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昭和63年/1988年下半期
(平成1年/1989年1月12日決定発表/『オール讀物』平成1年/1989年3月号選評掲載)
選考委員  田辺聖子
女60歳
黒岩重吾
男64歳
陳舜臣
男64歳
村上元三
男78歳
藤沢周平
男61歳
山口瞳
男62歳
平岩弓枝
女56歳
井上ひさし
男54歳
五木寛之
男56歳
渡辺淳一
男55歳
選評総行数  125 114 114 93 131 126 111 96 103 109
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
藤堂志津子 「熟れてゆく夏」
160
女39歳
27 22 26 14 19 84 9 38 27 30
杉本章子 『東京新大橋雨中図』
595
女35歳
10 19 43 11 23 52 12 32 28 20
佐々木譲 『ベルリン飛行指令』
865
男38歳
15 0 8 14 14 0 15 9 7 21
もりたなるお 『大空襲』
538
男63歳
17 22 8 8 22 0 15 12 7 13
笹倉明 『漂流裁判』
585
男40歳
10 0 6 8 13 0 13 11 9 13
堀和久 『夢空幻』
640
男57歳
15 9 13 17 14 0 17 9 10 0
古川薫 『正午位置』
272
男63歳
31 31 14 21 16 0 24 15 8 9
                   
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『オール讀物』平成1年/1989年3月号
1行当たりの文字数:13字


選考委員
田辺聖子女60歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
それぞれ力作 総行数125 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
藤堂志津子
女39歳
27 「むつかしいところである。小説としてはむつかしくないが、恐らく女性読者の反撥を買うんじゃないか、という所がある。しかし作者はあるいはそういう点をふまえた上で書かれたのかもしれない。」
杉本章子
女35歳
10 「均斉のとれた、気韻のある佳篇、時代と人間の転変があざやかに描かれ、その合間に、主人公・清親の描く絵の冴えた彩色が明滅する。文章もまことによく消化れ、神経がゆきとどき、それでいてのびやかである。」
佐々木譲
男38歳
15 「私は実に楽しく拝見した。手に汗にぎる冒険ロマンであるが、その背後にアジア近代史が点描されていて、よくできたエンターテインメント文学といえると思った。」「しかしゼロ戦の知識のない私には、事実関係の誤認を他委員に指摘されると、そこはよくわからないので、推す力が弱まるのは残念であった。」
もりたなるお
男63歳
17 「すべり出し好調、しかし龍頭蛇尾の感は拭えない。」「最後までもっと何か出るかと思っていると、ついに出なかった、という感じ。それならその代りに、道中の万般に井伏さんの「多甚古村」のような芸が欲しいところ。」
笹倉明
男40歳
10 「女がよく書けており、推理小説の域をこえて人間の追求という文学性を獲得している。私はこの小説を日本では未開拓(すでに二三の秀作も見られるが)の法廷小説・裁判小説の佳品として推したのだが、やや晦渋とうけとられて票を集めなかったのは惜しい。」
堀和久
男57歳
15 「主人公を編年体で描くのはこの小説の場合、如何なものか。」「しかし珍らしい素材で、いつものことながらこの作者の作品には情報がたっぷりある。ただそれが文学的感興や人生的共感へ盛り上がるには、ややパワー不足、という点が惜しい。」
古川薫
男63歳
31 「杉本氏の次に推した。南の島のやるせない気分が全篇に充溢し、私は女だけれども、女でしくじった男の、呆然自失のあいまいな幸福感がわかる気がした。」「一票差で受賞を逸したのは惜しかったが、これはいい小説でしたよ、古川さん。」
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選考委員
黒岩重吾男64歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
古川氏への未練 総行数114 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
藤堂志津子
女39歳
22 「私はこの作品は買わなかった。だが藤堂氏の才能を否定しているわけではない。」「私が今回の作品に酩酊出来なかったのは、人間の屑のような紀夫に雄が全く感じられなかったからである。」「もし紀夫に雄(女性を擲るという行為は雄とは関係がない)を感じることが出来たなら、この作品は凄いものになっていたような気がする。」
杉本章子
女35歳
19 「全く欠点のない作品である。」「明治維新後の浮世絵界や風俗が破綻なく描かれている。」「受賞に異論はないが、私の読後感は優等生の模範答案を見せられた、といったところである。人間の臍には垢がついていることを認識した時、この作家は大きく飛躍するのではないか。」
佐々木譲
男38歳
0  
もりたなるお
男63歳
22 「大空襲下の描写には迫真力がある。この作品も余り欠点のない作品だが読後感は弱い。例えば主人公が熊坂巡査と同じ交番にいるのなら必ず衝突し、火花を散らすようなドラマが展開する筈だが、この作品にはそれがない。」
笹倉明
男40歳
0  
堀和久
男57歳
9 「今日的なテーマでもあり狙いは良い。だが数多い参考文献をよく咀嚼せずに詰め込み過ぎているため、小説の面白さが薄れてしまった。また登場人物が多過ぎるためか、重要な退仲の人間が描かれていない。」
古川薫
男63歳
31 「比較的好感を持ち、今でも未練を抱いている」「私は面白く読んだ。面白さという点では随一だった。」「残念なのは漁業会社の出張所所長の勝呂の人物像が中途半端なことだ。(引用者中略)勝呂を書き込まないと、読者はこの面白い小説をもの足りない思いで読了せねばならない。好きな作品だけに惜しい。」
  「今回は受賞作も含め、標準に達した作品は多かったが、無我夢中で推したい作品は無かった。」
