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第107回
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平成4年/1992年上半期
(平成4年/1992年7月15日決定発表/『オール讀物』平成4年/1992年9月号選評掲載)
選考委員  黒岩重吾
男68歳
藤沢周平
男64歳
五木寛之
男59歳
陳舜臣
男68歳
山口瞳
男65歳
平岩弓枝
女60歳
井上ひさし
男57歳
田辺聖子
女64歳
渡辺淳一
男58歳
選評総行数  88 124 104 116 129 57 131 108 84
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
伊集院静 『受け月』
415
男42歳
50 40 26 49 108 13 30 25 22
内海隆一郎 『人びとの光景』
406
男55歳
0 0 10 14 3 10 20 3 7
海老沢泰久 『美味礼讃』
802
男42歳
0 0 18 5 12 8 14 62 19
中村彰彦 『五左衛門坂の敵討』
418
男43歳
25 27 17 18 3 12 25 18 15
清水義範 『柏木誠治の生活』
447
男44歳
13 57 12 28 6 5 19 3 21
                 
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『オール讀物』平成4年/1992年9月号
1行当たりの文字数:13字


選考委員
黒岩重吾男68歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
天性の抒情感 総行数88 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
伊集院静
男42歳
50 「単なる安堵感以上のものがあった。暑い季節なのに、花の香をそれとなく含んだ春の微風に頬をくすぐられたような、甘い爽やかさを感じたのかもしれない。」「どうもこの作者は、小説の人間像から垢や脂をたくみに拭い去り、人生に慈愛の眼を注ぎながら描く、独得の才能を持っているらしい。」「私が最も惹かれたのは「夕空晴れて」と「切子皿」だが、惜しい、と感じたのは「菓子の家」である。」
内海隆一郎
男55歳
0  
海老沢泰久
男42歳
0  
中村彰彦
男43歳
25 「面白く読んだ。私が四篇のうち最も魅力を感じたのは「龍ノ口の美少年」である。(引用者中略)他の作品と違い、資料に振り廻されていない。」「主人公である美少年が、情を移しかけている〓(引用者注:禾+最)所元常を殺す場面も、短い描写の中に、男色家である武将の最期が鮮明に描かれ、興趣をそそった。」
清水義範
男44歳
13 「語り口がたくみで才気は感じられるが、読後感は弱い。この主人公は観察者であって、殆ど行動しない。周囲の人間関係に狼狽し鬱陶しがるだけで、存在感が稀薄なのである。」「才人だけに惜しい気がする。」
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他の選考委員
藤沢周平
五木寛之
陳舜臣
山口瞳
平岩弓枝
井上ひさし
田辺聖子
渡辺淳一
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選考委員
藤沢周平男64歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
あざやかな「切子皿」 総行数124 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
伊集院静
男42歳
40 「「切子皿」があざやかな作品だった。」「胸の内ではうちとけていない親子が、祇園で飯を喰う。人生を感じさせる場面で、その場面を切子皿がぴしりと締めている。この小説には感動がある。」「ところが「切子皿」以外の作品は、まとまってはいるもののどことなく決めどころが手ぬるく、私はこの作品の受賞には消極的賛成の立場に立った。」
内海隆一郎
男55歳
0  
海老沢泰久
男42歳
0  
中村彰彦
男43歳
27 「新鮮な魅力があった。それは多分、この作家が、(引用者中略)自分で渉猟した資料を使って、しかも出来るだけ手を加えずに、事実をして語らしめる手法を自分の小説の方法として書いているからだろうと思う。」「ただこの方法で書いて行くためには、資料の吟味をもっときびしくする必要があるだろう。」
清水義範
男44歳
57 「おもしろい小説だった。」「一冊の本の中に現代のサラリーマン像を見事に定着し得た佳作だと思う。」「特におもしろいと思ったのは、虚構のいろをうすめ、限りなく事実に近づけて書いたこの小説が、当然ながら虚構の作品だということで、この反語的な虚構の物語を成立させるために、清水さんは全力投球をしたように見える。」「この作家の端倪すべからざる奥行きを示していると思った。」
