直木賞のすべて
第120回
直木賞-選評の概要 トップページ
直木賞・芥川賞受賞作一覧
受賞作・候補作一覧
受賞作家の群像
候補作家の群像
選考委員の群像
小研究
大衆選考会
リンク集
マップ

ページの最後へ
Last Update[H26]2014/6/20

120   一覧へ 119前の回へ 後の回へ121
平成10年/1998年下半期
(平成11年/1999年1月14日決定発表/『オール讀物』平成11年/1999年3月号選評掲載)
選考委員  井上ひさし
男64歳
田辺聖子
女70歳
渡辺淳一
男65歳
阿刀田高
男64歳
黒岩重吾
男74歳
平岩弓枝
女66歳
津本陽
男69歳
五木寛之
男66歳
選評総行数  124 119 107 119 94 100 86 101
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
宮部みゆき 『理由』
1088
女38歳
35 44 29 26 23 72 20 37
服部まゆみ 『この闇と光』
439
女50歳
16 6 21 54 35 0 21 11
久世光彦 『逃げ水半次無用帖』
703
男63歳
21 23 26 9 20 0 9 10
東野圭吾 『秘密』
727
男40歳
18 12 4 13 7 0 13 26
馳星周 『夜光虫』
1307
男33歳
20 30 16 7 5 0 12 10
横山秀夫 『陰の季節』
376
男41歳
14 5 11 10 4 0 11 7
               
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『オール讀物』平成11年/1999年3月号
1行当たりの文字数:13字


選考委員
井上ひさし男64歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
巨きな作品 総行数124 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮部みゆき
女38歳
35 「バブル期の日本人のいくつかの典型を、もっと言えば、「世間が怖い、隣人が怖い」とおびえる日本人の現在を真正面から書き切った秀作である。」「つねに進んで現在と取り組もうという気丈な作家魂と、新工夫を怠たらぬ精進と、作者得意の定番の三つが一つになって、ここに巨きな作品が生まれたのである。」
服部まゆみ
女50歳
16 「語り手もろとも物語の枠組みを根こそぎ引っくり返してしまう中段でのどんでん返しのあざやかさには感心した。」「原口の純文学っぽい見得の切り方が、そこまで古典的といっていいぐらい端正につくられていた世界に濁りを入れてしまったように見えた。」
久世光彦
男63歳
21 「みごとな美文である。」「文章と事件との喰いちがいを感じてこれは単なる捕物帳ではあるまいとおもった。」「まことに絢爛たる作風だが、その過程で「江戸」が脱け、たとえば可憐な捕物娘お小夜の「思い」が落ちた。とりわけ後者はこの小説と読者との大事な通い路だったから、読む側としては途方に暮れてしまう。」
東野圭吾
男40歳
18 「おもしろい設定だが、その設定は近親相姦の気配を孕んで次第に重みをまし、作者はついにたまりかねて「健全な常識」へ避難してしまったようなふし(原文傍点)がある。「本能としての性欲」と「文化としての恋愛」――この二つをはっきり区別して設定をぐいぐいと問いつめれば破天荒な小説になったはずだが。」
馳星周
男33歳
20 「作者の熱気が途中で何度か物語を神話のように輝かせるが、やがて作中の人間関係が意外に、低調なときの大衆劇の筋立てのように型通りであることが判ってきて、その輝きは失われて行く。負のヒーローの創造と狂気を帯びた語り。二つの冒険をあえて試みた作者の意欲を買うが、その成果には疑問符をつける。」
横山秀夫
男41歳
14 「ただひたすら警察の内部に、とくに人事問題に的を絞る。これは新鮮な切り口で、すぐれた発明である。」「余計な注文をつけると、文章にほんの少し艶がほしい。それから話の転換を担うトリックにもう少し工夫をしていただきたい。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
田辺聖子
渡辺淳一
阿刀田高
黒岩重吾
平岩弓枝
津本陽
五木寛之
  ページの先頭へ

