直木賞のすべて
第101回
直木賞-選評の概要 トップページ
直木賞・芥川賞受賞作一覧
受賞作・候補作一覧
受賞作家の群像
候補作家の群像
選考委員の群像
小研究
大衆選考会
リンク集
マップ

ページの最後へ
Last Update[H26]2014/6/20

101   一覧へ 100前の回へ 後の回へ102
平成1年/1989年上半期
(平成1年/1989年7月13日決定発表/『オール讀物』平成1年/1989年9月号選評掲載)
選考委員  陳舜臣
男65歳
黒岩重吾
男65歳
山口瞳
男62歳
田辺聖子
女61歳
藤沢周平
男61歳
五木寛之
男56歳
村上元三
男79歳
平岩弓枝
女57歳
渡辺淳一
男55歳
井上ひさし
男54歳
選評総行数  118 106 120 115 143 81 93 98 123 81
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
笹倉明 『遠い国からの殺人者』
583
男40歳
20 23 23 17 21 54 19 17 31 29
ねじめ正一 『高円寺純情商店街』
330
男41歳
28 41 15 14 38 28 9 18 15 23
隆慶一郎 『柳生非情剣』
280
男65歳
7 13 15 20 16 0 13 16 8 8
古川薫 『幻のザビーネ』
211
男64歳
9 15 10 18 7 0 19 9 12 7
多島斗志之 『密約幻書』
545
男40歳
15 0 11 11 22 0 9 7 20 8
高橋義夫 『秘宝月山丸』
445
男43歳
21 14 19 18 21 0 10 20 11 7
阿久悠 『墨ぬり少年オペラ』
446
男52歳
20 0 10 17 13 0 8 11 22 7
                   
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『オール讀物』平成1年/1989年9月号
1行当たりの文字数:13字


選考委員
陳舜臣男65歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
粒ぞろい 総行数118 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
笹倉明
男40歳
20 「前回の候補作「漂流裁判」から一歩も二歩も前進している。ただ話の進行のつなぎに、もうすこし工夫が欲しかった。」「強い問題意識をもった執筆姿勢に好感がもてる。じゃぱゆきさんの境遇というテーマが作者の正義感によって光っている。」
ねじめ正一
男41歳
28 「淡彩スケッチふうの佳品である。少年の目を通して、家族や界隈の人たちがあざやかに描かれている。ところが、読んでいても、かんじんの少年の顔がみえてこない。あるいは少年の顔をみせないのが、この作品の基本的な姿勢かもしれない。」
隆慶一郎
男65歳
7 「いつものことながら、作者の世界にひきこまれて、あっというまに読んだ。作者の批評精神が、ときどき作中にのぞくが、私にはそれほど気にならなかった。」
古川薫
男64歳
9 「贅肉のない文章で独特のムードを醸し出した作品である。」「このような良質の中篇が、日本のエンターテインメントに欠けているのではあるまいか。読んでいてふとシムノンを連想した。」
多島斗志之
男40歳
15 「まれにみる筆力であるのはいうまでもない。ペレストロイカにまで結びつけるのは行きすぎとおもうが、私は氏に勇み足を気にせずに、これからも気宇壮大な物語をつくってほしいとおもう。」
高橋義夫
男43歳
21 「作品の舞台は、私にとって最も未知の「界隈」であり、そのせいか最も強い印象をうけた。ただ末尾のしめくくりに難点があるようにおもった。方言を多用しているが、それがわかりやすく、地鳴りのような効果があることに感心した。」
阿久悠
男52歳
20 「面白さからいえば、阿久悠氏の作品が(引用者注:「秘宝月山丸」「高円寺純情商店街」「墨ぬり少年オペラ」の中では)第一だが、少年たちのことばが、読んでいる私のなかで肉声化しないのが気になった。あるいはこれは作品に問題があるのではなく、私の読み方が悪いのかもしれない。」
  「私は選考の結果、どの作品が受賞しても異議はないという心構えで、選考会に臨んだ。一面からいえば、これでなければならないという突出した作品もなかったことになる。これは全体のレベルの高さをよろこぶべきであろう。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
黒岩重吾
山口瞳
田辺聖子
藤沢周平
五木寛之
村上元三
平岩弓枝
渡辺淳一
井上ひさし
  ページの先頭へ

選考委員
黒岩重吾男65歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
優れた作品群 総行数106 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
笹倉明
男40歳
23 「受賞圏にあると考え、選考会に出席した。」「浩という人間の屑の存在感が自然でリアリティがあるのも、作者が主人公の女性の心理のひだを書き込んでいるせいである。」「ただ読み終って、この種の小説にしては躍動感がないのが気になったが、受賞を否定するほどのものではない。」
ねじめ正一
男41歳
41 「一番高く評価した」「この種の少年は一見書き易いようだが、最も書き難く、筆に対する抑制力が備わっていないと、変にべとつき、中途半端な少年像になる危険性を抱いている。」「作者のこの見事なコントロールは、総ての登場人物に行き届き、読んでいて不安感が全くない。」
隆慶一郎
男65歳
13 「受賞圏にあると考え、選考会に出席した。」「これまでの作者の諸作品にない燻し銀に似た艶がある。」「吸い込んだもろもろの血を滲ませた古刀を見たような気がした。」「すぐれた佳作である。」
古川薫
男64歳
15 「受賞圏にあると考え、選考会に出席した。」「作者の感性の若さに感嘆した。小説もなかなか面白い。」「意外に点が入らなかったが、描写が単調に過ぎたことも一因かもしれない。」
多島斗志之
男40歳
0  
高橋義夫
男43歳
14 「孤島のような山村にいながら、他人の行動を観察し、警戒し合い、それでもなお古い土地によって縛られ、繋っている村人の姿はよく描かれている。」「残念なのはフィクションの魅力が感じられないことである。佳い作品なのに点が集まらなかった理由はそこにあるのではないか。」
阿久悠
男52歳
0  
  「今回は優れた作品が多く、候補作を読むのが愉しかった。そのかわり他の回なら当然受賞している作品も、受賞を逸する、ということにもなる。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
陳舜臣
山口瞳
田辺聖子
藤沢周平
五木寛之
村上元三
平岩弓枝
渡辺淳一
井上ひさし
  ページの先頭へ

