を抱かずにはいられなかった。小説としての格調も、申し分ない。」
宇江佐真理
女52歳
18 「達者な作品であった。」「私はある種の夫婦小説として読んだ。権佐の命が遠からず絶えていくということが、夫婦間にある緊張感を持たせ、作品全体を引き締めている。」「しかし、岡っ引きに手札を渡すのが、町奉行所の与力というような間違いは、気をつけて欲しいと思った。」
江國香織
女38歳
14 「才気に満ちた、洒落た小説である。」「鋭さも抑制されているので、短篇のいいところが嫌味なく出ていた。小説世界として私は肯定したが、泥臭い情況を潜ったのちの境地、という要素がいくらかは欲しかったという気がした。」
奥田英朗
男42歳
28 「読む者を引きつけて、一気に最後まで連れていってしまう、という面白さを持っていた。」「伊良部は一作ごとに存在感を増し、途中から主人公という感じになる。ただ、いつまでも同調装置であり、伊良部の持つ、心を打つほどの偏執性の描写が、不足しているとしか思えなかった。」
中山可穂
女41歳
17 「私は普通の恋愛小説として読んだ。」「少数派としての意見が生のまま出されているところは、うるさく感じた。作者は、構えず、もっとさりげなく書いた方がよかったのではないだろうか。文体は新鮮で鋭敏であったが、ところどころ穴が見えた。」
松井今朝子
女48歳
16 「ミステリーとして評価することはできない。江戸の芝居小屋の話、役者の世界を書いたものだと解釈した。ならば、別のやり方があったと思う。」「該博な知識を駆使し、描写を塗りかためていく。そこに力はあるのだが、描写の濃淡がないので、重たいという感じも受けてしまった。」
  「候補作を読み終えるたびに、私はいつもそのレベルに対して、ある種の安堵感を覚える。」「ちょっと元気がないのは出版という業界であり、小説は衰弱などしていない、という思いを強くするのである。」
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田辺聖子
宮城谷昌光
五木寛之
平岩弓枝
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選考委員
平岩弓枝女70歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
弱さを描く 総行数84 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
乙川優三郎
男49歳
45 「乙川さんは人間の弱い面を描くのが巧い。」「強いほうには目もくれず、ひたすら人間の弱い部分に取り組み続けたようで、それがいつの間にか乙川さんの作品の抒情性の根っこになったような気がする。」「いつの間にか乙川さんは暗さの中の明るさを捕えるのが巧みになっていた。弱さの中の強さを具体的に描く意志を持たれたようだ。鬼に金棒である。」
宇江佐真理
女52歳
6 「もう一度、初心に戻って、作家としての自分に忠実な作品を志して頂けないものか。書ける作家だけに残念でならない。」
江國香織
女38歳
10 「受賞されなかった候補作の中で、もっともインパクトが強かった」「凄い才能をオブラートに包んでさらりと読ませるところが、また凄い。」
奥田英朗
男42歳
11 「受賞されなかった候補作の中で、もっともインパクトが強かった」「軽く書いているようにみせて、実は重いテーマを洒落た切りくちで読ませてくれた。直木賞にふさわしくないという意見もあったが、私はこういう作品が直木賞になってもよいと思っている。」
中山可穂
女41歳
4 「才筆はうかがわれるが、これだけ似た設定が続くといささか退屈する。」
松井今朝子
女48歳
11 「松井さんでなければ書けない作品で、各章の作り方、人物の配置など凝った趣向が楽しい。」「ミステリーとして書く以外の方法はなかったかと思う。」
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宮城谷昌光
五木寛之
北方謙三
井上ひさし
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選考委員