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他の選考委員
黒岩重吾
五木寛之
陳舜臣
山口瞳
平岩弓枝
井上ひさし
田辺聖子
渡辺淳一
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選考委員
五木寛之男59歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
伊集院氏を推す 総行数104 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
伊集院静
男42歳
26 「それぞれの委員が、この作品集の中で気に入った一篇をあげるのが、ほとんどちがった作品であることも興味ぶかかった。」「この作品集では、すでに伊集院静の世界、という独自の世界がはっきりできあがってしまっていることが感じられる。」「しかし、「受け月」には、まだどこか不安定なところがあって、私はそこに作者の今後の可能性を見たいと考えた。」
内海隆一郎
男55歳
10 「品のいいデッサン画を見るような感興をおぼえさせられた。しかし、つい故・向田邦子の世界とくらべてみたりすると、かなり物足りなくおもわれてくる。もう少し悪意が表に出てもいいのではないかと、勝手なことを考えてしまう。」
海老沢泰久
男42歳
18 「この作品の主人公がどこか浅はかな(原文傍点)人間に感じられる点に疑問を覚えた。」「その人間の奥行きが表現されていなければ、作品の魅力は半減する。興味ぶかい題材をあつかいながら、惜しかったな、というのが、正直な感想である。しかし、一気に読まされた筆力はただ者ではない。」
中村彰彦
男43歳
17 「細部にこだわって、髪型や服装などをきっちり書きこんだ視点に感心し、背景を目にみえるように描写する文章にも惹かれたが、ところどころに出てくるあまりに月並みな表現には閉口することもあった。」
清水義範
男44歳
12 「作者の小説技法上の工夫がある。ものを書く人間なら誰しも「いかに書くか」を考えるはずだが、それは「なにを書くか」という問題と切りはなして存在するわけではない。私が清水氏の冒険を評価しながらも、文句なしにこの一篇を推すにいたらなかったのは、そのことに引っかかったからだ。」
  「この数回の候補作品のなかでも、今回はかなり水準の高いほうではないかと考えて選考の席にのぞんだのだが、なぜかそれと反対の感想をもらす委員が少なくなかったのは意外だった。」
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他の選考委員
黒岩重吾
藤沢周平
陳舜臣
山口瞳
平岩弓枝
井上ひさし
田辺聖子
渡辺淳一
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選考委員
陳舜臣男68歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
作品のふくらみ 総行数116 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
伊集院静
男42歳
49 「ふくらみをかんじさせるものが多く、きめどころが浅いという批判もあったが、私には好感がもてた。」「だが、どうもこの作家は読者の想像力に大きく頼りすぎているかんじがする。」「ほめて言えば、伊集院氏はすでに手だれの作家で、その作品に安心感とともに一抹の不満もおぼえる。」
内海隆一郎
男55歳
14 「エピソードとして終わっているのが残念である。私はかなり高く採点したが、意外に票は集まらなかった。オー・ヘンリーやサキにも駄作がある。それが掌篇小説の運命かもしれない。」
海老沢泰久
男42歳
5 「底の浅い作品になっているが、登場人物が浅いところでしかうごいていないからであろう。」
中村彰彦
男43歳
18 「デテールがきちんとした重厚な作品である。だがその重みは小説を読むときの手ごたえというよりは、史実のもつものであるようだ。」「小説づくりがうまいとはいえない、と評した委員がいたが、私は「下手ともいえない」と弁護した。私は中村氏のこれからの長篇の仕事で、構成力をみたいとおもう。」
清水義範
男44歳
28 「これまでの清水氏の作品にみられる、元気な脱線がなく、中年の中間管理職の人物のモンタージュを作ることに終始したのは残念である。」「清水氏に期待するのは、途方もない物語であって、身につまされる話ではない。元気に脱線してほしいとおもう。」
  「今回はとくに群を抜いた作品はなかったようにおもう。」
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他の選考委員
黒岩重吾
藤沢周平
五木寛之
山口瞳
平岩弓枝
井上ひさし
田辺聖子
渡辺淳一
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選考委員