選考委員
山口瞳男62歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
豪華な顔触れ 総行数120 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
笹倉明
男40歳
23 「確実に前回候補作に較べて腕をあげている。」「私は、特に、フィリピンから来た若い踊り子の頼りなげな様子がよく書けているのに感動した。しかし、裁判小説は、事件の謎を解く重要な事実(たとえば被害者がレイプ常習犯で殺人者であったこと)を作者が伏せておいて、その発見が弁護人の手柄になるのが興醒めになる。これは避け難いことなのだろうか。」
ねじめ正一
男41歳
15 「純度が高く密度も濃い。雑誌連載中から面白いと思って読んでいたが、傾向からして直木賞の候補にはなるまいと思っていた。敢えて言うならば、これは芥川賞である。」「この作品が票を集めたのも私にとっては実に意外だった。」
隆慶一郎
男65歳
15 「とてもわかりやすい。論旨明快である。隆さんは、エンターテイナーとして、奥の深いスケールの大きな作者だと思っているが、それだけに『柳生非情剣』がベストだとは思われない。私は『吉原御免状』の天衣無縫と瑞々しさのほうを評価する。」
古川薫
男64歳
10 「文章に安定感があって格調も高い。しかし、愛し続けてきたペンフレンドが訪ねてみると娼婦になっていたというのは、いかにも唐突で、これでは因果物になってしまう。むろん、これは古川さんのベストではない。残念だった。」
多島斗志之
男40歳
11 「面白さで言えば、これが一番面白かった。また、私は、この作者が一番書ける人だと思っている。しかし、こういう歴史的事件に基づく小説は途中までは面白くても最後に無理が生じてドタバタになってしまう。その処理がうまくいかないものかと、いつでも思う。」
高橋義夫
男43歳
19 「文化人が地方都市や僻地に移住する、すでに何人かが書いている型の小説だ。(引用者中略)それだけでも損をしている。」「主人公がなぜ都会を避けるのか、私にはよくわからなかった。高橋さんは腕力のある作家だと思っているので、これも残念だった。」
阿久悠
男52歳
10 「御膳立てはいいのだけれど、その割に感銘に乏しいのはどういうことだろうか。これは映画かTVドラマにしたら面白いと思ったが、そのことがそのままこの小説の弱点になっているような気がした。」
  「この作者に受賞してもらいたいのだが、この作品ではどうかナ(原文ナは四分角)という候補作が大半を占めた。」「優劣を決めるのは極めて困難であるが、半面、受賞作が必ず出るという安心感もあった。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
陳舜臣
黒岩重吾
田辺聖子
藤沢周平
五木寛之
村上元三
平岩弓枝
渡辺淳一
井上ひさし
  ページの先頭へ

選考委員
田辺聖子女61歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
佳篇多し 総行数115 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
笹倉明
男40歳
17 「氏は遂に現代小説の新しい一つの活路、新鮮な切り口を追求し、それに成功された、という気がする。裁判小説というか、法廷に於ける虚々実々の応酬を重要なモチーフとして事件や人生を切り取る、その手口がいかにもあざやかで興趣横溢、しかも読後、さわやかだが、ずしんとくる何かがある。」「佳品であった。」
ねじめ正一
男41歳
14 「何とも楽しめた小説。やわらかな文章であるが、書くべきは書き、抑えるべきは抑えている達意の文章である。主人公の少年がとにかく可愛いい。ふんわりした情趣があとへ残って、読んだ人を幸わせにしてくれる、いうことなしの小説。」
隆慶一郎
男65歳
20 「私は時代小説に偏見はなく、剣豪小説、剣術小説を嫌いではないと思っている。しかしこの作品には共感がもちにくくて困惑した。」「隆氏のお作品は今までにも面白く拝見した記憶があり、こんなハズはない、ない……と思って読んでいるうちに終りになった、という感じ。」
古川薫
男64歳
18 「前回の「正午位置」よりまとまっていてよいと思った。ことに冒頭、ハンブルクでの主人公の追いつめられた気持、犯罪のにおいのする不安感がよく描かれており、興をそそる導入部である。」「現代小説の書き手としても第一級ではないか、作品の底に流れる閑雅にして古典的な、悠々たるロマンチシズムを私は楽しんだ。」
多島斗志之
男40歳
11 「壮大な虚構にノセられる娯しみ。ことに「P・グリーン回顧録」がいい。ただ後半、錯綜して(引用者中略)キメ手を欠く感じとなったのは惜しい。」
高橋義夫
男43歳
18 「都会人の目線からムラの文化構造を見据え、日本民族の伝統の核のようなものをさぐりあてる、その例がバリエーションに富み、群像の面白さも堪能させられた。」「これは物語性を問う小説ではないように思われる。」「小説はどのように書いてもいいのだと問題提起している作品である。」
阿久悠
男52歳
17 「私にはこの作品、巧いけど可愛いげない気がしてしょうがなかった。これは少年たち、というより、狂言廻しのように出てくる女、モモ子の責任であろう。モモ子にリアリティがなく、可愛いげがなかったように思われる。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
陳舜臣
黒岩重吾
山口瞳
藤沢周平
五木寛之
村上元三
平岩弓枝
渡辺淳一
井上ひさし
  ページの先頭へ