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選考委員
陳舜臣男64歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
安定の美 不安定の美 総行数114 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
藤堂志津子
女39歳
26 「このまえの候補作『マドンナのごとく』にくらべると、格段によくなっている。」「藤堂氏の文章は、読者をうまく乗せてしまうリズムがある。そのリズムに頼りすぎると危険ではあるまいか。リズムは常に変化しなければ平板になる。藤堂氏の作品の醸し出すふしぎな魅力は、不安定の美、であるかもしれない。」「安定していないというのは、大成の可能性が大きいという意味である。」
杉本章子
女35歳
43 「文章によけいな細工をして、ある効果をもたせようという意図はないのに、全体にやさしさがにじみ出る効果をもたらしている。それは杉本氏の折り目正しい文章と、すなおな語り口によるものなのだ。」「もうすこし整理すれば、もっとよくなったであろうという声もあったが、持ち味まで削りとられたのでは元も子もない。私は杉本氏には、「この調子で」とアドバイスしたい。」
佐々木譲
男38歳
8 「冒険小説として、景山民夫氏の『虎口からの脱出』を超えることができなかった」
もりたなるお
男63歳
8 「戦争の狂気をけれん味なくえがいた佳品である。四十余年の歳月は、当時の軍国少年をピエロ化したが、作者は堂々とピエロ以前のすがたを復原している。いまひと息だった。」
笹倉明
男40歳
6 「裁判小説として、小杉健治氏の『絆』に及ばない。」
堀和久
男57歳
13 「これまで候補にのぼった氏の作品が史談ふうであったのにくらべて、ずっと小説ふうになっている。」「人間の長い一生は、思い切ってカットしなければ、輪郭がぼやけてしまう。この作品も事件の重なった後半が急ぎすぎて、羅列的になったうらみがある。」
古川薫
男63歳
14 「土地のもつ魔力のようなものが、風景描写ではなく、人物描写によって、うまくにじみ出ている。ホテルの主人、手伝いの女、娼婦など、いずれも土地に根をもつ濃密な人間性が、半透明な主人公に蔽いかぶさって、ともどもに存在感をあざやかにしている。受賞にいたらなかったのは残念である。」
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田辺聖子
黒岩重吾
村上元三
藤沢周平
山口瞳
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井上ひさし
五木寛之
渡辺淳一
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選考委員
村上元三男78歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
夢空幻を推したが 総行数93 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
藤堂志津子
女39歳
14 「一ばん文章もしっかりしていた。人間を見る眼も確かだが、ここに登場する男も女も好感は持てない。そういう人間たちを描くのが作者の目的だろうが、ここから新しい文学が芽生えるにしても、ほかのテーマを扱った作品を読みたい。」
杉本章子
女35歳
11 「四枚の清親の作品を通して、小林清親の半生を描く、という手法にも無理がない。背景の時代色も、よく出ている。ただ版画にとって大事な彫師と刷師の苦労を、表に出してほしかった。」
佐々木譲
男38歳
14 「冒頭から、この話には引きこまれる。真偽は読んでいるうちにわかる、と思いながら最後まで読み続けた。」「エピローグを読んで落胆した。ミステリー長編というのは、こういう落し穴をどうして作るのだろうか。」
もりたなるお
男63歳
8 「警察官の立場から空襲の前後をよく書いているが、それ以上には出なかった。筆力のある作者なのだから、もっと広い視野で扱ってほしかった。」
笹倉明
男40歳
8 「レイプという告訴に振りまわされる弁護士や裁判官が、よく描かれている。あるいは、という疑問どおりになって、いささか失望した。」
堀和久
男57歳
17 「前回と同じ轍を踏んでいるのは惜しい。当時の幕閣の動きなど、よく書いてあるが、水野越前の改革令の脆さは、もっとていねいに描いてほしかった。」「わたしはこんどの候補作の中で、第一に推したが、わたし一人の票では、どうにもならなかった。」
古川薫
男63歳
21 「どうもぼく(原文傍点)という主人公に一貫性がないので、ついて行けなかった。四季のない、こういう暑い島に住むと、こうなる、と納得させるものがほしかった。女や金にだらしのない男を書いても、それはそれなりに同感できるものがあるべきだろう。」
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田辺聖子
黒岩重吾
陳舜臣
藤沢周平
山口瞳
平岩弓枝
井上ひさし
五木寛之
渡辺淳一
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選考委員
藤沢周平男61歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
才気と丹念な作りと 総行数131 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
藤堂志津子
女39歳
19 「才気煥発の作品。」「ただ、この小説の結末の部分は案外な不出来で、その理由は筆を惜しんだひとり合点にあるとしか思えず、私はきわめて不満足だった。」「しかしその一点の不満を我慢すれば、この作品はやはり受賞圏内のものである。」
杉本章子
女35歳
23 「今度の候補作を一読するにおよんで、格段の進歩におどろいた。しかもその進歩が、悪達者といった弊をまぬがれて、素直にのびのびと成長したところが値打ちであり、こういう例はめずらしいかと思う。」「総じて平均点の高い佳作というべきだろう。」
佐々木譲
男38歳
14 「途中でやや退屈する難点があるものの、小説的な構成にすぐれ、受賞圏内の力を持つ作品だった。ことに感服したのは、クレバー(頭のいい)な平明さとでも名づけたい文章で、ここにこの作者の本来の資質のよさが光っていた。しかし肝心の零戦のベルリン行きに疑いがあるという意見が出されてみると、強く推すこともためらわれた。」