山口瞳男65歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
大男の淋しい影 総行数129 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
伊集院静
男42歳
108 「七篇のなかでは「切子皿」が好きだ。」「こんなに上手な小説家がまだいたのか! 伊集院さんは小道具を使うのがうまい。」「それと、もうひとつ。その土地を描くのがうまい。」「短篇の名手の誕生を小説好きの読者とともに喜びたい。私は久しぶりに堪能した。」
内海隆一郎
男55歳
3 「もっともっと良いものが書けるはずだと思った。」
海老沢泰久
男42歳
12 「辻静雄という、およそ書き辛い人物に挑戦した意気を壮として上位に推したが、こんどの『美味礼讃』はサクセス・ストーリーもしくは辻調理師専門学校の教科書であって小説ではない。小説にするにはもっと苦い所を書いてくれなくちゃ。」
中村彰彦
男43歳
3 「もっともっと良いものが書けるはずだと思った。」
清水義範
男44歳
6 「そこが狙いだとは思うのだが、主人公の性格に何か面白いものがあるとか妙な癖があるとかにしないととても読めない。」
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他の選考委員
黒岩重吾
藤沢周平
五木寛之
陳舜臣
平岩弓枝
井上ひさし
田辺聖子
渡辺淳一
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選考委員
平岩弓枝女60歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
足りないもの 総行数57 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
伊集院静
男42歳
13 「才筆であった。文章がいい意味で軽やかであり、あたたかい。おそらく読者の多くがこの作品に好感を持つに違いない。」「この作品に関してだけいえば、ダンディな都会派である。伊集院さんはいくつもの仮面を内蔵している作家なのかも知れない。」
内海隆一郎
男55歳
10 「人間をさらりと描写しながら、その深いところまでのぞかせてしまう手腕は見事だと思った。気になったのは登場人物の何人かを「さん」づけにして書いたことで、作家と作品との間に距離をおこうという意図かも知れないが、読者との間にも距離が出来てしまった。」
海老沢泰久
男42歳
8 「実名でその人の伝記的小説を書く時、御当人が健在であると視点が一方的になりやすい。結果は絵に描いた餅、きれいに手書きされたメニュウで、実際にこの人物を食べたらさぞおいしいだろうなと思わせられた。」
中村彰彦
男43歳
12 「江戸時代の敵討というものの定義やその実態を把握した上で、この幕末の事件を書くと作家の史観がはっきりわかってテーマを読者に伝えやすい。資料は百パーセント集めて、噛み砕いたら八十パーセントを捨てると良い作品が誕生すると、これは私が師父から教えられたこと。なかなか難しいが。」
清水義範
男44歳
5 「清水さんが作品の守備範囲を広げられた結果の作品で、そのこと自体は大賛成。次の作品を期待したい。」
  「選考会へ出て行く時、今回はもしかすると受賞作なしになるかも知れないという気持があった。五作品とも、背骨の部分で一つ、インパクトが足りないような印象が強かったからである。そつなくまとめているが、読んでいて高揚を感じにくかった。」
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他の選考委員
黒岩重吾
藤沢周平
五木寛之
陳舜臣
山口瞳
井上ひさし
田辺聖子
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選考委員
井上ひさし男57歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
言葉と企み 総行数131 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
伊集院静
男42歳
30 「多言を要すまい。とてもよくできている。」「作者の駆使する言葉は、その一つ一つがいい意味で情緒に濡れていて読む側の心を動かす。」「つつましくキラリと光るものを持ち、かつ巧みに企まれた小傑作が七つも収められているのだから、これは立派な一冊と言わねばならない。」
内海隆一郎
男55歳
20 「二一個の宝石の原石が集められていた。その数の多さは感動的ですらあるが、ここには企みが乏しい。」「いかに人生の断片を積み重ねてもそこに作者の企みが働いていないと人生の真実は浮かび上がってこない。」
海老沢泰久
男42歳
14 「前半と後半には大きな落差がある。」「(引用者注:前半を読んで)これは凄いと座り直したところ、次第に中学生用のつまらぬ偉人伝に堕ちて行く。「主人公は常に善玉」という偉人伝の手法が後半に至って逆に作者を縛り、作者から企む余裕を奪ったのではないか。」