選考委員
田辺聖子女70歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
佳作多く楽しかった 総行数119 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮部みゆき
女38歳
44 「今回ようやく満場一致、各委員が積極的に支持されたのは喜ばしい。」「家族とはなにか。血縁とはなにか。そのテーマに説得力があるのは、作者の裡なる庶民感覚がすこやかでまっとうな点に、信頼感がもてるせいだろう。氏の小説的テクニックも完熟し、インタビューと証言でつないで事件の真実に迫っていくドキュメンタリータッチも、いやみなく興ふかい。」
服部まゆみ
女50歳
6 「メルヘンと思い快く読み進んでいたら、どんでんにつぐどんでん、わざあり――という所。しかしラストに弱味あり。」
久世光彦
男63歳
23 「時代考証がどうの、人物設定がどうの、と、野暮なことはいいっこなし、という面構えだ。」「ただ、この作品でいえば、その幻戯をかける力がやや稀薄だったといえるかもしれない。」「氏の新しい世界の可能性を証明されたと思う。」
東野圭吾
男40歳
12 「超常現象を扱った文学作品の中で性を扱うのはとても危険で、だからこそ作家は挑戦したいのであろうが、ここではそれがナマのかたちで出て不消化だったのが惜しい。しかしそれをのぞくと、おのずからなるユーモアもあっておかしかった。」
馳星周
男33歳
30 「前候補作の「不夜城」よりは私は佳いと思った。なぞときが複雑すぎるけれども、主人公が運命へなだれ落ちてゆく、血の冷えるような降下感覚が共感できる。」「しかし文句なく点を入れるにしては市民感覚的にさからうものがあった。小野寺由紀という日本人の女の子まで何で殺すのだろう。」「が、この作自体は、重ねていうが私には魅力的だった。」
横山秀夫
男41歳
5 「珍らしい題材と、力ある描写力、まことに心強い新人の登場。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
井上ひさし
渡辺淳一
阿刀田高
黒岩重吾
平岩弓枝
津本陽
五木寛之
  ページの先頭へ

選考委員
渡辺淳一男65歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
「理由」と「この闇と光」 総行数107 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮部みゆき
女38歳
29 「単なる推理をこえて、現代の家族というか、人間模様を書きこんでいく幅の広さが魅力的である。」「いい面を認めたうえで、あえて不満をいえば、現代のいろいろな問題をそれなりに過不足なく描きはするが、そこから一歩すすめて、作家的な執念というか、こだわりのようなものが立上ってこない。」
服部まゆみ
女50歳
21 「受賞作とは別に、最も注目した」「後半にいたって、突如、謎解きに堕して魅力を失ってしまう。」「だがそうした欠陥を除いて、前半、いや三分の二くらいまでの、いわゆる闇の部分は巧みな構成と幻想的な緊張感に溢れて、秀逸である。」「今回の候補作のなかではこの作品だけが、文学的な感興に満ちていて、小説を読む楽しみを味わった。」
久世光彦
男63歳
26 「探偵ものとしてはご都合主義が過ぎるし、妖しの小説としては話のすすめかたが捕りものに傾きすぎている。」「部分的にはいくつか光るところがある。」「それにしてもこのような妖しの世界が、著者の内的な世界とたしかにつながっているのか。もしそうならいま少し粘着なものを期待したいし、単に面白さとして書くのなら、このスタイルではいささかもの足りない。」
東野圭吾
男40歳
4 「思いつきだけの小説で、内側で発酵していない欠陥が表れたようである。」
馳星周
男33歳
16 「これだけの長編を書くエネルギーには感心するが、作品の仕上がりは前の候補作「不夜城」よりも落ち、無理なつくりすぎが目立つ。いかに怖いことを書き、次々と人を殺そうとも、そこに内的必然性がなければただのから騒ぎで、文章の単調さとともに、読むほどに退屈してしまう。」
横山秀夫
男41歳
11 「警察の事情に詳しい人らしく、その内部を窺うという点ではそれなりに面白い。しかし最大の欠陥は小説をこねすぎることで、それは裏を返せば、人間を軽く見すぎていることにもなる。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
井上ひさし
田辺聖子
阿刀田高
黒岩重吾
平岩弓枝
津本陽
五木寛之
  ページの先頭へ