選考委員
藤沢周平男61歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
笹倉さんを推す 総行数143 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
笹倉明
男40歳
21 「読むほどに、次第に寄るべない一人のフィリピン女性の孤独と犯罪がうかび上がって来る感触がすばらしく、重厚な筆力が感じ取れた。」「一見したところは地味な小説であるけれども、中身は十分に濃くて、私はフィクションの本道を行く、いわゆる虚構の真実に手がとどいた作品とみた。」
ねじめ正一
男41歳
38 「「天狗熱」、「六月の蠅取紙」、「真冬の金魚」の三篇が、素直な文章と初初しい感性でなかなかの短篇になっていた。」「しかし小説の考え方として、私小説よりは虚構の作物をより上位に置きたい私としては、このちまちまとした私小説ふうの骨格を持つ小説にあまり高い点数はつけられず、またこの作品のそういう性格も直木賞にふさわしいものとは思えなかった。」
隆慶一郎
男65歳
16 「隆さんの本領を発揮した作品でない点が、少少気の毒だった。このひとの本領は裏面史、歴史上の奇説、稗史といったところに題材をもとめるところにあって、その領域で独自のいい仕事をしているとみるけれども、候補作の世界はその分野から若干ずれるせいか、文章にのびを欠き、読んでいてイメージがふくらまなかった。」「ただし「跛行の剣」は、この作家の特色が出た秀逸な一篇だった。」
古川薫
男64歳
7 「ヘルダーリンの詩を使った構成に詩情があったが、もう一方の殺人容疑が被害者の妻の思いつきで簡単に解けるといったあたりの作りが、安易に思われた。」
多島斗志之
男40歳
22 「レーニンの約定書をめぐる規模雄大なフィクションで、文章も一級品、ことにP・グリーン回顧録の構成と文章には堪能した。」「しかしこの小説には弱点がある。英公安機関の謀略というせっかくの二重構造のフィクションが、この小説の後半部に密度の希薄な部分、カラ騒ぎの印象を生み出しているのである。私は抜群のテクニックと、虚構に賭けようとする作者の姿勢に一票を投じたものの、この弱点があっては受賞にとどかなかった。」
高橋義夫
男43歳
21 「登場人物が克明にいきいきと描きわけられているのに感服した。」「話はまとまっているものの、だからどうなのかと言えばそれっきりのようなあっけないところがあるのは、身辺雑記ふうの小説の仕立てのせいではないだろうか。高橋さんにはやはり、「闇の葬列」のようなコクのある物語を書いてもらいたい気がする。」
阿久悠
男52歳
13 「うまい小説だが、しかし小説はそれだけでは不十分で、その上に何かヘソのように動かしがたいものが必要ではなかろうか、と思わせる作品でもある。魅力あふれるモモ子が、後半次第にマンネリ化して生彩を失うのはどうしたことだろう。」
  「結果として評価に差はついたものの、今回の候補作品はおしなべて質がよく、点数ほどに差があったわけではなかった。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
陳舜臣
黒岩重吾
山口瞳
田辺聖子
五木寛之
村上元三
平岩弓枝
渡辺淳一
井上ひさし
  ページの先頭へ

選考委員
五木寛之男56歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
好対照の二作品 総行数81 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
笹倉明
男40歳
54 「笹倉明さんの小説には、いつも、小説の枠におさまりきれないところがある。一歩ふみはずせば〈大説〉と化しそうな危うさをはらんでおり、そこがまた魅力でもあると思う。」「雑な文章は作品の興趣をそぐことはなはだしい。しかし、アジアと日本人、そして被差別者がさらに弱い者への差別者となってゆく無残な現実がしっかりと見すえられている〈遠い国からの殺人者〉を、今回の受賞作として推すことにためらいはなかった。」
ねじめ正一
男41歳
28 「最近これほどの文章つかい(原文傍点)にお目にかかった記憶はない。」「詩と小説の世界をいさぎよいまでに峻別して、舞踏でなく歩行の文体に徹した姿勢に共感をおぼえる。」「かつをぶしを削る、それだけの動作を描写して人を感動させるというのは、なみの才能ではない。」
隆慶一郎
男65歳
0  
古川薫
男64歳
0  
多島斗志之
男40歳
0  
高橋義夫
男43歳
0  
阿久悠
男52歳
0  
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
陳舜臣
黒岩重吾
山口瞳
田辺聖子
藤沢周平
村上元三
平岩弓枝
渡辺淳一
井上ひさし
  ページの先頭へ

選考委員
村上元三男79歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
「墨ぬり…」を推す 総行数93 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
笹倉明
男40歳
19 「題名は、ややこけおどしの気味もないではない。しかし内容は題名とは違って、地味なストーリイを、こつこつとまじめに書いている。」「ストリップガールたちの生態、照明係との関係など、へんに思わせぶりのところがなく、作者は筆を抑えて書いている。凡手ではない、どころではなく、この作者は大成するに違いない。」
ねじめ正一
男41歳
9 「わたしはこの作品に最後まで票を入れなかった。主人公とその周囲はよく描けているが、どうしても作意が表面へ出てくる。それをもっとやわらかく内側に包んでほしかった、と思う。」
隆慶一郎
男65歳
13 「この作者の『吉原御免状』などよりも、ずっと美事に剣客を描いている。作者があとがきに、「かかる異端の小説を」を書いているが、そんなことはない。すでに五味康祐や柴田錬三郎がいろいろ試みた作法であり、このほうがより新鮮であった。時代小説が直木賞にしばらく出てこないし、わたしはこれが直木賞を得てもよいと思った。」
古川薫
男64歳
19 「この作品の一ばんの欠点は、ザビーネというペンフレンドを最後に登場させたことだと思う。アフリカ漁業とザビーネと、二つの主題に割れているし、ザビーネ・フランケを出すのなら、映画でいうロングショットのように、顔立ちはぼやかして、読者の眼から遠ざけてほしかった。」
多島斗志之
男40歳
9 「小道具に使った黒い古い鞄を『密約幻書』はうまく使っているし、明石大佐やレーニンを扱って読者を引き込んで行きながら、これも推理小説の弱点をさらけ出している。自分で面白がって材料をつめこみすぎ、かえって破綻を招いている。」
高橋義夫
男43歳
10 「委員たちの評判がよかったのに、わたしはあまり買わなかった。せっかく作者が描こうとした朝日連峰の山なみや月山あたりも、よく知っているのにわたしの眼には情景が浮んで来なかった。詩情というものに、この作者はおぼれすぎている。」
阿久悠
男52歳
8 「わたしは今期の第一に推したが、票が集まらなかった。小さな島の少年たちの成長、モモ子や勇などがよく描かれている。これがなぜ賞を逸したのか、再読、三読したあとも、残念で仕方がない。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
陳舜臣
黒岩重吾
山口瞳
田辺聖子
藤沢周平
五木寛之
平岩弓枝
渡辺淳一
井上ひさし
  ページの先頭へ