中村彰彦
男43歳
25 「作者は大いに企んでいる。その企みは主として「後日譚」という方法で行われる。」「文章がいかにも古風である。」「書き手が御自分の古風な文章に酔っているような気配を感じた。そのために読む側にはやや興醒めの格低い文章になった気味がある。」
清水義範
男44歳
19 「作者は意識して平凡な事実を平凡に列挙する。奇想、天外より来る作者にはかえって辛い仕事だったろうが、しかしもっと平凡で無機質なものを繰り出した方が目的に叶ったのではないだろうか。せっかくの企みが不消化に終わってしまった感がないでもない。」
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他の選考委員
黒岩重吾
藤沢周平
五木寛之
陳舜臣
山口瞳
平岩弓枝
田辺聖子
渡辺淳一
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選考委員
田辺聖子女64歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
「美味礼讃」の不思議な味 総行数108 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
伊集院静
男42歳
25 「氏のご受賞に異存はない。」「「切子皿」の、父と子は簡潔で情があってよかった。「夕空晴れて」で、「冷泉牛乳」と子供野球の母親が泣きあうくだり、これは男性読者には受けるだろうが、女性読者は目のやり場に困ってしまう(感傷性過多のため)てい(原文傍点)のものである。」
内海隆一郎
男55歳
3 「次の機会を期待したい。」
海老沢泰久
男42歳
62 「大変面白く読んだ」「ただどうして、実名で出す必要があるのだろうと、(最後まで解けない技術的問題として)しこりが残った。」「読みすすむうち、主人公は順風満帆の成功者なのに読者はだんだん、物悲しくなってゆく。」「明るい貌をよそおいつつ、人間の不毛の空しさ、淋しさの砂利が歯にきしみ、ふしぎな味が舌にのこる、珍重すべき一書。」
中村彰彦
男43歳
18 「力作だと思った。措辞に古風なところがあるが、それはそれでかえって一種の風格をもたらす。」「敵を討った男たちも、私闘と知って討ったのだ。それゆえ、異常な緊迫感があって、ごつごつした筆致もそれにふさわしかった。」
清水義範
男44歳
3 「次の機会を期待したい。」
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他の選考委員
黒岩重吾
藤沢周平
五木寛之
陳舜臣
山口瞳
平岩弓枝
井上ひさし
渡辺淳一
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選考委員
渡辺淳一男58歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
手足の文 総行数84 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
伊集院静
男42歳
22 「なかなか巧みな小説で、いわゆる「手足(原文ルビ:てだれ)」という感じを受ける。とくに文章の間合いというか、切り上げの感覚がよく、この技だけでも、直木賞作家として充分の力をもっている。」「強いて難点をあげると、いずれも仕上げがやや浅く、感傷に流れすぎるようである。」
内海隆一郎
男55歳
7 「全体につくりすぎで、発想もいささか平凡である。この種の小説には、いま少し人間の奥底を見詰める鋭利さと、悪意のようなスパイスが必要だろう。」
海老沢泰久
男42歳
19 「冒頭は快調だが、辻静雄という主人公が表に出てくるにつれて、急速に精彩を失ってくる。」「現存の人を選んだせいか突っ込みが浅く、これほどの枚数を費しても、肝腎の主人公が立体的に浮き出てこない。」「力作ではあるが、やや力まかせに書いたレポートといった感じで、いま一つ小説的な味わいとふくらみに欠けるようである。」
中村彰彦
男43歳
15 「文章は古風ながら安定し、史実的な面にもよく目が行き届いているように見えたが、他の選者から、敵討ちの背景に過ちがあるという指摘があったことは残念である。」「一歩すすんで、史実や人物に対して、作者なりの新しい視点や発見がないところが、いささかもの足りない。」
清水義範
男44歳
21 「その意企はおおいに共感できる。」「ただ結果として、ディテールの積み重ねが単なる羅列に終り、最後に、小説的感興へ収斂していかないもどかしさが残った。」「この作者は(引用者中略)自分の進路を模索しているようだが、そこを突き抜けたら、大きな飛躍を期待できそうである。」
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陳舜臣
山口瞳
平岩弓枝
井上ひさし
田辺聖子