選考委員
阿刀田高男64歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
さまざまな家族 総行数119 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮部みゆき
女38歳
26 「あるマンションで起きた四人の殺人事件を提示し、その真相を探査していくうちに、さまざまな家族のありようが見えてくる、というフィクションである。この家族の設定が巧みで舌をまく。宮部さんの長所がよく現われ筆致もよどみなく伸びている。」
服部まゆみ
女50歳
54 「不思議な作品だ。どう読むべきか、判断がむつかしい。結論を先に言えば、このわかりにくさはやはり弱点ではあるまいか。」「サラッと読んだ判断ではリアリティを欠く部分が多すぎる。表現力の巧みさを感じながらも、もう一つ納得がいかなかった。」
久世光彦
男63歳
9 「捕物帖として読めば弱点が多すぎるし、さりとて「ほかのなんなんだ?」と自問しても答えるものがない。上手の手から水が漏れた、という印象が深い。」
東野圭吾
男40歳
13 「小説家のルーティンとして、こういうほどのよい作品が書かれて多くの読者に読まれていることには充分に納得がいくし、それが小説を取り囲む読書界の姿だとは思うけれど、賞の対象として読むと、なにが訴えたいのか、ここまで書いた以上もっと踏み込むべき問題がないのか、ちょっと食い足りない。」
馳星周
男33歳
7 「筆力を充分に感じながらも、どの登場人物にも心を揺すられることがなかった。この種の小説は、それがないと、セックスと殺人と陰謀とザワザワした印象しか与えてくれない。」
横山秀夫
男41歳
10 「まだ不慣れのせいか無理に推理小説を作っている弱点が否めない。表題作はよいが、ほかは“こねた”ような感じがして、もう一息と思った。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
井上ひさし
田辺聖子
渡辺淳一
黒岩重吾
平岩弓枝
津本陽
五木寛之
  ページの先頭へ

選考委員
黒岩重吾男74歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
満票の理由 総行数94 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮部みゆき
女38歳
23 「最終投票において満票となった。大抵の場合、一、二票欠けるから、今回は珍しい受賞といえよう。」「作者は、現代の病弊を徹底的に取材し、小説的に構築する手腕に優れている。」「ただ気になるのは、作者の人間に対するこだわり方である。奥深いところまで届いていない。それにも拘らず満票となったのは、作者の小説に対する執念の成果であろう。」
服部まゆみ
女50歳
35 「大人のメルヘンとして惹かれた。誘拐犯がレイアを返すまでの、日常生活の無気味さには、息を呑むほどの緊迫感が漂っている。」「この作品のラストはそれなりに余韻を残しているが、一人二役の作家が、何故少女レイアとして育てた「僕」を誘拐したのかがどうしても納得できなかった。それにも拘らずこの作品をも推したのは、作者の才能に香気を感じたせいである。」
久世光彦
男63歳
20 「氏の作品の特徴は凝りに凝った文章で読者を酔わすところにある。」「他の委員の中から江戸の匂いがしない、との批判もあり、最終的に推し切れなかったが、女性の怨念やそこから生じる理屈抜きの業火の描写は見事である。」
東野圭吾
男40歳
7 「面白いアイディアだが、肉づけにはかなりの粘りが必要である。それがないとアイディアだけが目立ち、一見ふくよかのようで、痩せた作品になってしまう。」
馳星周
男33歳
5 「今一つ主人公に乗り切れない。これでは殺人鬼的な人物になってしまう。才能のある作家だけに熱気の空廻りは惜しい。」
横山秀夫
男41歳
4 「「鞄」が一番面白く読めた。ただ他の作品では味のない文章が多く、読後感が薄い。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
井上ひさし
田辺聖子
渡辺淳一
阿刀田高
平岩弓枝
津本陽
五木寛之
  ページの先頭へ

選考委員
平岩弓枝女66歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
「理由」について一言 総行数100 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮部みゆき
女38歳
72 「大変な力作だと私も思った。」「ここ数年の宮部さんのめざましい仕事ぶりからしても、今回の受賞は極めて妥当だと思い、賛成した。」「満一歳にもならない赤ん坊が、父親を母親に殺されたという怖しい十字架を背負ったということに対して、作者はどう考え、どう対処しようとしているのかが明らかにされていない。(引用者中略)「理由」という作品に唯一、私が不満を感じたのは、その点であることを書いておきたい。」
服部まゆみ
女50歳
0  
久世光彦
男63歳
0  
東野圭吾
男40歳
0  
馳星周
男33歳
0  
横山秀夫
男41歳
0  
  「(引用者注:受賞作以外の候補作について)共通しているのは、才気が前面に強く押し出されている点だろうか。」「才気は作家にとって貴重な財産だが、それを抑えて書く姿勢のほうが成功するもので、才気に酔うのは、まことに危険だと私は考えている。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
井上ひさし
田辺聖子
渡辺淳一
阿刀田高
黒岩重吾
津本陽
五木寛之
  ページの先頭へ