井上ひさし男67歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
小説の勝利 総行数215 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
乙川優三郎
男49歳
39 「(引用者注:「イン・ザ・プール」と)もう一つ、一番に推したのは、『生きる』(乙川優三郎)に収められた「安穏河原」という短篇、これもまたすばらしい作品である。」「母子二代にわたる二つの川岸の光景=記憶は、読者をこころからしあわせにし、同時に、人生の深みへ誘いもする。こんなことは他の表現方法ではできない。これこそ小説の勝利である。」
宇江佐真理
女52歳
35 「死を予定された主人公による捕物小説である。」「最初から先の楽しみを奪われているので、はなはだ気分の乗らない、景気の悪い小説になってしまった。」「どう読もうとも、〈江戸の蘭方女医〉という設定が大きな謎として読者に重くのしかかってくる。なぜなら江戸に蘭方女医は存在しなかったというのが本邦医学史の常識だからだ。」
江國香織
女38歳
33 「短篇集というより、スケッチ集成といった方が適切かもしれない。共通しているのは、一人称の語りによる「わたし、わたし」の大安売り。」「若い人たちの夢の報告書として意味があるかもしれないし、文章の快い速度感があって、そこに豊かな才能を感じはするものの、あまりの作意のなさと自己批評の乏しさに半ば呆然とせざるを得ない。」
奥田英朗
男42歳
45 「現代人の病患を、恐るべき作意ときびしい自己凝視によって、みごとな作品に仕上げている。」「診る者と診られる者の逆転が、毎回、大量の笑いと良質の社会風刺を生む。じつに上等な滑稽小説で、この連作集を一番に推した。」
中山可穂
女41歳
30 「作者が小説的膂力を十分に備えた書き手であることにはまちがいない。五篇のなかでは、「鶴」がとくに興味深い。」「しかし、この主題で長いもの、物語性に富むものを書くのはむずかしそうだ。その好例が「燦雨」で、物語が紙切れのように薄っぺらになっている。」
松井今朝子
女48歳
36 「〈狂言台本は数人の作者が分担して書くのが通例なのに、なぜ作者が一人しかいないように書かれているのか〉という謎が、やはり読者に重くのしかかってくるわけだ。ところが、それにたいして何の答も返ってこない。」「「芸術を普通の倫理で裁いてはならぬ」という主題がとても巧く展開しているだけに、狂言作者部屋の謎をすっきり説明してくれていたらと、口惜しくてならない。」
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他の選考委員
黒岩重吾
林真理子
津本陽
渡辺淳一
阿刀田高
田辺聖子
宮城谷昌光
五木寛之
北方謙三
平岩弓枝
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受賞者・作品
乙川優三郎男49歳×各選考委員 
『生きる』
短篇集3篇 372
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒岩重吾
男78歳
43 「最も優れていた。主人公をも含めた周囲の人々の呻吟が、地上を覆った枯葉の下から自然に聞えてくる。」「今回の作品で氏は見事に脱皮した。周囲の人物像にも目配りを怠らず、肌理細かく描いた結果、情感が違和感なく響き合い、人間の業が持つ侘しさ醜さを浮き彫りにした。」「何よりも感心したのは、三作とも手抜きがなく、まさに入魂の作品であることだ。」
林真理子
女48歳
21 「読んだ時、これで受賞は間違いないだろうという確信を持った。」「それまでの候補作に見られた気取りが消え、端正な文章が一層冴えている。特に心をうったのは「安穏河原」で、生きることのせつなさが見事に表現されている。」
津本陽
男73歳
22 「江戸時代に生きた男女の切実な人生を陰影ふかくえがいた秀作である。」「不幸な境遇を耐える人々が、感慨をこめて低い声音でうたう、追分の旋律のようなものがうねっているような、余韻のある作品だ。」「この作品集の受賞に、心から賛成する。」