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受賞者・作品
伊集院静男42歳×各選考委員 
『受け月』
短篇集7篇 415
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒岩重吾
男68歳
50 「単なる安堵感以上のものがあった。暑い季節なのに、花の香をそれとなく含んだ春の微風に頬をくすぐられたような、甘い爽やかさを感じたのかもしれない。」「どうもこの作者は、小説の人間像から垢や脂をたくみに拭い去り、人生に慈愛の眼を注ぎながら描く、独得の才能を持っているらしい。」「私が最も惹かれたのは「夕空晴れて」と「切子皿」だが、惜しい、と感じたのは「菓子の家」である。」
藤沢周平
男64歳
40 「「切子皿」があざやかな作品だった。」「胸の内ではうちとけていない親子が、祇園で飯を喰う。人生を感じさせる場面で、その場面を切子皿がぴしりと締めている。この小説には感動がある。」「ところが「切子皿」以外の作品は、まとまってはいるもののどことなく決めどころが手ぬるく、私はこの作品の受賞には消極的賛成の立場に立った。」
五木寛之
男59歳
26 「それぞれの委員が、この作品集の中で気に入った一篇をあげるのが、ほとんどちがった作品であることも興味ぶかかった。」「この作品集では、すでに伊集院静の世界、という独自の世界がはっきりできあがってしまっていることが感じられる。」「しかし、「受け月」には、まだどこか不安定なところがあって、私はそこに作者の今後の可能性を見たいと考えた。」
陳舜臣
男68歳
49 「ふくらみをかんじさせるものが多く、きめどころが浅いという批判もあったが、私には好感がもてた。」「だが、どうもこの作家は読者の想像力に大きく頼りすぎているかんじがする。」「ほめて言えば、伊集院氏はすでに手だれの作家で、その作品に安心感とともに一抹の不満もおぼえる。」
山口瞳
男65歳
108 「七篇のなかでは「切子皿」が好きだ。」「こんなに上手な小説家がまだいたのか! 伊集院さんは小道具を使うのがうまい。」「それと、もうひとつ。その土地を描くのがうまい。」「短篇の名手の誕生を小説好きの読者とともに喜びたい。私は久しぶりに堪能した。」
平岩弓枝
女60歳
13 「才筆であった。文章がいい意味で軽やかであり、あたたかい。おそらく読者の多くがこの作品に好感を持つに違いない。」「この作品に関してだけいえば、ダンディな都会派である。伊集院さんはいくつもの仮面を内蔵している作家なのかも知れない。」
井上ひさし
男57歳
30 「多言を要すまい。とてもよくできている。」「作者の駆使する言葉は、その一つ一つがいい意味で情緒に濡れていて読む側の心を動かす。」「つつましくキラリと光るものを持ち、かつ巧みに企まれた小傑作が七つも収められているのだから、これは立派な一冊と言わねばならない。」
田辺聖子
女64歳
25 「氏のご受賞に異存はない。」「「切子皿」の、父と子は簡潔で情があってよかった。「夕空晴れて」で、「冷泉牛乳」と子供野球の母親が泣きあうくだり、これは男性読者には受けるだろうが、女性読者は目のやり場に困ってしまう(感傷性過多のため)てい(原文傍点)のものである。」
渡辺淳一
男58歳
22 「なかなか巧みな小説で、いわゆる「手足(原文ルビ:てだれ)」という感じを受ける。とくに文章の間合いというか、切り上げの感覚がよく、この技だけでも、直木賞作家として充分の力をもっている。」「強いて難点をあげると、いずれも仕上げがやや浅く、感傷に流れすぎるようである。」
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他の候補作
内海隆一郎
『人びとの光景』
海老沢泰久
『美味礼讃』
中村彰彦
『五左衛門坂の敵討』
清水義範
『柏木誠治の生活』
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候補者・作品
内海隆一郎男55歳×各選考委員 
『人びとの光景』
短篇集21篇 406
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒岩重吾
男68歳
0  
藤沢周平
男64歳
0  
五木寛之
男59歳
10 「品のいいデッサン画を見るような感興をおぼえさせられた。しかし、つい故・向田邦子の世界とくらべてみたりすると、かなり物足りなくおもわれてくる。もう少し悪意が表に出てもいいのではないかと、勝手なことを考えてしまう。」
陳舜臣
男68歳
14 「エピソードとして終わっているのが残念である。私はかなり高く採点したが、意外に票は集まらなかった。オー・ヘンリーやサキにも駄作がある。それが掌篇小説の運命かもしれない。」
山口瞳
男65歳
3 「もっともっと良いものが書けるはずだと思った。」
平岩弓枝
女60歳
10 「人間をさらりと描写しながら、その深いところまでのぞかせてしまう手腕は見事だと思った。気になったのは登場人物の何人かを「さん」づけにして書いたことで、作家と作品との間に距離をおこうという意図かも知れないが、読者との間にも距離が出来てしまった。」