選考委員
平岩弓枝女57歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
高円寺純情商店街を推す 総行数98 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
笹倉明
男40歳
17 「よくまとまった作品であった。テーマも、前作「漂流裁判」よりわかりやすく、今日的である。難をいえば、得体の知れない外国人の女性を、初対面の日本の男達が、比較的、あっさり味方になってしまうのが、一つ間違うと法に触れることだけに、どんなものだろうかと気になった。」
ねじめ正一
男41歳
18 「推したいと思った。」「主人公の少年とその家族が、いきいきと描けているし、商店街の人々の生きた表情が文章の中から立ち上って来る感じで、素直に読ませられ、素直に感動した。近頃、こんなに読後感のいい小説にめぐり合ったことがなかった。」
隆慶一郎
男65歳
16 「そのため(引用者注:短篇連作のため)に一冊にまとめた時、重複することが多く、いささかわずらわしさがあったのはマイナスと思う。」「私は隆さんの「吉原御免状」の愛読者であった。今回の作品には、あの時の思い切りのよさが、今一つ足りなかったような気がする。」
古川薫
男64歳
9 「商社員である主人公の生き方と、ザビーネに対する思いを結ぶものが鮮明でなかったので、テーマが割れてしまったようで惜しい。この作家の作品が持つ独特の雰囲気が私は好きなので、とにかく、残念である。」
多島斗志之
男40歳
7 「着想は面白いのに、その着想を生かし切れなかった。テレビドラマのカットバックのような手法も悪くはないが、読者が読みづらいと感じたら、やはり損だと思ってしまった。」
高橋義夫
男43歳
20 「主人公が最後まで傍観者の域を出ないのが、作品を弱くしている。それと、こうした連作の短篇の場合、最初と最後の章が、いわば腕のみせどころになる筈だが、終章は村芝居をしている登場人物だけが楽しんで、読者を楽しませるには至らなかった。」
阿久悠
男52歳
11 「登場人物の中で一番、魅力的だったモモ子という女性の経済的基盤がよくわからなかった。(引用者中略)哲には不明でもいいが、読者にはわからせるように書いてもらいたかった。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
陳舜臣
黒岩重吾
山口瞳
田辺聖子
藤沢周平
五木寛之
村上元三
渡辺淳一
井上ひさし
  ページの先頭へ

選考委員
渡辺淳一男55歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
好感のもてる作品 総行数123 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
笹倉明
男40歳
31 「前回、わたしはこの人の作品をかって推したが受賞できず、今回、この作品で受賞となったが、わたしは前回のほうをかう。」「主人公のストリッパーは遠い国からきた可哀相な女という域を出ず、前回のレイプされた女の妖しさと不思議さには及ばない。」「ピンスポ一本のつながりという着想も面白いが、いま一つ説得力に欠ける。」
ねじめ正一
男41歳
15 「子供からの視点で書かれ、そこに爽やかさがあるが、同時に一つの限界もある。」「強いて難点をあげると、ディテールにこだわりすぎて小さくまとまりすぎ、いささか筆ののびを欠くところだが、全体として、好感のもてる作品に仕上がっている。」
隆慶一郎
男65歳
8 「材料はいいのだが、骨格だけで肉付きが薄く、シノプシスを読むような味気なさがある。史実を曲解した面白さでなく、正統のなかのふくらみをもった作品を読ませてもらいたいものである。」
古川薫
男64歳
12 「人物も事件もつくられすぎて薄手のものになってしまった。男女の小説は、なによりも実感で書くべきもので、頭で描きすぎると上すべりになり、甘くなる。とくに現代の男女の恋愛は、すべての人々が体験しているだけに、リアリティをもって読者を説得させるのは難しい。」
多島斗志之
男40歳
20 「大きな仕掛けの小説で、発想も新鮮で、国際的陰謀としてさほど不自然ではない。」「今回の候補作中、最も面白かった。」「古い文学的観点だけからいえば問題は多いが、このような情念を切り捨てたのも、また現代の小説の一つのあり方であろう。」
高橋義夫
男43歳
11 「東北の山村の雰囲気はよく出ているが、結局なにを書きたかったのか、イメージが収斂してこない弱さがある。」「すべてを月山丸につなげるのはいささか無理があろう。しかし力のある人である。」
阿久悠
男52歳
22 「主人公のモモ子がやや臭いが、千人針の勝や長谷先生などは生き生きとして、読んでいて楽しい。だが少年の目が悪餓鬼すぎて、ときに大人になりすぎるところと、やや荒すぎるのが難点である。それ以上に、この作家には「瀬戸内少年野球団」という快作があり、それを超えるか否かが問題になるところが、ある意味で不幸である。」
  「今回はそれなりにまとまっていたが、そこから受賞作をとなると、決定的なものがなかった。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
陳舜臣
黒岩重吾
山口瞳
田辺聖子
藤沢周平
五木寛之
村上元三
平岩弓枝
井上ひさし
  ページの先頭へ