もりたなるお
男63歳
22 「新米巡査高川洋一は、時代の劇画である。(引用者中略)時代が変って行動の意味が変質し、劇画性がうかび上がって来たのである。そこに着目した作者の目は鋭いと思ったのだが、「あとがき」まで読み返しても、作者にこの視点があるかどうかの確証が得られなかった。」
笹倉明
男40歳
13 「文章は未熟、推理小説としても成功しているとは言えない作品だったが、矛盾をかかえる人間が丸ごと描かれているという感じをあたえる作品だった。さらに筆が確かに人間の暗部にとどいている感触があって、大変気になる作品というほかはない。」「将来性のあるひとだと思う。」
堀和久
男57歳
14 「後藤三右衛門という書きにくい人物をよく考証し、消化して小説にしていた。しかしそれが小説として成功しているかどうかはまた別で、私には隙間が多い作品のように感じられた。」
古川薫
男63歳
16 「この小説では島の倦怠感というものが眼目で、そこのところがうまく描かれていれば成功という作品ではないかという気がしたが、それには言葉だけでなく、(引用者中略)島の日常が描かれていなければ、アンニュイという言葉が持つ気分はとらえにくいのではないかという点で、私はこの作品に不満が残った。」
  「今回の候補作は全体に小柄な感じで、かつ実力に大差がないというのが最初の印象だったが、読みすすめるうちに各作品の個性が目立って来て、小柄ながら粒ぞろいという感じに変った。」
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他の選考委員
田辺聖子
黒岩重吾
陳舜臣
村上元三
山口瞳
平岩弓枝
井上ひさし
五木寛之
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選考委員
山口瞳男62歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
大いなる期待 総行数126 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
藤堂志津子
女39歳
84 「とても女臭い小説である。」「初め僕には拒絶反応が働いた。」「松木夫人、紀夫、律子、道子の誰ともつきあいたくないなァと思った。」「良いところは、登場人物の誰もが確りと描かれていることだ。夏の海辺の描き方も上手だ。相当な腕力の持主だと思う。」「今回の作品で化けたとは思わないが、大化けに化けるかもしれないという期待感は一層強くなった。」
杉本章子
女35歳
52 「結末がいい、読後感がいいと誰もが言うが、全篇に流れる清潔感のためだろうと思う。よく調べて叮嚀に書くのはいいのだが、逆にそれが難点にもなっている。」「しかし、このような叮嚀と言えば叮嚀、固いと言えば固い文章で押し通していって少しずつ上手になって遂に大作家になる例がないこともない。実はどちらとも僕自身決めかねているのである。」
佐々木譲
男38歳
0  
もりたなるお
男63歳
0  
笹倉明
男40歳
0  
堀和久
男57歳
0  
古川薫
男63歳
0  
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田辺聖子
黒岩重吾
陳舜臣
村上元三
藤沢周平
平岩弓枝
井上ひさし
五木寛之
渡辺淳一
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選考委員
平岩弓枝女56歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
地道な精進に喝采 総行数111 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
藤堂志津子
女39歳
9 「主人公の女子大生が憧れている金持の中年の女が、どうにも魅力的には思えないのが不満であった。女子大生の一人よがりが、作者の一人よがりと重ならなければよいと思っている。勿論、この作者の受賞を否定する気持はない。」
杉本章子
女35歳
12 「長年こつこつと積み上げて来たものが開花したという作品だと感じた。」「苦しいもの、むごたらしいものを描いても投げ出していないのが、この作者の作風だろうと思う。文句なしの受賞で、心からお祝を申し上げる。」
佐々木譲
男38歳
15 「一番、面白く読んだ。」「飛ぶまでを書く紙数が多すぎて、飛んでからがあっけなかったという指摘があり、私も多少、同感だったが、飛行機というのは飛び立ってしまえば速いのだから仕方がないと弁護したくなるくらい、楽しい作品と思ったが、票が集まらなかった。」
もりたなるお
男63歳
15 「好感のもてる作品だった。」「若い警官の目が捉えて行く空襲そのものには納得出来たが、同時に主人公があくまでも目撃者であり、傍観者でしかないという点で、読者に訴えるものが弱くなったように思う。」
笹倉明
男40歳
13 「法廷が主な舞台になっているのに読みやすかったのは、登場人物がよく描けているせいだと思った。」「欲をいえば、事件そのものにかかわり合っている人間達がいきいきしているのに、事件を扱う側の弁護士や女検事がいささかパターン化しているのが気になった。」
堀和久
男57歳
17 「こうした素材に取り組む場合、どのくらいの紙数を費して書くかによって当然、書き方が変って来るので、それを見きわめるのが作品を成功させる最初の条件ではないかと思う。その意味で、これは惜しい作品になった。」「材料次第では、もっと長篇にして良い作品だったのかも知れない。」
古川薫
男63歳
24 「面白く読んだ。殊に勝呂という外国駐在の日本人がよく描けていると思った。」「日本の律儀すぎる社会構造の中で息苦しくなっていた主人公が、生きても死んでも関係ないような島の雰囲気の中で、スペイン系の女に半分欺され、半分溺れたような関係になって今様浦島太郎で日を送るのも可笑しかった。」「これは私小説風にもっとねばっこく描いてもよかったのではないかと思った。」
  「読後感はどれも良かった。この中から受賞作をえらび出すのは、なんだか落とした作品が気の毒だというのが正直のところであった。」
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黒岩重吾