渡辺淳一
男68歳
29 「きわだつ視点や鋭利な切り込みはないが、かわりに安心して読める手堅さがある。とくにこれまで候補になった長篇では、小説がパターン化して単調になる嫌いがあったが、今回は短篇集になった分だけ、一篇一篇が引き締って、印象が鮮やかである。」「真っ当なものを真っ当に書く、その力量はたしかで、経歴からいっても当然の受賞である。」
阿刀田高
男67歳
22 「デビュー以来数年を経て、一つの到達点に達したように感じられた。暗く、つらい筋運びはこの作家の特徴だが、その中から人生についてのサムシングがほの見えてくる、それが深い味わいにまで昇華している。とりわけ第三作〈早梅記〉に強い感動を覚えた。」
田辺聖子
女74歳
41 「よくできた時代小説には、読者を没入させる熱気と、それを中和する滋味、そして綿密な構成による論理性の説得力がある。」「(引用者注:表題作「生きる」は)まさしくそれで、私はこの、地味で手堅い“時代小説”にすっかり魅了された。」「山本周五郎さんでもなく、藤沢周平さんでもない、新しい時代の、新しい〈時代小説〉の誕生に居合せた、という嬉しい衝撃を与えられた。」
宮城谷昌光
男57歳
19 「用心深い作品であるように感じられた。」「その作品(引用者注:「蔓の端々」)からこの作品まで、氏は何かをつらぬいてきたのであり、その努力と研鑽は私の想像のおよばぬものであろう。」
五木寛之
男69歳
8 「技術的な安定感と作家としての誠実さには感心しつつも、どことなく印象が薄く、積極的に推すにはいたらなかった。」
北方謙三
男54歳
16 「文体、構成ともに完成された手腕を感じさせた。全篇に漂う哀切な情感は、紛れもなく小説というかたちで表現されるべきものである。作者が人を見つめる視線に、私は共感を抱かずにはいられなかった。小説としての格調も、申し分ない。」
平岩弓枝
女70歳
45 「乙川さんは人間の弱い面を描くのが巧い。」「強いほうには目もくれず、ひたすら人間の弱い部分に取り組み続けたようで、それがいつの間にか乙川さんの作品の抒情性の根っこになったような気がする。」「いつの間にか乙川さんは暗さの中の明るさを捕えるのが巧みになっていた。弱さの中の強さを具体的に描く意志を持たれたようだ。鬼に金棒である。」
井上ひさし
男67歳
39 「(引用者注:「イン・ザ・プール」と)もう一つ、一番に推したのは、『生きる』(乙川優三郎)に収められた「安穏河原」という短篇、これもまたすばらしい作品である。」「母子二代にわたる二つの川岸の光景=記憶は、読者をこころからしあわせにし、同時に、人生の深みへ誘いもする。こんなことは他の表現方法ではできない。これこそ小説の勝利である。」
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他の候補作
宇江佐真理
『斬られ権佐』
江國香織
『泳ぐのに、安全でも
適切でもありません』
奥田英朗
『イン・ザ・プール』
中山可穂
『花伽藍』
松井今朝子
『非道、行ずべからず』
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候補者・作品
宇江佐真理女52歳×各選考委員 
『斬られ権佐』
連作6篇 486
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒岩重吾
男78歳
9 「八十八ヶ所も斬られ、動くにもやっとという身体では、権佐に乗れない。私は権佐に付いてゆくことに疲れた。」
林真理子
女48歳
9 「最後の方はほろりとさせられるものの、そこに行きつくまでかなり退屈を強いられる。」「この小説はそれほどの魅力もないように思われる。」
津本陽
男73歳
7 「作者の力倆が復活の過程にある作品のように思った。疵をいえばたしかにあるが、読者を離さない「引き」のようなものが、ふたたびあらわれてきているように思った。」
渡辺淳一
男68歳
3 「小説としての粗さが目立ち、」
阿刀田高
男67歳