井上ひさし
男57歳
20 「二一個の宝石の原石が集められていた。その数の多さは感動的ですらあるが、ここには企みが乏しい。」「いかに人生の断片を積み重ねてもそこに作者の企みが働いていないと人生の真実は浮かび上がってこない。」
田辺聖子
女64歳
3 「次の機会を期待したい。」
渡辺淳一
男58歳
7 「全体につくりすぎで、発想もいささか平凡である。この種の小説には、いま少し人間の奥底を見詰める鋭利さと、悪意のようなスパイスが必要だろう。」
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他の候補作
伊集院静
『受け月』
海老沢泰久
『美味礼讃』
中村彰彦
『五左衛門坂の敵討』
清水義範
『柏木誠治の生活』
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候補者・作品
海老沢泰久男42歳×各選考委員 
『美味礼讃』
長篇 802
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒岩重吾
男68歳
0  
藤沢周平
男64歳
0  
五木寛之
男59歳
18 「この作品の主人公がどこか浅はかな(原文傍点)人間に感じられる点に疑問を覚えた。」「その人間の奥行きが表現されていなければ、作品の魅力は半減する。興味ぶかい題材をあつかいながら、惜しかったな、というのが、正直な感想である。しかし、一気に読まされた筆力はただ者ではない。」
陳舜臣
男68歳
5 「底の浅い作品になっているが、登場人物が浅いところでしかうごいていないからであろう。」
山口瞳
男65歳
12 「辻静雄という、およそ書き辛い人物に挑戦した意気を壮として上位に推したが、こんどの『美味礼讃』はサクセス・ストーリーもしくは辻調理師専門学校の教科書であって小説ではない。小説にするにはもっと苦い所を書いてくれなくちゃ。」
平岩弓枝
女60歳
8 「実名でその人の伝記的小説を書く時、御当人が健在であると視点が一方的になりやすい。結果は絵に描いた餅、きれいに手書きされたメニュウで、実際にこの人物を食べたらさぞおいしいだろうなと思わせられた。」
井上ひさし
男57歳
14 「前半と後半には大きな落差がある。」「(引用者注:前半を読んで)これは凄いと座り直したところ、次第に中学生用のつまらぬ偉人伝に堕ちて行く。「主人公は常に善玉」という偉人伝の手法が後半に至って逆に作者を縛り、作者から企む余裕を奪ったのではないか。」
田辺聖子
女64歳
62 「大変面白く読んだ」「ただどうして、実名で出す必要があるのだろうと、(最後まで解けない技術的問題として)しこりが残った。」「読みすすむうち、主人公は順風満帆の成功者なのに読者はだんだん、物悲しくなってゆく。」「明るい貌をよそおいつつ、人間の不毛の空しさ、淋しさの砂利が歯にきしみ、ふしぎな味が舌にのこる、珍重すべき一書。」
渡辺淳一
男58歳
19 「冒頭は快調だが、辻静雄という主人公が表に出てくるにつれて、急速に精彩を失ってくる。」「現存の人を選んだせいか突っ込みが浅く、これほどの枚数を費しても、肝腎の主人公が立体的に浮き出てこない。」「力作ではあるが、やや力まかせに書いたレポートといった感じで、いま一つ小説的な味わいとふくらみに欠けるようである。」
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他の候補作
伊集院静
『受け月』
内海隆一郎
『人びとの光景』
中村彰彦
『五左衛門坂の敵討』
清水義範
『柏木誠治の生活』
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候補者・作品
中村彰彦男43歳×各選考委員 
『五左衛門坂の敵討』
短篇集4篇 418
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒岩重吾
男68歳
25 「面白く読んだ。私が四篇のうち最も魅力を感じたのは「龍ノ口の美少年」である。(引用者中略)他の作品と違い、資料に振り廻されていない。」「主人公である美少年が、情を移しかけている〓(引用者注:禾+最)所元常を殺す場面も、短い描写の中に、男色家である武将の最期が鮮明に描かれ、興趣をそそった。」
藤沢周平
男64歳
27 「新鮮な魅力があった。それは多分、この作家が、(引用者中略)自分で渉猟した資料を使って、しかも出来るだけ手を加えずに、事実をして語らしめる手法を自分の小説の方法として書いているからだろうと思う。」「ただこの方法で書いて行くためには、資料の吟味をもっときびしくする必要があるだろう。」
五木寛之
男59歳
17 「細部にこだわって、髪型や服装などをきっちり書きこんだ視点に感心し、背景を目にみえるように描写する文章にも惹かれたが、ところどころに出てくるあまりに月並みな表現には閉口することもあった。」
陳舜臣
男68歳