選考委員
井上ひさし男54歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
二つの奇蹟 総行数81 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
笹倉明
男40歳
29 「物語になりそうもない小事件の背景を捜査して骨太の物語をつくりあげた」「たしかにこの作者の文章は型どおりである。」「われわれ日本人の深層に根深くひそむアジア蔑視をなんとしてでもえぐり出そうという作者の意思力が、型どおりの感動をすべて黄金に変えてしまったのだ。」
ねじめ正一
男41歳
23 「日常生活がドラマそのものだということを発見した」「作者の使いこなす小説言語のみごとさがすべての欠点を覆いかくしてしまった。正確でありながら柔軟、厳密でありながら自在、指示機能や記述機能を十全に果しながら、どの文のなかでも言葉は生き生きと跳ねている。」
隆慶一郎
男65歳
8 「柳生一族の剣技の真の意味をめりはりのきいた話術をもって列伝の形式であきらかにした」
古川薫
男64歳
7 「国境を越えたラブロマンスを大人の観賞に耐えるものに練度高く練り上げた」
多島斗志之
男40歳
8 「歴史の細部を着実に積み重ねておいて最後に途方もない虚構をつくってみせてくれた」
高橋義夫
男43歳
7 「質のよい文章に南奥方言を効果的に駆使することによって反物語的な物語を展開した」
阿久悠
男52歳
7 「敗戦直後の、あの明るい混沌の時代の正体を、少年の目を通してはっきり見据えようとする」
  「使い古された表現にたよって云えば、今期の候補作は「粒揃い」であったと思う。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
陳舜臣
黒岩重吾
山口瞳
田辺聖子
藤沢周平
五木寛之
村上元三
平岩弓枝
渡辺淳一
  ページの先頭へ


受賞者・作品
笹倉明男40歳×各選考委員 
『遠い国からの殺人者』
長篇 583
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
陳舜臣
男65歳
20 「前回の候補作「漂流裁判」から一歩も二歩も前進している。ただ話の進行のつなぎに、もうすこし工夫が欲しかった。」「強い問題意識をもった執筆姿勢に好感がもてる。じゃぱゆきさんの境遇というテーマが作者の正義感によって光っている。」
黒岩重吾
男65歳
23 「受賞圏にあると考え、選考会に出席した。」「浩という人間の屑の存在感が自然でリアリティがあるのも、作者が主人公の女性の心理のひだを書き込んでいるせいである。」「ただ読み終って、この種の小説にしては躍動感がないのが気になったが、受賞を否定するほどのものではない。」
山口瞳
男62歳
23 「確実に前回候補作に較べて腕をあげている。」「私は、特に、フィリピンから来た若い踊り子の頼りなげな様子がよく書けているのに感動した。しかし、裁判小説は、事件の謎を解く重要な事実(たとえば被害者がレイプ常習犯で殺人者であったこと)を作者が伏せておいて、その発見が弁護人の手柄になるのが興醒めになる。これは避け難いことなのだろうか。」
田辺聖子
女61歳
17 「氏は遂に現代小説の新しい一つの活路、新鮮な切り口を追求し、それに成功された、という気がする。裁判小説というか、法廷に於ける虚々実々の応酬を重要なモチーフとして事件や人生を切り取る、その手口がいかにもあざやかで興趣横溢、しかも読後、さわやかだが、ずしんとくる何かがある。」「佳品であった。」
藤沢周平
男61歳
21 「読むほどに、次第に寄るべない一人のフィリピン女性の孤独と犯罪がうかび上がって来る感触がすばらしく、重厚な筆力が感じ取れた。」「一見したところは地味な小説であるけれども、中身は十分に濃くて、私はフィクションの本道を行く、いわゆる虚構の真実に手がとどいた作品とみた。」
五木寛之
男56歳
54 「笹倉明さんの小説には、いつも、小説の枠におさまりきれないところがある。一歩ふみはずせば〈大説〉と化しそうな危うさをはらんでおり、そこがまた魅力でもあると思う。」「雑な文章は作品の興趣をそぐことはなはだしい。しかし、アジアと日本人、そして被差別者がさらに弱い者への差別者となってゆく無残な現実がしっかりと見すえられている〈遠い国からの殺人者〉を、今回の受賞作として推すことにためらいはなかった。」
村上元三
男79歳
19 「題名は、ややこけおどしの気味もないではない。しかし内容は題名とは違って、地味なストーリイを、こつこつとまじめに書いている。」「ストリップガールたちの生態、照明係との関係など、へんに思わせぶりのところがなく、作者は筆を抑えて書いている。凡手ではない、どころではなく、この作者は大成するに違いない。」
平岩弓枝
女57歳
17 「よくまとまった作品であった。テーマも、前作「漂流裁判」よりわかりやすく、今日的である。難をいえば、得体の知れない外国人の女性を、初対面の日本の男達が、比較的、あっさり味方になってしまうのが、一つ間違うと法に触れることだけに、どんなものだろうかと気になった。」
渡辺淳一
男55歳
31 「前回、わたしはこの人の作品をかって推したが受賞できず、今回、この作品で受賞となったが、わたしは前回のほうをかう。」「主人公のストリッパーは遠い国からきた可哀相な女という域を出ず、前回のレイプされた女の妖しさと不思議さには及ばない。」「ピンスポ一本のつながりという着想も面白いが、いま一つ説得力に欠ける。」
井上ひさし
男54歳
29 「物語になりそうもない小事件の背景を捜査して骨太の物語をつくりあげた」「たしかにこの作者の文章は型どおりである。」「われわれ日本人の深層に根深くひそむアジア蔑視をなんとしてでもえぐり出そうという作者の意思力が、型どおりの感動をすべて黄金に変えてしまったのだ。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
ねじめ正一
『高円寺純情商店街』
隆慶一郎
『柳生非情剣』
古川薫
『幻のザビーネ』
多島斗志之
『密約幻書』
高橋義夫
『秘宝月山丸』
阿久悠
『墨ぬり少年オペラ』
  ページの先頭へ