14 「巧みではあるけれど(あえて強い言い方をすれば)安直なものを感じてしまった。」「大人の鑑賞には鼻白むところがなきにしもあらず。どうかもう少し慎重に、そして高いところを目ざしてほしい、と願った。」
田辺聖子
女74歳
13 「興味のもてる設定だが、お話に身(原文傍点)が入りすぎて、どこか、人情ものもどき、捕物帖ものもどき(原文傍点)というもどかしさが残念だった。しかし江戸の仕立屋なんて、はじめて小説で読んで面白かった。」
宮城谷昌光
男57歳
0  
五木寛之
男69歳
13 「小説家としてむずかしい所へきているように思う。最初に候補になった作品に強く惹かれたこともあって、近作がいずれもお手軽に感じられて残念である。」
北方謙三
男54歳
18 「達者な作品であった。」「私はある種の夫婦小説として読んだ。権佐の命が遠からず絶えていくということが、夫婦間にある緊張感を持たせ、作品全体を引き締めている。」「しかし、岡っ引きに手札を渡すのが、町奉行所の与力というような間違いは、気をつけて欲しいと思った。」
平岩弓枝
女70歳
6 「もう一度、初心に戻って、作家としての自分に忠実な作品を志して頂けないものか。書ける作家だけに残念でならない。」
井上ひさし
男67歳
35 「死を予定された主人公による捕物小説である。」「最初から先の楽しみを奪われているので、はなはだ気分の乗らない、景気の悪い小説になってしまった。」「どう読もうとも、〈江戸の蘭方女医〉という設定が大きな謎として読者に重くのしかかってくる。なぜなら江戸に蘭方女医は存在しなかったというのが本邦医学史の常識だからだ。」
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他の候補作
乙川優三郎
『生きる』
江國香織
『泳ぐのに、安全でも
適切でもありません』
奥田英朗
『イン・ザ・プール』
中山可穂
『花伽藍』
松井今朝子
『非道、行ずべからず』
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候補者・作品
江國香織女38歳×各選考委員 
『泳ぐのに、安全でも
適切でもありません』
短篇集10篇 235
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒岩重吾
男78歳
9 「現代の若者の感性が光っている。」「ただラストの方の作品はエッセイで小説とはいえない。私としては本短篇集を候補作品として真剣に論ずる気にはなれなかった。」
林真理子
女48歳
17 「繊細で美しく、若い女性に人気があるのはとてもよくわかる。けれども私のように、小説というのは登場人物の心にムーブメントを起こし、それを描写していくものだと思っている者にとっては、とても物足りない。この物足りなさが、現代であり、若い女性が求めたものだとわかっていても、私は納得出来ない。」
津本陽
男73歳
10 「細部に心配りのゆきとどいた繊細な、短篇集である。この作者の特徴は、一篇ごとに切れ味のいい締めくくりかたをしていることであろう。」
渡辺淳一
男68歳
16 「シャープで、かつ飛躍的な言葉で、現代の若者をとらえて刺激的である。だが、いずれも過去からいまの状態を描いているだけで、いまから未来へ発進しない。」「小説はやはり、いまから未来へ動くべきで、その間の人間や人生のうねりと実感を描かなければ、散文の本当の強さは生まれてこないだろう。」
阿刀田高
男67歳
18 「一つの完成品である。あかぬけた感性、巧みな表現、目線の確かさ、どれもみごとである。が、スケッチに留まって、小説としての深さに不足を感じてしまう。」「私には直木賞はもっとストーリー性豊かなものであってほしい、という願いがある。受賞に到らなかったのは小説観のちがいかもしれない。」
田辺聖子
女74歳
24 「ビーズのように、きらきらした美しい短篇が詰っている。」「こういう小説を待っている読者はいつの時代にもいるし、供給する作家もいるのは、私は、すてきだと思うものだ。」「でもそのうち、ヒロインたちは漠然とした不満がかたまり、快適さの靄を息で吹き払いたくなるかもしれない。」「展開を期待している。」
宮城谷昌光
男57歳