陳舜臣
村上元三
藤沢周平
山口瞳
井上ひさし
五木寛之
渡辺淳一
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選考委員
井上ひさし男54歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
七つの冒険 総行数96 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
藤堂志津子
女39歳
38 「小説としてどうかということになれば、(引用者中略)ひとつもふたつも抜き出ていたように思われる。」「人物たちの関係の微妙な反響の仕合い、その関係の移り渡りの鮮やかさはどうであろう。」「さらに云えば、この小説には物語を完成させることをすくなからず拒否しているところがある。」「作者のその姿勢に寄り添うことができれば、これはじつに上等な小説として読める。」
杉本章子
女35歳
32 「小説としてどうかということになれば、(引用者中略)ひとつもふたつも抜き出ていたように思われる。」「すこぶる気持のよい作品である。最後の頁を読み終えたときの至福感、これをなににたとえようか。」「これほど励まされた小説は近ごろ稀である。」
佐々木譲
男38歳
9 「近代史の中へ想像力の楔をどれだけ深く、かつ巧みに打ち込むかという冒険であった。」「「とにかく読み手を楽しませなければならぬ」という苛酷な条件の下で試みられた(引用者中略)冒険や実験に評者はまず脱帽し低頭する。」
もりたなるお
男63歳
12 「主人公を皇国主義、国粋主義、軍国主義、そして竹槍精神主義で染め上げ、その主人公を読者の前に投げ出すことで、「読み」の異化作用の発動を企んだ」「「とにかく読み手を楽しませなければならぬ」という苛酷な条件の下で試みられた(引用者中略)冒険や実験に評者はまず脱帽し低頭する。」
笹倉明
男40歳
11 「血の匂いや硝煙抜きで、殺伐な事件を扱うことなしに裁判小説が、それも長篇が成立するかという野心的な冒険が試みられていた。」「「とにかく読み手を楽しませなければならぬ」という苛酷な条件の下で試みられた(引用者中略)冒険や実験に評者はまず脱帽し低頭する。」
堀和久
男57歳
9 「時代小説に経済を持ち込んだ冒険精神によって長く読者に記憶されよう。」「「とにかく読み手を楽しませなければならぬ」という苛酷な条件の下で試みられた(引用者中略)冒険や実験に評者はまず脱帽し低頭する。」
古川薫
男63歳
15 「「ことば」の力によってその風土をどう捉えるかという冒険が演じられていた。そしてみごとにことばにされた光と風と波。」「「とにかく読み手を楽しませなければならぬ」という苛酷な条件の下で試みられた(引用者中略)冒険や実験に評者はまず脱帽し低頭する。」
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藤沢周平
山口瞳
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五木寛之
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選考委員
五木寛之男56歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
毒にも薬にもなる二作 総行数103 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
藤堂志津子
女39歳
27 「杉本氏の受賞が満場一致ですんなり決まったあと、ふと一瞬の空白ののちに藤堂志津子さんの「熟れてゆく夏」が浮上してきたのは、ある意味では当然のことだったとも思われる。「東京新大橋雨中図」の清澄な世界を照らし返すためにも、藤堂氏の「毒」のある作品が必要だ、と感じられたのだ。」「その毒には舌をくすぐる愉楽の味も希薄なのだが、それでもなおこの作家が独自の世界をもつ書き手であることを信じさせる力がある。」
杉本章子
女35歳
28 「端正な文章といい、緻密な構成といい、文句のつけようのない佳作だと思う。くわえて人間を見る目の清涼さ、読み終えたあとの爽やかさなど、いろんな意味で得難い資質を感じさせるところがあった。」「受賞が満場一致ですんなり決まった」
佐々木譲
男38歳
7 「雄大な構想の男性的長篇で、その小説の方向には最も興味をおぼえた作品だ。惜しむらくは省略の工夫に欠ける。この半分の長さでいいと思った。」
もりたなるお
男63歳
7 「私の好きな作家である。今回も興味深く読んだ。欲を言えば、震災後の天皇の現地視察の情景を、被災者の目を感じさせるように書いてほしかったと思う。」
笹倉明
男40歳
9 「その力量は誰しも認めるところだったが、登場人物たちの過去がどことなく安易に設定されているような気がしないでもない。次作を期待したいというのがおおかたの意見だった。」
堀和久
男57歳
10 「ひとかどの作品である。たくまざるユーモアもあって、異色の時代小説なのだが、なにかひとつ足りない気がする。それがなにかは、私にはわからない。小説とは、やさしそうでいて、やはりなかなか難しいものだ。」
古川薫
男63歳
8 「すでに一家をなした作家の仕事として、安定した長篇である。これを強く推さなかったのは、直木賞はやはり新人の賞であるべきだ、という私の思いこみのせいにほかならない。」
  「最近、小説がなんだかつまらなくなってきたような気がする。ひと口で言ってしまえば、毒にも、薬にもならぬような作品が多すぎるのだ。」
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他の選考委員
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黒岩重吾
陳舜臣
村上元三
藤沢周平
山口瞳
平岩弓枝
井上ひさし
渡辺淳一
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選考委員
渡辺淳一男55歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
直木賞のバランス 総行数109 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
藤堂志津子
女39歳