受賞者・作品
ねじめ正一男41歳×各選考委員 
『高円寺純情商店街』
連作長篇 330
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
陳舜臣
男65歳
28 「淡彩スケッチふうの佳品である。少年の目を通して、家族や界隈の人たちがあざやかに描かれている。ところが、読んでいても、かんじんの少年の顔がみえてこない。あるいは少年の顔をみせないのが、この作品の基本的な姿勢かもしれない。」
黒岩重吾
男65歳
41 「一番高く評価した」「この種の少年は一見書き易いようだが、最も書き難く、筆に対する抑制力が備わっていないと、変にべとつき、中途半端な少年像になる危険性を抱いている。」「作者のこの見事なコントロールは、総ての登場人物に行き届き、読んでいて不安感が全くない。」
山口瞳
男62歳
15 「純度が高く密度も濃い。雑誌連載中から面白いと思って読んでいたが、傾向からして直木賞の候補にはなるまいと思っていた。敢えて言うならば、これは芥川賞である。」「この作品が票を集めたのも私にとっては実に意外だった。」
田辺聖子
女61歳
14 「何とも楽しめた小説。やわらかな文章であるが、書くべきは書き、抑えるべきは抑えている達意の文章である。主人公の少年がとにかく可愛いい。ふんわりした情趣があとへ残って、読んだ人を幸わせにしてくれる、いうことなしの小説。」
藤沢周平
男61歳
38 「「天狗熱」、「六月の蠅取紙」、「真冬の金魚」の三篇が、素直な文章と初初しい感性でなかなかの短篇になっていた。」「しかし小説の考え方として、私小説よりは虚構の作物をより上位に置きたい私としては、このちまちまとした私小説ふうの骨格を持つ小説にあまり高い点数はつけられず、またこの作品のそういう性格も直木賞にふさわしいものとは思えなかった。」
五木寛之
男56歳
28 「最近これほどの文章つかい(原文傍点)にお目にかかった記憶はない。」「詩と小説の世界をいさぎよいまでに峻別して、舞踏でなく歩行の文体に徹した姿勢に共感をおぼえる。」「かつをぶしを削る、それだけの動作を描写して人を感動させるというのは、なみの才能ではない。」
村上元三
男79歳
9 「わたしはこの作品に最後まで票を入れなかった。主人公とその周囲はよく描けているが、どうしても作意が表面へ出てくる。それをもっとやわらかく内側に包んでほしかった、と思う。」
平岩弓枝
女57歳
18 「推したいと思った。」「主人公の少年とその家族が、いきいきと描けているし、商店街の人々の生きた表情が文章の中から立ち上って来る感じで、素直に読ませられ、素直に感動した。近頃、こんなに読後感のいい小説にめぐり合ったことがなかった。」
渡辺淳一
男55歳
15 「子供からの視点で書かれ、そこに爽やかさがあるが、同時に一つの限界もある。」「強いて難点をあげると、ディテールにこだわりすぎて小さくまとまりすぎ、いささか筆ののびを欠くところだが、全体として、好感のもてる作品に仕上がっている。」
井上ひさし
男54歳
23 「日常生活がドラマそのものだということを発見した」「作者の使いこなす小説言語のみごとさがすべての欠点を覆いかくしてしまった。正確でありながら柔軟、厳密でありながら自在、指示機能や記述機能を十全に果しながら、どの文のなかでも言葉は生き生きと跳ねている。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
笹倉明
『遠い国からの殺人者』
隆慶一郎
『柳生非情剣』
古川薫
『幻のザビーネ』
多島斗志之
『密約幻書』
高橋義夫
『秘宝月山丸』
阿久悠
『墨ぬり少年オペラ』
  ページの先頭へ

候補者・作品
隆慶一郎男65歳×各選考委員 
『柳生非情剣』
連作6篇 280
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
陳舜臣
男65歳
7 「いつものことながら、作者の世界にひきこまれて、あっというまに読んだ。作者の批評精神が、ときどき作中にのぞくが、私にはそれほど気にならなかった。」
黒岩重吾
男65歳
13 「受賞圏にあると考え、選考会に出席した。」「これまでの作者の諸作品にない燻し銀に似た艶がある。」「吸い込んだもろもろの血を滲ませた古刀を見たような気がした。」「すぐれた佳作である。」
山口瞳
男62歳
15 「とてもわかりやすい。論旨明快である。隆さんは、エンターテイナーとして、奥の深いスケールの大きな作者だと思っているが、それだけに『柳生非情剣』がベストだとは思われない。私は『吉原御免状』の天衣無縫と瑞々しさのほうを評価する。」
田辺聖子
女61歳
20 「私は時代小説に偏見はなく、剣豪小説、剣術小説を嫌いではないと思っている。しかしこの作品には共感がもちにくくて困惑した。」「隆氏のお作品は今までにも面白く拝見した記憶があり、こんなハズはない、ない……と思って読んでいるうちに終りになった、という感じ。」
藤沢周平
男61歳
16 「隆さんの本領を発揮した作品でない点が、少少気の毒だった。このひとの本領は裏面史、歴史上の奇説、稗史といったところに題材をもとめるところにあって、その領域で独自のいい仕事をしているとみるけれども、候補作の世界はその分野から若干ずれるせいか、文章にのびを欠き、読んでいてイメージがふくらまなかった。」「ただし「跛行の剣」は、この作家の特色が出た秀逸な一篇だった。」
五木寛之
男56歳
0  
村上元三
男79歳
13 「この作者の『吉原御免状』などよりも、ずっと美事に剣客を描いている。作者があとがきに、「かかる異端の小説を」を書いているが、そんなことはない。すでに五味康祐や柴田錬三郎がいろいろ試みた作法であり、このほうがより新鮮であった。時代小説が直木賞にしばらく出てこないし、わたしはこれが直木賞を得てもよいと思った。」
平岩弓枝
女57歳
16 「そのため(引用者注:短篇連作のため)に一冊にまとめた時、重複することが多く、いささかわずらわしさがあったのはマイナスと思う。」「私は隆さんの「吉原御免状」の愛読者であった。今回の作品には、あの時の思い切りのよさが、今一つ足りなかったような気がする。」
渡辺淳一
男55歳
8 「材料はいいのだが、骨格だけで肉付きが薄く、シノプシスを読むような味気なさがある。史実を曲解した面白さでなく、正統のなかのふくらみをもった作品を読ませてもらいたいものである。」
井上ひさし
男54歳
8 「柳生一族の剣技の真の意味をめりはりのきいた話術をもって列伝の形式であきらかにした」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
笹倉明
『遠い国からの殺人者』
ねじめ正一
『高円寺純情商店街』
古川薫
『幻のザビーネ』
多島斗志之
『密約幻書』
高橋義夫
『秘宝月山丸』
阿久悠
『墨ぬり少年オペラ』
  ページの先頭へ