18 「デテールがきちんとした重厚な作品である。だがその重みは小説を読むときの手ごたえというよりは、史実のもつものであるようだ。」「小説づくりがうまいとはいえない、と評した委員がいたが、私は「下手ともいえない」と弁護した。私は中村氏のこれからの長篇の仕事で、構成力をみたいとおもう。」
山口瞳
男65歳
3 「もっともっと良いものが書けるはずだと思った。」
平岩弓枝
女60歳
12 「江戸時代の敵討というものの定義やその実態を把握した上で、この幕末の事件を書くと作家の史観がはっきりわかってテーマを読者に伝えやすい。資料は百パーセント集めて、噛み砕いたら八十パーセントを捨てると良い作品が誕生すると、これは私が師父から教えられたこと。なかなか難しいが。」
井上ひさし
男57歳
25 「作者は大いに企んでいる。その企みは主として「後日譚」という方法で行われる。」「文章がいかにも古風である。」「書き手が御自分の古風な文章に酔っているような気配を感じた。そのために読む側にはやや興醒めの格低い文章になった気味がある。」
田辺聖子
女64歳
18 「力作だと思った。措辞に古風なところがあるが、それはそれでかえって一種の風格をもたらす。」「敵を討った男たちも、私闘と知って討ったのだ。それゆえ、異常な緊迫感があって、ごつごつした筆致もそれにふさわしかった。」
渡辺淳一
男58歳
15 「文章は古風ながら安定し、史実的な面にもよく目が行き届いているように見えたが、他の選者から、敵討ちの背景に過ちがあるという指摘があったことは残念である。」「一歩すすんで、史実や人物に対して、作者なりの新しい視点や発見がないところが、いささかもの足りない。」
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他の候補作
伊集院静
『受け月』
内海隆一郎
『人びとの光景』
海老沢泰久
『美味礼讃』
清水義範
『柏木誠治の生活』
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候補者・作品
清水義範男44歳×各選考委員 
『柏木誠治の生活』
長篇 447
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
黒岩重吾
男68歳
13 「語り口がたくみで才気は感じられるが、読後感は弱い。この主人公は観察者であって、殆ど行動しない。周囲の人間関係に狼狽し鬱陶しがるだけで、存在感が稀薄なのである。」「才人だけに惜しい気がする。」
藤沢周平
男64歳
57 「おもしろい小説だった。」「一冊の本の中に現代のサラリーマン像を見事に定着し得た佳作だと思う。」「特におもしろいと思ったのは、虚構のいろをうすめ、限りなく事実に近づけて書いたこの小説が、当然ながら虚構の作品だということで、この反語的な虚構の物語を成立させるために、清水さんは全力投球をしたように見える。」「この作家の端倪すべからざる奥行きを示していると思った。」
五木寛之
男59歳
12 「作者の小説技法上の工夫がある。ものを書く人間なら誰しも「いかに書くか」を考えるはずだが、それは「なにを書くか」という問題と切りはなして存在するわけではない。私が清水氏の冒険を評価しながらも、文句なしにこの一篇を推すにいたらなかったのは、そのことに引っかかったからだ。」
陳舜臣
男68歳
28 「これまでの清水氏の作品にみられる、元気な脱線がなく、中年の中間管理職の人物のモンタージュを作ることに終始したのは残念である。」「清水氏に期待するのは、途方もない物語であって、身につまされる話ではない。元気に脱線してほしいとおもう。」
山口瞳
男65歳
6 「そこが狙いだとは思うのだが、主人公の性格に何か面白いものがあるとか妙な癖があるとかにしないととても読めない。」
平岩弓枝
女60歳
5 「清水さんが作品の守備範囲を広げられた結果の作品で、そのこと自体は大賛成。次の作品を期待したい。」
井上ひさし
男57歳
19 「作者は意識して平凡な事実を平凡に列挙する。奇想、天外より来る作者にはかえって辛い仕事だったろうが、しかしもっと平凡で無機質なものを繰り出した方が目的に叶ったのではないだろうか。せっかくの企みが不消化に終わってしまった感がないでもない。」
田辺聖子
女64歳
3 「次の機会を期待したい。」
渡辺淳一
男58歳
21 「その意企はおおいに共感できる。」「ただ結果として、ディテールの積み重ねが単なる羅列に終り、最後に、小説的感興へ収斂していかないもどかしさが残った。」「この作者は(引用者中略)自分の進路を模索しているようだが、そこを突き抜けたら、大きな飛躍を期待できそうである。」
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他の候補作
伊集院静
『受け月』
内海隆一郎
『人びとの光景』
海老沢泰久
『美味礼讃』
中村彰彦
『五左衛門坂の敵討』
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