30 「一見、浮わついた風俗を描いているようで、その底に醒めた虚無や孤独が潜んでいるところが、この作品を一段、奥の深いものにしている。」「いくつかの欠点もあるが、それを越えてこれだけのロマネスクを構成した力は評価すべきであろう。」「むしろ芥川賞向きという意見もあったが、ややエンターテインメントに傾きすぎた直木賞のバランスのためにも、こうした作品の受賞は歓迎すべきである。」
杉本章子
女35歳
20 「なによりもこの作品の好ましいところは、登場人物がいずれも心優しく、それを見詰める作者の目がやわらかく全体を包みこんでいるところである。」「冗長すぎる点や、人間への視点が通俗で、清親の人間像がいま一つ浮かびあがってこないといったもの足りなさもある。しかし清親を書いたというより、江戸から東京へ移る庶民の生きざまを書いたとすると、その疵もさほど気にならなくなってくる。」
佐々木譲
男38歳
21 「事実関係は一応よく調べられているが、推理小説として読むと先が割れているし、冒険小説として読むとさほどの緊迫感はない。なによりも零戦野郎とでもいうべき主人公の、マニアックな思い入れが伝わってこないところが、この作品を味の薄いものにしている。」
もりたなるお
男63歳
13 「着眼は面白いが、空襲の話だけではさすがに盛り上りに欠ける。」「前に候補になった「無名の盾」よりは落ちる。」
笹倉明
男40歳
13 「裁判の一審における粗雑さがいささか気になるが、心理劇としても読みごたえがある。ありきたりの殺人事件が登場しないところも新鮮で新しい推理小説の萌芽を感じさせられたが、意外に支持する人は少なかった。」
堀和久
男57歳
0  
古川薫
男63歳
9 「全体に陰影が淡すぎて、隔靴掻痒の感をまぬがれない。この作者はもう少しいいものを、書ける力をもった人である。」
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他の選考委員
田辺聖子
黒岩重吾
陳舜臣
村上元三
藤沢周平
山口瞳
平岩弓枝
井上ひさし
五木寛之
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受賞者・作品
藤堂志津子女39歳×各選考委員 
「熟れてゆく夏」
中篇 160
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
田辺聖子
女60歳
27 「むつかしいところである。小説としてはむつかしくないが、恐らく女性読者の反撥を買うんじゃないか、という所がある。しかし作者はあるいはそういう点をふまえた上で書かれたのかもしれない。」
黒岩重吾
男64歳
22 「私はこの作品は買わなかった。だが藤堂氏の才能を否定しているわけではない。」「私が今回の作品に酩酊出来なかったのは、人間の屑のような紀夫に雄が全く感じられなかったからである。」「もし紀夫に雄(女性を擲るという行為は雄とは関係がない)を感じることが出来たなら、この作品は凄いものになっていたような気がする。」
陳舜臣
男64歳
26 「このまえの候補作『マドンナのごとく』にくらべると、格段によくなっている。」「藤堂氏の文章は、読者をうまく乗せてしまうリズムがある。そのリズムに頼りすぎると危険ではあるまいか。リズムは常に変化しなければ平板になる。藤堂氏の作品の醸し出すふしぎな魅力は、不安定の美、であるかもしれない。」「安定していないというのは、大成の可能性が大きいという意味である。」
村上元三
男78歳
14 「一ばん文章もしっかりしていた。人間を見る眼も確かだが、ここに登場する男も女も好感は持てない。そういう人間たちを描くのが作者の目的だろうが、ここから新しい文学が芽生えるにしても、ほかのテーマを扱った作品を読みたい。」
藤沢周平
男61歳
19 「才気煥発の作品。」「ただ、この小説の結末の部分は案外な不出来で、その理由は筆を惜しんだひとり合点にあるとしか思えず、私はきわめて不満足だった。」「しかしその一点の不満を我慢すれば、この作品はやはり受賞圏内のものである。」
山口瞳
男62歳
84 「とても女臭い小説である。」「初め僕には拒絶反応が働いた。」「松木夫人、紀夫、律子、道子の誰ともつきあいたくないなァと思った。」「良いところは、登場人物の誰もが確りと描かれていることだ。夏の海辺の描き方も上手だ。相当な腕力の持主だと思う。」「今回の作品で化けたとは思わないが、大化けに化けるかもしれないという期待感は一層強くなった。」
平岩弓枝
女56歳
9 「主人公の女子大生が憧れている金持の中年の女が、どうにも魅力的には思えないのが不満であった。女子大生の一人よがりが、作者の一人よがりと重ならなければよいと思っている。勿論、この作者の受賞を否定する気持はない。」
井上ひさし
男54歳
38 「小説としてどうかということになれば、(引用者中略)ひとつもふたつも抜き出ていたように思われる。」「人物たちの関係の微妙な反響の仕合い、その関係の移り渡りの鮮やかさはどうであろう。」「さらに云えば、この小説には物語を完成させることをすくなからず拒否しているところがある。」「作者のその姿勢に寄り添うことができれば、これはじつに上等な小説として読める。」
五木寛之
男56歳
27 「杉本氏の受賞が満場一致ですんなり決まったあと、ふと一瞬の空白ののちに藤堂志津子さんの「熟れてゆく夏」が浮上してきたのは、ある意味では当然のことだったとも思われる。「東京新大橋雨中図」の清澄な世界を照らし返すためにも、藤堂氏の「毒」のある作品が必要だ、と感じられたのだ。」「その毒には舌をくすぐる愉楽の味も希薄なのだが、それでもなおこの作家が独自の世界をもつ書き手であることを信じさせる力がある。」
渡辺淳一
男55歳
30 「一見、浮わついた風俗を描いているようで、その底に醒めた虚無や孤独が潜んでいるところが、この作品を一段、奥の深いものにしている。」「いくつかの欠点もあるが、それを越えてこれだけのロマネスクを構成した力は評価すべきであろう。」「むしろ芥川賞向きという意見もあったが、ややエンターテインメントに傾きすぎた直木賞のバランスのためにも、こうした作品の受賞は歓迎すべきである。」
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他の候補作
杉本章子
『東京新大橋雨中図』
佐々木譲
『ベルリン飛行指令』
もりたなるお
『大空襲』
笹倉明
『漂流裁判』
堀和久