候補者・作品
古川薫男64歳×各選考委員 
『幻のザビーネ』
中篇 211
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
陳舜臣
男65歳
9 「贅肉のない文章で独特のムードを醸し出した作品である。」「このような良質の中篇が、日本のエンターテインメントに欠けているのではあるまいか。読んでいてふとシムノンを連想した。」
黒岩重吾
男65歳
15 「受賞圏にあると考え、選考会に出席した。」「作者の感性の若さに感嘆した。小説もなかなか面白い。」「意外に点が入らなかったが、描写が単調に過ぎたことも一因かもしれない。」
山口瞳
男62歳
10 「文章に安定感があって格調も高い。しかし、愛し続けてきたペンフレンドが訪ねてみると娼婦になっていたというのは、いかにも唐突で、これでは因果物になってしまう。むろん、これは古川さんのベストではない。残念だった。」
田辺聖子
女61歳
18 「前回の「正午位置」よりまとまっていてよいと思った。ことに冒頭、ハンブルクでの主人公の追いつめられた気持、犯罪のにおいのする不安感がよく描かれており、興をそそる導入部である。」「現代小説の書き手としても第一級ではないか、作品の底に流れる閑雅にして古典的な、悠々たるロマンチシズムを私は楽しんだ。」
藤沢周平
男61歳
7 「ヘルダーリンの詩を使った構成に詩情があったが、もう一方の殺人容疑が被害者の妻の思いつきで簡単に解けるといったあたりの作りが、安易に思われた。」
五木寛之
男56歳
0  
村上元三
男79歳
19 「この作品の一ばんの欠点は、ザビーネというペンフレンドを最後に登場させたことだと思う。アフリカ漁業とザビーネと、二つの主題に割れているし、ザビーネ・フランケを出すのなら、映画でいうロングショットのように、顔立ちはぼやかして、読者の眼から遠ざけてほしかった。」
平岩弓枝
女57歳
9 「商社員である主人公の生き方と、ザビーネに対する思いを結ぶものが鮮明でなかったので、テーマが割れてしまったようで惜しい。この作家の作品が持つ独特の雰囲気が私は好きなので、とにかく、残念である。」
渡辺淳一
男55歳
12 「人物も事件もつくられすぎて薄手のものになってしまった。男女の小説は、なによりも実感で書くべきもので、頭で描きすぎると上すべりになり、甘くなる。とくに現代の男女の恋愛は、すべての人々が体験しているだけに、リアリティをもって読者を説得させるのは難しい。」
井上ひさし
男54歳
7 「国境を越えたラブロマンスを大人の観賞に耐えるものに練度高く練り上げた」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
笹倉明
『遠い国からの殺人者』
ねじめ正一
『高円寺純情商店街』
隆慶一郎
『柳生非情剣』
多島斗志之
『密約幻書』
高橋義夫
『秘宝月山丸』
阿久悠
『墨ぬり少年オペラ』
  ページの先頭へ

候補者・作品
多島斗志之男40歳×各選考委員 
『密約幻書』
長篇 545
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
陳舜臣
男65歳
15 「まれにみる筆力であるのはいうまでもない。ペレストロイカにまで結びつけるのは行きすぎとおもうが、私は氏に勇み足を気にせずに、これからも気宇壮大な物語をつくってほしいとおもう。」
黒岩重吾
男65歳
0  
山口瞳
男62歳
11 「面白さで言えば、これが一番面白かった。また、私は、この作者が一番書ける人だと思っている。しかし、こういう歴史的事件に基づく小説は途中までは面白くても最後に無理が生じてドタバタになってしまう。その処理がうまくいかないものかと、いつでも思う。」
田辺聖子
女61歳
11 「壮大な虚構にノセられる娯しみ。ことに「P・グリーン回顧録」がいい。ただ後半、錯綜して(引用者中略)キメ手を欠く感じとなったのは惜しい。」
藤沢周平
男61歳
22 「レーニンの約定書をめぐる規模雄大なフィクションで、文章も一級品、ことにP・グリーン回顧録の構成と文章には堪能した。」「しかしこの小説には弱点がある。英公安機関の謀略というせっかくの二重構造のフィクションが、この小説の後半部に密度の希薄な部分、カラ騒ぎの印象を生み出しているのである。私は抜群のテクニックと、虚構に賭けようとする作者の姿勢に一票を投じたものの、この弱点があっては受賞にとどかなかった。」
五木寛之
男56歳
0  
村上元三
男79歳
9 「小道具に使った黒い古い鞄を『密約幻書』はうまく使っているし、明石大佐やレーニンを扱って読者を引き込んで行きながら、これも推理小説の弱点をさらけ出している。自分で面白がって材料をつめこみすぎ、かえって破綻を招いている。」
平岩弓枝
女57歳
7 「着想は面白いのに、その着想を生かし切れなかった。テレビドラマのカットバックのような手法も悪くはないが、読者が読みづらいと感じたら、やはり損だと思ってしまった。」
渡辺淳一
男55歳
20 「大きな仕掛けの小説で、発想も新鮮で、国際的陰謀としてさほど不自然ではない。」「今回の候補作中、最も面白かった。」「古い文学的観点だけからいえば問題は多いが、このような情念を切り捨てたのも、また現代の小説の一つのあり方であろう。」
井上ひさし
男54歳
8 「歴史の細部を着実に積み重ねておいて最後に途方もない虚構をつくってみせてくれた」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
笹倉明
『遠い国からの殺人者』
ねじめ正一
『高円寺純情商店街』
隆慶一郎
『柳生非情剣』
古川薫
『幻のザビーネ』
高橋義夫
『秘宝月山丸』
阿久悠
『墨ぬり少年オペラ』
  ページの先頭へ