15 「(引用者注:この小説の)なかにある語句は時間を包含しているのである。」「江國氏の文からは時の厚みを感じる」
五木寛之
男69歳
15 「興味ぶかく読んだ」「詩人としての才能が小説を書く上でマイナスになっていない、めずらしい作家である。」「すでに山本周五郎賞を受けていることもあって受賞を逸したが、それもまたこの人らしいという思いもあった。私は好きな作品である。」
北方謙三
男54歳
14 「才気に満ちた、洒落た小説である。」「鋭さも抑制されているので、短篇のいいところが嫌味なく出ていた。小説世界として私は肯定したが、泥臭い情況を潜ったのちの境地、という要素がいくらかは欲しかったという気がした。」
平岩弓枝
女70歳
10 「受賞されなかった候補作の中で、もっともインパクトが強かった」「凄い才能をオブラートに包んでさらりと読ませるところが、また凄い。」
井上ひさし
男67歳
33 「短篇集というより、スケッチ集成といった方が適切かもしれない。共通しているのは、一人称の語りによる「わたし、わたし」の大安売り。」「若い人たちの夢の報告書として意味があるかもしれないし、文章の快い速度感があって、そこに豊かな才能を感じはするものの、あまりの作意のなさと自己批評の乏しさに半ば呆然とせざるを得ない。」
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他の候補作
乙川優三郎
『生きる』
宇江佐真理
『斬られ権佐』
奥田英朗
『イン・ザ・プール』
中山可穂
『花伽藍』
松井今朝子
『非道、行ずべからず』
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候補者・作品
奥田英朗男42歳×各選考委員 
『イン・ザ・プール』
連作5篇 437
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒岩重吾
男78歳
15 「面白く読めた。」「ただ直木賞の作品にしては文章が荒っぽく、既成作家が才能にまかせて書きまくったという感じがしないでもない。」「半ばあたりから飽きてきた。面白いが虚しさが残る。」
林真理子
女48歳
10 「奥田さんのはちゃめちゃさが、大好きである。」「けれど今回の作品は少々弱かった。前作の方がはるかに面白い。」
津本陽
男73歳
11 「大病院の総領息子の精神科医というのが、非常に興味を持たされる人物で、患者もそれぞれ、実におもしろい。」「小説としては楽しめた。もっと書きこんだら、様変りして重みが出てくるかも知れないと思わされた。」
渡辺淳一
男68歳
10 「作者の意図が見えすぎて、いささかあざとすぎる。「勃ちっ放し」などはとくにおふざけをこして下司で、この種のことを書くときはもう少し勉強して、真摯に書くべきだろう。」
阿刀田高
男67歳
29 「軽く読むことができたが、残念ながら私にはじみじみと楽しむというわけにはいかなかった。」「読者の笑いを取ることに傾斜し、現代の病理をえぐる鋭さが薄れた、ということだろうか。それをことさらに言うのは野暮であり、この作品を好編とする他の委員の意見にも納得できるところがあったけれど、やはり今回は見送りのほうへ傾いた。」
田辺聖子
女74歳
15 「脂ののりきった作者が、手練の手並みもあざやかに、という清新溌剌たる印象。いやあ、笑ってしまった。」「カルチャーショックという上品なものでも諷刺小説というでもなく、とても巧い落語みたい、ただこの落語のオチはつけにくく、そこがまたいい、というところ。」
宮城谷昌光
男57歳
30 「まえの候補作品の『邪魔』には隠微な笑いがあった。が、今回は笑いが顕現した。」「それは氏のなかにバランスのよい客観性が生じたからであろうと推察している。克己があったのではないか。ゆえに、氏は読者に一歩も二歩も近づいたのであり、小説の愉しさが幅をひろげたのである。」「これほどの才能が受賞という光を浴びなかったのは、解せず、私は廓如とした気分になった。」
五木寛之
男69歳
10 「興味ぶかく読んだ」「非常に惹かれる部分と、首をかしげる部分とがあったが、(引用者中略)才能のある書き手だと思う。」
北方謙三