『夢空幻』
古川薫
『正午位置』
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受賞者・作品
杉本章子女35歳×各選考委員 
『東京新大橋雨中図』
長篇 595
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
田辺聖子
女60歳
10 「均斉のとれた、気韻のある佳篇、時代と人間の転変があざやかに描かれ、その合間に、主人公・清親の描く絵の冴えた彩色が明滅する。文章もまことによく消化れ、神経がゆきとどき、それでいてのびやかである。」
黒岩重吾
男64歳
19 「全く欠点のない作品である。」「明治維新後の浮世絵界や風俗が破綻なく描かれている。」「受賞に異論はないが、私の読後感は優等生の模範答案を見せられた、といったところである。人間の臍には垢がついていることを認識した時、この作家は大きく飛躍するのではないか。」
陳舜臣
男64歳
43 「文章によけいな細工をして、ある効果をもたせようという意図はないのに、全体にやさしさがにじみ出る効果をもたらしている。それは杉本氏の折り目正しい文章と、すなおな語り口によるものなのだ。」「もうすこし整理すれば、もっとよくなったであろうという声もあったが、持ち味まで削りとられたのでは元も子もない。私は杉本氏には、「この調子で」とアドバイスしたい。」
村上元三
男78歳
11 「四枚の清親の作品を通して、小林清親の半生を描く、という手法にも無理がない。背景の時代色も、よく出ている。ただ版画にとって大事な彫師と刷師の苦労を、表に出してほしかった。」
藤沢周平
男61歳
23 「今度の候補作を一読するにおよんで、格段の進歩におどろいた。しかもその進歩が、悪達者といった弊をまぬがれて、素直にのびのびと成長したところが値打ちであり、こういう例はめずらしいかと思う。」「総じて平均点の高い佳作というべきだろう。」
山口瞳
男62歳
52 「結末がいい、読後感がいいと誰もが言うが、全篇に流れる清潔感のためだろうと思う。よく調べて叮嚀に書くのはいいのだが、逆にそれが難点にもなっている。」「しかし、このような叮嚀と言えば叮嚀、固いと言えば固い文章で押し通していって少しずつ上手になって遂に大作家になる例がないこともない。実はどちらとも僕自身決めかねているのである。」
平岩弓枝
女56歳
12 「長年こつこつと積み上げて来たものが開花したという作品だと感じた。」「苦しいもの、むごたらしいものを描いても投げ出していないのが、この作者の作風だろうと思う。文句なしの受賞で、心からお祝を申し上げる。」
井上ひさし
男54歳
32 「小説としてどうかということになれば、(引用者中略)ひとつもふたつも抜き出ていたように思われる。」「すこぶる気持のよい作品である。最後の頁を読み終えたときの至福感、これをなににたとえようか。」「これほど励まされた小説は近ごろ稀である。」
五木寛之
男56歳
28 「端正な文章といい、緻密な構成といい、文句のつけようのない佳作だと思う。くわえて人間を見る目の清涼さ、読み終えたあとの爽やかさなど、いろんな意味で得難い資質を感じさせるところがあった。」「受賞が満場一致ですんなり決まった」
渡辺淳一
男55歳
20 「なによりもこの作品の好ましいところは、登場人物がいずれも心優しく、それを見詰める作者の目がやわらかく全体を包みこんでいるところである。」「冗長すぎる点や、人間への視点が通俗で、清親の人間像がいま一つ浮かびあがってこないといったもの足りなさもある。しかし清親を書いたというより、江戸から東京へ移る庶民の生きざまを書いたとすると、その疵もさほど気にならなくなってくる。」
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他の候補作
藤堂志津子
「熟れてゆく夏」
佐々木譲
『ベルリン飛行指令』
もりたなるお
『大空襲』
笹倉明
『漂流裁判』
堀和久
『夢空幻』
古川薫
『正午位置』
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候補者・作品
佐々木譲男38歳×各選考委員 
『ベルリン飛行指令』
長篇 865
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
田辺聖子
女60歳
15 「私は実に楽しく拝見した。手に汗にぎる冒険ロマンであるが、その背後にアジア近代史が点描されていて、よくできたエンターテインメント文学といえると思った。」「しかしゼロ戦の知識のない私には、事実関係の誤認を他委員に指摘されると、そこはよくわからないので、推す力が弱まるのは残念であった。」
黒岩重吾
男64歳
0  
陳舜臣
男64歳
8 「冒険小説として、景山民夫氏の『虎口からの脱出』を超えることができなかった」
村上元三
男78歳
14 「冒頭から、この話には引きこまれる。真偽は読んでいるうちにわかる、と思いながら最後まで読み続けた。」「エピローグを読んで落胆した。ミステリー長編というのは、こういう落し穴をどうして作るのだろうか。」
藤沢周平
男61歳
14 「途中でやや退屈する難点があるものの、小説的な構成にすぐれ、受賞圏内の力を持つ作品だった。ことに感服したのは、クレバー(頭のいい)な平明さとでも名づけたい文章で、ここにこの作者の本来の資質のよさが光っていた。しかし肝心の零戦のベルリン行きに疑いがあるという意見が出されてみると、強く推すこともためらわれた。」
山口瞳
男62歳
0  
平岩弓枝
女56歳
15 「一番、面白く読んだ。」「飛ぶまでを書く紙数が多すぎて、飛んでからがあっけなかったという指摘があり、私も多少、同感だったが、飛行機というのは飛び立ってしまえば速いのだから仕方がないと弁護したくなるくらい、楽しい作品と思ったが、票が集まらなかった。」
井上ひさし
男54歳
9 「近代史の中へ想像力の楔をどれだけ深く、かつ巧みに打ち込むかという冒険であった。」「「とにかく読み手を楽しませなければならぬ」という苛酷な条件の下で試みられた(引用者中略)冒険や実験に評者はまず脱帽し低頭する。」
五木寛之
男56歳
7 「雄大な構想の男性的長篇で、その小説の方向には最も興味をおぼえた作品だ。惜しむらくは省略の工夫に欠ける。この半分の長さでいいと思った。」
渡辺淳一
男55歳