候補者・作品
高橋義夫男43歳×各選考委員 
『秘宝月山丸』
長篇 445
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
陳舜臣
男65歳
21 「作品の舞台は、私にとって最も未知の「界隈」であり、そのせいか最も強い印象をうけた。ただ末尾のしめくくりに難点があるようにおもった。方言を多用しているが、それがわかりやすく、地鳴りのような効果があることに感心した。」
黒岩重吾
男65歳
14 「孤島のような山村にいながら、他人の行動を観察し、警戒し合い、それでもなお古い土地によって縛られ、繋っている村人の姿はよく描かれている。」「残念なのはフィクションの魅力が感じられないことである。佳い作品なのに点が集まらなかった理由はそこにあるのではないか。」
山口瞳
男62歳
19 「文化人が地方都市や僻地に移住する、すでに何人かが書いている型の小説だ。(引用者中略)それだけでも損をしている。」「主人公がなぜ都会を避けるのか、私にはよくわからなかった。高橋さんは腕力のある作家だと思っているので、これも残念だった。」
田辺聖子
女61歳
18 「都会人の目線からムラの文化構造を見据え、日本民族の伝統の核のようなものをさぐりあてる、その例がバリエーションに富み、群像の面白さも堪能させられた。」「これは物語性を問う小説ではないように思われる。」「小説はどのように書いてもいいのだと問題提起している作品である。」
藤沢周平
男61歳
21 「登場人物が克明にいきいきと描きわけられているのに感服した。」「話はまとまっているものの、だからどうなのかと言えばそれっきりのようなあっけないところがあるのは、身辺雑記ふうの小説の仕立てのせいではないだろうか。高橋さんにはやはり、「闇の葬列」のようなコクのある物語を書いてもらいたい気がする。」
五木寛之
男56歳
0  
村上元三
男79歳
10 「委員たちの評判がよかったのに、わたしはあまり買わなかった。せっかく作者が描こうとした朝日連峰の山なみや月山あたりも、よく知っているのにわたしの眼には情景が浮んで来なかった。詩情というものに、この作者はおぼれすぎている。」
平岩弓枝
女57歳
20 「主人公が最後まで傍観者の域を出ないのが、作品を弱くしている。それと、こうした連作の短篇の場合、最初と最後の章が、いわば腕のみせどころになる筈だが、終章は村芝居をしている登場人物だけが楽しんで、読者を楽しませるには至らなかった。」
渡辺淳一
男55歳
11 「東北の山村の雰囲気はよく出ているが、結局なにを書きたかったのか、イメージが収斂してこない弱さがある。」「すべてを月山丸につなげるのはいささか無理があろう。しかし力のある人である。」
井上ひさし
男54歳
7 「質のよい文章に南奥方言を効果的に駆使することによって反物語的な物語を展開した」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
笹倉明
『遠い国からの殺人者』
ねじめ正一
『高円寺純情商店街』
隆慶一郎
『柳生非情剣』
古川薫
『幻のザビーネ』
多島斗志之
『密約幻書』
阿久悠
『墨ぬり少年オペラ』
  ページの先頭へ

候補者・作品
阿久悠男52歳×各選考委員 
『墨ぬり少年オペラ』
連作長篇 446
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
陳舜臣
男65歳
20 「面白さからいえば、阿久悠氏の作品が(引用者注:「秘宝月山丸」「高円寺純情商店街」「墨ぬり少年オペラ」の中では)第一だが、少年たちのことばが、読んでいる私のなかで肉声化しないのが気になった。あるいはこれは作品に問題があるのではなく、私の読み方が悪いのかもしれない。」
黒岩重吾
男65歳
0  
山口瞳
男62歳
10 「御膳立てはいいのだけれど、その割に感銘に乏しいのはどういうことだろうか。これは映画かTVドラマにしたら面白いと思ったが、そのことがそのままこの小説の弱点になっているような気がした。」
田辺聖子
女61歳
17 「私にはこの作品、巧いけど可愛いげない気がしてしょうがなかった。これは少年たち、というより、狂言廻しのように出てくる女、モモ子の責任であろう。モモ子にリアリティがなく、可愛いげがなかったように思われる。」
藤沢周平
男61歳
13 「うまい小説だが、しかし小説はそれだけでは不十分で、その上に何かヘソのように動かしがたいものが必要ではなかろうか、と思わせる作品でもある。魅力あふれるモモ子が、後半次第にマンネリ化して生彩を失うのはどうしたことだろう。」
五木寛之
男56歳
0  
村上元三
男79歳
8 「わたしは今期の第一に推したが、票が集まらなかった。小さな島の少年たちの成長、モモ子や勇などがよく描かれている。これがなぜ賞を逸したのか、再読、三読したあとも、残念で仕方がない。」
平岩弓枝
女57歳
11 「登場人物の中で一番、魅力的だったモモ子という女性の経済的基盤がよくわからなかった。(引用者中略)哲には不明でもいいが、読者にはわからせるように書いてもらいたかった。」
渡辺淳一
男55歳
22 「主人公のモモ子がやや臭いが、千人針の勝や長谷先生などは生き生きとして、読んでいて楽しい。だが少年の目が悪餓鬼すぎて、ときに大人になりすぎるところと、やや荒すぎるのが難点である。それ以上に、この作家には「瀬戸内少年野球団」という快作があり、それを超えるか否かが問題になるところが、ある意味で不幸である。」
井上ひさし
男54歳
7 「敗戦直後の、あの明るい混沌の時代の正体を、少年の目を通してはっきり見据えようとする」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
笹倉明
『遠い国からの殺人者』
ねじめ正一
『高円寺純情商店街』
隆慶一郎
『柳生非情剣』
古川薫
『幻のザビーネ』
多島斗志之
『密約幻書』
高橋義夫
『秘宝月山丸』
  ページの先頭へ



ページの先頭へ

トップページ直木賞・芥川賞受賞作一覧受賞作・候補作一覧受賞作家の群像候補作家の群像
選考委員の群像小研究大衆選考会リンク集マップ