選考委員
津本陽男69歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
独特の工夫 総行数86 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮部みゆき
女38歳
20 「細部の書きこみがあまりにも多く、容易に話が進まないのにいらだつ思いであったが、実はそれが作者の狙いであるのであろうと、今度はじめて分った。」「読者は漠然としてとらえがたい社会環境の形をこの小説によってとらえたような気分になり、語り手を身近な訳知りの人のように感じる。」「こういう理解と共感を読者に与える独特の工夫を、作者はなしとげていたのである。」
服部まゆみ
女50歳
21 「誘拐されていた少年の闇のなかでの世界と、現実にひきもどされてからの世界との対比の点で、いろいろ納得できない部分があらわれてくるが、全篇に流れる詩情はいい。」
久世光彦
男63歳
9 「ときどき雑誌で目にする短篇で、おどろくような切れ味を見せる作者のものにすれば、日頃の光りをひそめている。時代小説には、まだ手慣れていないように思える。時代の雰囲気に引きこんでくれない。」
東野圭吾
男40歳
13 「女性むきの内容である。」「結末にいくらかの意外性と現実感を与えようとしている。長い平和な時代がつづいていることを、あらためて感じさせられる作品。」
馳星周
男33歳
12 「愛を探し求める彼らの魂が、夜光虫のようにきらめくという筋立ては、たしかに若者たちの気をひく魅力をそなえている。だが、全篇をつらぬく血肉の因縁話には、新味はなかった。」
横山秀夫
男41歳
11 「大きくひろげうる内容を、きわめてコンパクトに仕上げているところが、将来の展開の可能性を予感させる力づよさである。」「今後、大きな作品を仕上げるまでには、苦労をかさねたあげくの成熟を待たねばなるまいが。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
井上ひさし
田辺聖子
渡辺淳一
阿刀田高
黒岩重吾
平岩弓枝
五木寛之
  ページの先頭へ

選考委員
五木寛之男66歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
「理由」を推す理由 総行数101 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮部みゆき
女38歳
37 「発表当初から世評の高かった秀作で、今回の受賞も当然のことのような印象がある。」「宮部さんは、人間を社会に生きる存在として克明に描くという、小説の王道を臆することなくたどりながら、そのなかに人間の内面を鮮かに彫りおこすミステリーを創りあげることに成功した。」
服部まゆみ
女50歳
11 「日本にはこのような世界をめざす書き手がまれなだけに、こころを惹かれるものが少くなかった。しかし、この作家ならばさらに完成度の高い佳作が期待できるのではないか、という意見もあって受賞にはいたらなかった。」
久世光彦
男63歳
10 「久世さんの才華の一端が認められはするものの、久世光彦的世界の独特な持ち味を開花させるには、この舞台では酷としか言いようがない。」
東野圭吾
男40歳
26 「独特の作風という点では際立っている小説だ。」「人間におけるエロスと禁忌の問題を、これほど際どく描こうとした作品を私は知らない。しかし、何かが足りない。踏み込みかた、だろうか。それとも私たちの心性を支える見えない力の不在なのだろうか。」
馳星周
男33歳
10 「作者の共感と読者の共感に微妙なズレを感じるのは私だけだろうか。前作をしのぐ作品を書くことの困難さは、この作家が今後も背おっていかなければならない書き手の宿命かもしれない。」
横山秀夫
男41歳
7 「警察小説のジャンルに新たな一ページを加えた佳作である。しかし、せっかくなら犯罪よりも、人事そのものの陰の部分を徹底的に描き切ってほしかったと思う。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の選考委員
井上ひさし
田辺聖子
渡辺淳一
阿刀田高
黒岩重吾
平岩弓枝
津本陽
  ページの先頭へ