男54歳
28 「読む者を引きつけて、一気に最後まで連れていってしまう、という面白さを持っていた。」「伊良部は一作ごとに存在感を増し、途中から主人公という感じになる。ただ、いつまでも同調装置であり、伊良部の持つ、心を打つほどの偏執性の描写が、不足しているとしか思えなかった。」
平岩弓枝
女70歳
11 「受賞されなかった候補作の中で、もっともインパクトが強かった」「軽く書いているようにみせて、実は重いテーマを洒落た切りくちで読ませてくれた。直木賞にふさわしくないという意見もあったが、私はこういう作品が直木賞になってもよいと思っている。」
井上ひさし
男67歳
45 「現代人の病患を、恐るべき作意ときびしい自己凝視によって、みごとな作品に仕上げている。」「診る者と診られる者の逆転が、毎回、大量の笑いと良質の社会風刺を生む。じつに上等な滑稽小説で、この連作集を一番に推した。」
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他の候補作
乙川優三郎
『生きる』
宇江佐真理
『斬られ権佐』
江國香織
『泳ぐのに、安全でも
適切でもありません』
中山可穂
『花伽藍』
松井今朝子
『非道、行ずべからず』
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候補者・作品
中山可穂女41歳×各選考委員 
『花伽藍』
短篇集5篇 364
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒岩重吾
男78歳
8 「冒頭の作品が新鮮だっただけに、鮮度が落ちると魅力がない。伊都子の便を排泄させる場面など、男女ならもっと感動的に描けるのではないかと感じた。」
林真理子
女48歳
31 「中山さんのデビュー作は、私が選考委員をつとめていたある新人賞であった。(引用者中略)この時の中山さんの小説は、キラキラとした輝きに溢れ、同時にガラス細工のような脆さを持っていた。」「久しぶりに読んだ中山さんの小説は、既に「売り」を前面に押し出していた。」「私を驚かせうならせた、あのガラス細工の趣は失くなっていた。(引用者中略)私はとてもがっかりしている。」
津本陽
男73歳
6 「全篇に作者の精力が満ちわたり、大輪の花弁をひらいた花のような派手な感じがする。つよさというか、いさぎよさというか、その点は買う。」
渡辺淳一
男68歳
18 「わたしは面白く読んだ。基本的にレズビアンの小説で、そのリアリティの濃密さは当然のことだが、同時に転がりこんできたヒロシや、「偽アマント」の中年の男などもよく描けている。しかし、これらさまざまな事件のあとに、「やはりあいつでなくては駄目なのだ」と呟くだけでは、いかにも弱すぎる。」
阿刀田高
男67歳
10 「端倪すべからざる筆力を感じた。」「厚化粧に映る表現もないではないけれど文章への関心とセンスのよさが頼もしい。いずれしなやかな名文を次々に示してくれることだろう。」
田辺聖子
女74歳
11 「面白い小説集だけど、何かをどっかへ取り落したような、前のページをめくり返して捜すような気のする本だ。文章も明晰だけれど。レズ小説とはそういうものかもしれない。」
宮城谷昌光
男57歳
45 「非現実が、現実以上に現実であるというのが、卓越した小説なのであろうが、ここでは非現実がそのままの形と力で残っている。」「もっとも読みやすかったのは、「偽アマント」である。(引用者中略)ほかの作品は作者の意欲の旺盛さと表現の熟成に差があることは明瞭である。」「作者が小説に用いる語句を凝視する時間が短すぎるということではないか。」
五木寛之
男69歳
10 「興味ぶかく読んだ」「非常に惹かれる部分と、首をかしげる部分とがあったが、(引用者中略)才能のある書き手だと思う。」
北方謙三
男54歳
17 「私は普通の恋愛小説として読んだ。」「少数派としての意見が生のまま出されているところは、うるさく感じた。作者は、構えず、もっとさりげなく書いた方がよかったのではないだろうか。文体は新鮮で鋭敏であったが、ところどころ穴が見えた。」
平岩弓枝
女70歳