21 「事実関係は一応よく調べられているが、推理小説として読むと先が割れているし、冒険小説として読むとさほどの緊迫感はない。なによりも零戦野郎とでもいうべき主人公の、マニアックな思い入れが伝わってこないところが、この作品を味の薄いものにしている。」
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他の候補作
藤堂志津子
「熟れてゆく夏」
杉本章子
『東京新大橋雨中図』
もりたなるお
『大空襲』
笹倉明
『漂流裁判』
堀和久
『夢空幻』
古川薫
『正午位置』
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候補者・作品
もりたなるお男63歳×各選考委員 
『大空襲』
長篇 538
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
田辺聖子
女60歳
17 「すべり出し好調、しかし龍頭蛇尾の感は拭えない。」「最後までもっと何か出るかと思っていると、ついに出なかった、という感じ。それならその代りに、道中の万般に井伏さんの「多甚古村」のような芸が欲しいところ。」
黒岩重吾
男64歳
22 「大空襲下の描写には迫真力がある。この作品も余り欠点のない作品だが読後感は弱い。例えば主人公が熊坂巡査と同じ交番にいるのなら必ず衝突し、火花を散らすようなドラマが展開する筈だが、この作品にはそれがない。」
陳舜臣
男64歳
8 「戦争の狂気をけれん味なくえがいた佳品である。四十余年の歳月は、当時の軍国少年をピエロ化したが、作者は堂々とピエロ以前のすがたを復原している。いまひと息だった。」
村上元三
男78歳
8 「警察官の立場から空襲の前後をよく書いているが、それ以上には出なかった。筆力のある作者なのだから、もっと広い視野で扱ってほしかった。」
藤沢周平
男61歳
22 「新米巡査高川洋一は、時代の劇画である。(引用者中略)時代が変って行動の意味が変質し、劇画性がうかび上がって来たのである。そこに着目した作者の目は鋭いと思ったのだが、「あとがき」まで読み返しても、作者にこの視点があるかどうかの確証が得られなかった。」
山口瞳
男62歳
0  
平岩弓枝
女56歳
15 「好感のもてる作品だった。」「若い警官の目が捉えて行く空襲そのものには納得出来たが、同時に主人公があくまでも目撃者であり、傍観者でしかないという点で、読者に訴えるものが弱くなったように思う。」
井上ひさし
男54歳
12 「主人公を皇国主義、国粋主義、軍国主義、そして竹槍精神主義で染め上げ、その主人公を読者の前に投げ出すことで、「読み」の異化作用の発動を企んだ」「「とにかく読み手を楽しませなければならぬ」という苛酷な条件の下で試みられた(引用者中略)冒険や実験に評者はまず脱帽し低頭する。」
五木寛之
男56歳
7 「私の好きな作家である。今回も興味深く読んだ。欲を言えば、震災後の天皇の現地視察の情景を、被災者の目を感じさせるように書いてほしかったと思う。」
渡辺淳一
男55歳
13 「着眼は面白いが、空襲の話だけではさすがに盛り上りに欠ける。」「前に候補になった「無名の盾」よりは落ちる。」
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他の候補作
藤堂志津子
「熟れてゆく夏」
杉本章子
『東京新大橋雨中図』
佐々木譲
『ベルリン飛行指令』
笹倉明
『漂流裁判』
堀和久
『夢空幻』
古川薫
『正午位置』
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候補者・作品
笹倉明男40歳×各選考委員 
『漂流裁判』
長篇 585
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
田辺聖子
女60歳
10 「女がよく書けており、推理小説の域をこえて人間の追求という文学性を獲得している。私はこの小説を日本では未開拓(すでに二三の秀作も見られるが)の法廷小説・裁判小説の佳品として推したのだが、やや晦渋とうけとられて票を集めなかったのは惜しい。」
黒岩重吾
男64歳
0  
陳舜臣
男64歳
6 「裁判小説として、小杉健治氏の『絆』に及ばない。」
村上元三
男78歳
8 「レイプという告訴に振りまわされる弁護士や裁判官が、よく描かれている。あるいは、という疑問どおりになって、いささか失望した。」
藤沢周平
男61歳
13 「文章は未熟、推理小説としても成功しているとは言えない作品だったが、矛盾をかかえる人間が丸ごと描かれているという感じをあたえる作品だった。さらに筆が確かに人間の暗部にとどいている感触があって、大変気になる作品というほかはない。」「将来性のあるひとだと思う。」
山口瞳
男62歳
0  
平岩弓枝
女56歳
13 「法廷が主な舞台になっているのに読みやすかったのは、登場人物がよく描けているせいだと思った。」「欲をいえば、事件そのものにかかわり合っている人間達がいきいきしているのに、事件を扱う側の弁護士や女検事がいささかパターン化しているのが気になった。」
井上ひさし
男54歳
11 「血の匂いや硝煙抜きで、殺伐な事件を扱うことなしに裁判小説が、それも長篇が成立するかという野心的な冒険が試みられていた。」「「とにかく読み手を楽しませなければならぬ」という苛酷な条件の下で試みられた(引用者中略)冒険や実験に評者はまず脱帽し低頭する。」
五木寛之
男56歳
9 「その力量は誰しも認めるところだったが、登場人物たちの過去がどことなく安易に設定されているような気がしないでもない。次作を期待したいというのがおおかたの意見だった。」
渡辺淳一
男55歳
13 「裁判の一審における粗雑さがいささか気になるが、心理劇としても読みごたえがある。ありきたりの殺人事件が登場しないところも新鮮で新しい推理小説の萌芽を感じさせられたが、意外に支持する人は少なかった。」
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他の候補作
藤堂志津子
「熟れてゆく夏」
杉本章子
『東京新大橋雨中図』
佐々木譲
『ベルリン飛行指令』
もりたなるお
『大空襲』
堀和久
『夢空幻』
古川薫
『正午位置』
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候補者・作品
堀和久男57歳×各選考委員 
『夢空幻』