受賞者・作品
宮部みゆき女38歳×各選考委員 
『理由』
長篇 1088
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
井上ひさし
男64歳
35 「バブル期の日本人のいくつかの典型を、もっと言えば、「世間が怖い、隣人が怖い」とおびえる日本人の現在を真正面から書き切った秀作である。」「つねに進んで現在と取り組もうという気丈な作家魂と、新工夫を怠たらぬ精進と、作者得意の定番の三つが一つになって、ここに巨きな作品が生まれたのである。」
田辺聖子
女70歳
44 「今回ようやく満場一致、各委員が積極的に支持されたのは喜ばしい。」「家族とはなにか。血縁とはなにか。そのテーマに説得力があるのは、作者の裡なる庶民感覚がすこやかでまっとうな点に、信頼感がもてるせいだろう。氏の小説的テクニックも完熟し、インタビューと証言でつないで事件の真実に迫っていくドキュメンタリータッチも、いやみなく興ふかい。」
渡辺淳一
男65歳
29 「単なる推理をこえて、現代の家族というか、人間模様を書きこんでいく幅の広さが魅力的である。」「いい面を認めたうえで、あえて不満をいえば、現代のいろいろな問題をそれなりに過不足なく描きはするが、そこから一歩すすめて、作家的な執念というか、こだわりのようなものが立上ってこない。」
阿刀田高
男64歳
26 「あるマンションで起きた四人の殺人事件を提示し、その真相を探査していくうちに、さまざまな家族のありようが見えてくる、というフィクションである。この家族の設定が巧みで舌をまく。宮部さんの長所がよく現われ筆致もよどみなく伸びている。」
黒岩重吾
男74歳
23 「最終投票において満票となった。大抵の場合、一、二票欠けるから、今回は珍しい受賞といえよう。」「作者は、現代の病弊を徹底的に取材し、小説的に構築する手腕に優れている。」「ただ気になるのは、作者の人間に対するこだわり方である。奥深いところまで届いていない。それにも拘らず満票となったのは、作者の小説に対する執念の成果であろう。」
平岩弓枝
女66歳
72 「大変な力作だと私も思った。」「ここ数年の宮部さんのめざましい仕事ぶりからしても、今回の受賞は極めて妥当だと思い、賛成した。」「満一歳にもならない赤ん坊が、父親を母親に殺されたという怖しい十字架を背負ったということに対して、作者はどう考え、どう対処しようとしているのかが明らかにされていない。(引用者中略)「理由」という作品に唯一、私が不満を感じたのは、その点であることを書いておきたい。」
津本陽
男69歳
20 「細部の書きこみがあまりにも多く、容易に話が進まないのにいらだつ思いであったが、実はそれが作者の狙いであるのであろうと、今度はじめて分った。」「読者は漠然としてとらえがたい社会環境の形をこの小説によってとらえたような気分になり、語り手を身近な訳知りの人のように感じる。」「こういう理解と共感を読者に与える独特の工夫を、作者はなしとげていたのである。」
五木寛之
男66歳
37 「発表当初から世評の高かった秀作で、今回の受賞も当然のことのような印象がある。」「宮部さんは、人間を社会に生きる存在として克明に描くという、小説の王道を臆することなくたどりながら、そのなかに人間の内面を鮮かに彫りおこすミステリーを創りあげることに成功した。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
服部まゆみ
『この闇と光』
久世光彦
『逃げ水半次無用帖』
東野圭吾
『秘密』
馳星周
『夜光虫』
横山秀夫
『陰の季節』
  ページの先頭へ