4 「才筆はうかがわれるが、これだけ似た設定が続くといささか退屈する。」
井上ひさし
男67歳
30 「作者が小説的膂力を十分に備えた書き手であることにはまちがいない。五篇のなかでは、「鶴」がとくに興味深い。」「しかし、この主題で長いもの、物語性に富むものを書くのはむずかしそうだ。その好例が「燦雨」で、物語が紙切れのように薄っぺらになっている。」
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他の候補作
乙川優三郎
『生きる』
宇江佐真理
『斬られ権佐』
江國香織
『泳ぐのに、安全でも
適切でもありません』
奥田英朗
『イン・ザ・プール』
松井今朝子
『非道、行ずべからず』
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候補者・作品
松井今朝子女48歳×各選考委員 
『非道、行ずべからず』
長篇 911
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒岩重吾
男78歳
12 「芝居を知らない読者には長過ぎる。」「殺人事件を盛り込み読者を引っ張ろうとしたようだが、この描き方では読者は混乱するばかりである。」
林真理子
女48歳
9 「前半はひと息に読めた。ところが後半のつまらなさはどうしたことであろう。ミステリーとしても破綻しているし、ここで登場人物たちがいっせいに精彩を失くす。」
津本陽
男73歳
18 「内容にくらべ、分量が多いという難点があるので、まとまりがよくないが、決しておもしろくない小説ではない。」「ちょっと飽きかけてくると、はっと引き戻されるような、巧みな場面の描写と表現が光彩を放ってあらわれてくる。」
渡辺淳一
男68歳
4 「これだけの長さと舞台装置で、この程度の推理小説では軽すぎる。」
阿刀田高
男67歳
13 「力わざであり、小説の構築を充分に感じさせながら、その反面で過不足が目立った。」「多彩ではあったが、小説として、――どこをどう楽しんだらよいのかなァ――と苦渋してしまう。もう一息、と思った。」
田辺聖子
女74歳
10 「入り組んで人間関係がややこしい。」「歌舞伎の絢爛のうらの暗部が鋭く描かれていて面白かったが、印象としては大鍋にごった煮の材料、という感じで勿体ない。」
宮城谷昌光
男57歳
0  
五木寛之
男69歳
19 「興味ぶかく読んだ」「当選作となって少しも不思議でない作品である。」「これをミステリーとして読めば、幾分の不満もあろうが、江戸時代を背景にした風俗小説として読めば抜群のおもしろさである。章のはじめに引用される文章も卓抜な批評性を感じさせて、私は今回随一の力作だったと思っている。」
北方謙三
男54歳
16 「ミステリーとして評価することはできない。江戸の芝居小屋の話、役者の世界を書いたものだと解釈した。ならば、別のやり方があったと思う。」「該博な知識を駆使し、描写を塗りかためていく。そこに力はあるのだが、描写の濃淡がないので、重たいという感じも受けてしまった。」
平岩弓枝
女70歳
11 「松井さんでなければ書けない作品で、各章の作り方、人物の配置など凝った趣向が楽しい。」「ミステリーとして書く以外の方法はなかったかと思う。」
井上ひさし
男67歳
36 「〈狂言台本は数人の作者が分担して書くのが通例なのに、なぜ作者が一人しかいないように書かれているのか〉という謎が、やはり読者に重くのしかかってくるわけだ。ところが、それにたいして何の答も返ってこない。」「「芸術を普通の倫理で裁いてはならぬ」という主題がとても巧く展開しているだけに、狂言作者部屋の謎をすっきり説明してくれていたらと、口惜しくてならない。」
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他の候補作
乙川優三郎
『生きる』
宇江佐真理
『斬られ権佐』
江國香織
『泳ぐのに、安全でも
適切でもありません』
奥田英朗
『イン・ザ・プール』
中山可穂
『花伽藍』
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