長篇 640
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
田辺聖子
女60歳
15 「主人公を編年体で描くのはこの小説の場合、如何なものか。」「しかし珍らしい素材で、いつものことながらこの作者の作品には情報がたっぷりある。ただそれが文学的感興や人生的共感へ盛り上がるには、ややパワー不足、という点が惜しい。」
黒岩重吾
男64歳
9 「今日的なテーマでもあり狙いは良い。だが数多い参考文献をよく咀嚼せずに詰め込み過ぎているため、小説の面白さが薄れてしまった。また登場人物が多過ぎるためか、重要な退仲の人間が描かれていない。」
陳舜臣
男64歳
13 「これまで候補にのぼった氏の作品が史談ふうであったのにくらべて、ずっと小説ふうになっている。」「人間の長い一生は、思い切ってカットしなければ、輪郭がぼやけてしまう。この作品も事件の重なった後半が急ぎすぎて、羅列的になったうらみがある。」
村上元三
男78歳
17 「前回と同じ轍を踏んでいるのは惜しい。当時の幕閣の動きなど、よく書いてあるが、水野越前の改革令の脆さは、もっとていねいに描いてほしかった。」「わたしはこんどの候補作の中で、第一に推したが、わたし一人の票では、どうにもならなかった。」
藤沢周平
男61歳
14 「後藤三右衛門という書きにくい人物をよく考証し、消化して小説にしていた。しかしそれが小説として成功しているかどうかはまた別で、私には隙間が多い作品のように感じられた。」
山口瞳
男62歳
0  
平岩弓枝
女56歳
17 「こうした素材に取り組む場合、どのくらいの紙数を費して書くかによって当然、書き方が変って来るので、それを見きわめるのが作品を成功させる最初の条件ではないかと思う。その意味で、これは惜しい作品になった。」「材料次第では、もっと長篇にして良い作品だったのかも知れない。」
井上ひさし
男54歳
9 「時代小説に経済を持ち込んだ冒険精神によって長く読者に記憶されよう。」「「とにかく読み手を楽しませなければならぬ」という苛酷な条件の下で試みられた(引用者中略)冒険や実験に評者はまず脱帽し低頭する。」
五木寛之
男56歳
10 「ひとかどの作品である。たくまざるユーモアもあって、異色の時代小説なのだが、なにかひとつ足りない気がする。それがなにかは、私にはわからない。小説とは、やさしそうでいて、やはりなかなか難しいものだ。」
渡辺淳一
男55歳
0  
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他の候補作
藤堂志津子
「熟れてゆく夏」
杉本章子
『東京新大橋雨中図』
佐々木譲
『ベルリン飛行指令』
もりたなるお
『大空襲』
笹倉明
『漂流裁判』
古川薫
『正午位置』
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候補者・作品
古川薫男63歳×各選考委員 
『正午位置』
中篇 272
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
田辺聖子
女60歳
31 「杉本氏の次に推した。南の島のやるせない気分が全篇に充溢し、私は女だけれども、女でしくじった男の、呆然自失のあいまいな幸福感がわかる気がした。」「一票差で受賞を逸したのは惜しかったが、これはいい小説でしたよ、古川さん。」
黒岩重吾
男64歳
31 「比較的好感を持ち、今でも未練を抱いている」「私は面白く読んだ。面白さという点では随一だった。」「残念なのは漁業会社の出張所所長の勝呂の人物像が中途半端なことだ。(引用者中略)勝呂を書き込まないと、読者はこの面白い小説をもの足りない思いで読了せねばならない。好きな作品だけに惜しい。」
陳舜臣
男64歳
14 「土地のもつ魔力のようなものが、風景描写ではなく、人物描写によって、うまくにじみ出ている。ホテルの主人、手伝いの女、娼婦など、いずれも土地に根をもつ濃密な人間性が、半透明な主人公に蔽いかぶさって、ともどもに存在感をあざやかにしている。受賞にいたらなかったのは残念である。」
村上元三
男78歳
21 「どうもぼく(原文傍点)という主人公に一貫性がないので、ついて行けなかった。四季のない、こういう暑い島に住むと、こうなる、と納得させるものがほしかった。女や金にだらしのない男を書いても、それはそれなりに同感できるものがあるべきだろう。」
藤沢周平
男61歳
16 「この小説では島の倦怠感というものが眼目で、そこのところがうまく描かれていれば成功という作品ではないかという気がしたが、それには言葉だけでなく、(引用者中略)島の日常が描かれていなければ、アンニュイという言葉が持つ気分はとらえにくいのではないかという点で、私はこの作品に不満が残った。」
山口瞳
男62歳
0  
平岩弓枝
女56歳
24 「面白く読んだ。殊に勝呂という外国駐在の日本人がよく描けていると思った。」「日本の律儀すぎる社会構造の中で息苦しくなっていた主人公が、生きても死んでも関係ないような島の雰囲気の中で、スペイン系の女に半分欺され、半分溺れたような関係になって今様浦島太郎で日を送るのも可笑しかった。」「これは私小説風にもっとねばっこく描いてもよかったのではないかと思った。」
井上ひさし
男54歳
15 「「ことば」の力によってその風土をどう捉えるかという冒険が演じられていた。そしてみごとにことばにされた光と風と波。」「「とにかく読み手を楽しませなければならぬ」という苛酷な条件の下で試みられた(引用者中略)冒険や実験に評者はまず脱帽し低頭する。」
五木寛之
男56歳
8 「すでに一家をなした作家の仕事として、安定した長篇である。これを強く推さなかったのは、直木賞はやはり新人の賞であるべきだ、という私の思いこみのせいにほかならない。」
渡辺淳一
男55歳
9 「全体に陰影が淡すぎて、隔靴掻痒の感をまぬがれない。この作者はもう少しいいものを、書ける力をもった人である。」
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他の候補作
藤堂志津子
「熟れてゆく夏」
杉本章子
『東京新大橋雨中図』
佐々木譲
『ベルリン飛行指令』
もりたなるお
『大空襲』
笹倉明
『漂流裁判』
堀和久
『夢空幻』
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