候補者・作品
服部まゆみ女50歳×各選考委員 
『この闇と光』
長篇 439
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
井上ひさし
男64歳
16 「語り手もろとも物語の枠組みを根こそぎ引っくり返してしまう中段でのどんでん返しのあざやかさには感心した。」「原口の純文学っぽい見得の切り方が、そこまで古典的といっていいぐらい端正につくられていた世界に濁りを入れてしまったように見えた。」
田辺聖子
女70歳
6 「メルヘンと思い快く読み進んでいたら、どんでんにつぐどんでん、わざあり――という所。しかしラストに弱味あり。」
渡辺淳一
男65歳
21 「受賞作とは別に、最も注目した」「後半にいたって、突如、謎解きに堕して魅力を失ってしまう。」「だがそうした欠陥を除いて、前半、いや三分の二くらいまでの、いわゆる闇の部分は巧みな構成と幻想的な緊張感に溢れて、秀逸である。」「今回の候補作のなかではこの作品だけが、文学的な感興に満ちていて、小説を読む楽しみを味わった。」
阿刀田高
男64歳
54 「不思議な作品だ。どう読むべきか、判断がむつかしい。結論を先に言えば、このわかりにくさはやはり弱点ではあるまいか。」「サラッと読んだ判断ではリアリティを欠く部分が多すぎる。表現力の巧みさを感じながらも、もう一つ納得がいかなかった。」
黒岩重吾
男74歳
35 「大人のメルヘンとして惹かれた。誘拐犯がレイアを返すまでの、日常生活の無気味さには、息を呑むほどの緊迫感が漂っている。」「この作品のラストはそれなりに余韻を残しているが、一人二役の作家が、何故少女レイアとして育てた「僕」を誘拐したのかがどうしても納得できなかった。それにも拘らずこの作品をも推したのは、作者の才能に香気を感じたせいである。」
平岩弓枝
女66歳
0  
津本陽
男69歳
21 「誘拐されていた少年の闇のなかでの世界と、現実にひきもどされてからの世界との対比の点で、いろいろ納得できない部分があらわれてくるが、全篇に流れる詩情はいい。」
五木寛之
男66歳
11 「日本にはこのような世界をめざす書き手がまれなだけに、こころを惹かれるものが少くなかった。しかし、この作家ならばさらに完成度の高い佳作が期待できるのではないか、という意見もあって受賞にはいたらなかった。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
宮部みゆき
『理由』
久世光彦
『逃げ水半次無用帖』
東野圭吾
『秘密』
馳星周
『夜光虫』
横山秀夫
『陰の季節』
  ページの先頭へ

候補者・作品
久世光彦男63歳×各選考委員 
『逃げ水半次無用帖』
連作7篇 703
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
井上ひさし
男64歳
21 「みごとな美文である。」「文章と事件との喰いちがいを感じてこれは単なる捕物帳ではあるまいとおもった。」「まことに絢爛たる作風だが、その過程で「江戸」が脱け、たとえば可憐な捕物娘お小夜の「思い」が落ちた。とりわけ後者はこの小説と読者との大事な通い路だったから、読む側としては途方に暮れてしまう。」
田辺聖子
女70歳
23 「時代考証がどうの、人物設定がどうの、と、野暮なことはいいっこなし、という面構えだ。」「ただ、この作品でいえば、その幻戯をかける力がやや稀薄だったといえるかもしれない。」「氏の新しい世界の可能性を証明されたと思う。」
渡辺淳一
男65歳
26 「探偵ものとしてはご都合主義が過ぎるし、妖しの小説としては話のすすめかたが捕りものに傾きすぎている。」「部分的にはいくつか光るところがある。」「それにしてもこのような妖しの世界が、著者の内的な世界とたしかにつながっているのか。もしそうならいま少し粘着なものを期待したいし、単に面白さとして書くのなら、このスタイルではいささかもの足りない。」
阿刀田高
男64歳
9 「捕物帖として読めば弱点が多すぎるし、さりとて「ほかのなんなんだ?」と自問しても答えるものがない。上手の手から水が漏れた、という印象が深い。」
黒岩重吾
男74歳
20 「氏の作品の特徴は凝りに凝った文章で読者を酔わすところにある。」「他の委員の中から江戸の匂いがしない、との批判もあり、最終的に推し切れなかったが、女性の怨念やそこから生じる理屈抜きの業火の描写は見事である。」
平岩弓枝
女66歳
0  
津本陽
男69歳
9 「ときどき雑誌で目にする短篇で、おどろくような切れ味を見せる作者のものにすれば、日頃の光りをひそめている。時代小説には、まだ手慣れていないように思える。時代の雰囲気に引きこんでくれない。」
五木寛之
男66歳
10 「久世さんの才華の一端が認められはするものの、久世光彦的世界の独特な持ち味を開花させるには、この舞台では酷としか言いようがない。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
宮部みゆき
『理由』
服部まゆみ
『この闇と光』
東野圭吾
『秘密』
馳星周
『夜光虫』
横山秀夫
『陰の季節』
  ページの先頭へ

候補者・作品
東野圭吾男40歳×各選考委員 
『秘密』
長篇 727
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
井上ひさし
男64歳
18 「おもしろい設定だが、その設定は近親相姦の気配を孕んで次第に重みをまし、作者はついにたまりかねて「健全な常識」へ避難してしまったようなふし(原文傍点)がある。「本能としての性欲」と「文化としての恋愛」――この二つをはっきり区別して設定をぐいぐいと問いつめれば破天荒な小説になったはずだが。」
田辺聖子
女70歳
12 「超常現象を扱った文学作品の中で性を扱うのはとても危険で、だからこそ作家は挑戦したいのであろうが、ここではそれがナマのかたちで出て不消化だったのが惜しい。しかしそれをのぞくと、おのずからなるユーモアもあっておかしかった。」
渡辺淳一
男65歳
4 「思いつきだけの小説で、内側で発酵していない欠陥が表れたようである。」
阿刀田高
男64歳
13 「小説家のルーティンとして、こういうほどのよい作品が書かれて多くの読者に読まれていることには充分に納得がいくし、それが小説を取り囲む読書界の姿だとは思うけれど、賞の対象として読むと、なにが訴えたいのか、ここまで書いた以上もっと踏み込むべき問題がないのか、ちょっと食い足りない。」
黒岩重吾
男74歳
7 「面白いアイディアだが、肉づけにはかなりの粘りが必要である。それがないとアイディアだけが目立ち、一見ふくよかのようで、痩せた作品になってしまう。」
平岩弓枝
女66歳
0  
津本陽
男69歳
13 「女性むきの内容である。」「結末にいくらかの意外性と現実感を与えようとしている。長い平和な時代がつづいていることを、あらためて感じさせられる作品。」
五木寛之
男66歳
26 「独特の作風という点では際立っている小説だ。」「人間におけるエロスと禁忌の問題を、これほど際どく描こうとした作品を私は知らない。しかし、何かが足りない。踏み込みかた、だろうか。それとも私たちの心性を支える見えない力の不在なのだろうか。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
宮部みゆき
『理由』
服部まゆみ
『この闇と光』
久世光彦
『逃げ水半次無用帖』
馳星周
『夜光虫』
横山秀夫
『陰の季節』
  ページの先頭へ

候補者・作品
馳星周男33歳×各選考委員 
『夜光虫』
長篇 1307
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
井上ひさし
男64歳
20 「作者の熱気が途中で何度か物語を神話のように輝かせるが、やがて作中の人間関係が意外に、低調なときの大衆劇の筋立てのように型通りであることが判ってきて、その輝きは失われて行く。負のヒーローの創造と狂気を帯びた語り。二つの冒険をあえて試みた作者の意欲を買うが、その成果には疑問符をつける。」
田辺聖子
女70歳
30 「前候補作の「不夜城」よりは私は佳いと思った。なぞときが複雑すぎるけれども、主人公が運命へなだれ落ちてゆく、血の冷えるような降下感覚が共感できる。」「しかし文句なく点を入れるにしては市民感覚的にさからうものがあった。小野寺由紀という日本人の女の子まで何で殺すのだろう。」「が、この作自体は、重ねていうが私には魅力的だった。」
渡辺淳一
男65歳
16 「これだけの長編を書くエネルギーには感心するが、作品の仕上がりは前の候補作「不夜城」よりも落ち、無理なつくりすぎが目立つ。いかに怖いことを書き、次々と人を殺そうとも、そこに内的必然性がなければただのから騒ぎで、文章の単調さとともに、読むほどに退屈してしまう。」
阿刀田高
男64歳
7 「筆力を充分に感じながらも、どの登場人物にも心を揺すられることがなかった。この種の小説は、それがないと、セックスと殺人と陰謀とザワザワした印象しか与えてくれない。」
黒岩重吾
男74歳
5 「今一つ主人公に乗り切れない。これでは殺人鬼的な人物になってしまう。才能のある作家だけに熱気の空廻りは惜しい。」
平岩弓枝
女66歳
0  
津本陽
男69歳
12 「愛を探し求める彼らの魂が、夜光虫のようにきらめくという筋立ては、たしかに若者たちの気をひく魅力をそなえている。だが、全篇をつらぬく血肉の因縁話には、新味はなかった。」
五木寛之
男66歳
10 「作者の共感と読者の共感に微妙なズレを感じるのは私だけだろうか。前作をしのぐ作品を書くことの困難さは、この作家が今後も背おっていかなければならない書き手の宿命かもしれない。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
宮部みゆき
『理由』
服部まゆみ
『この闇と光』
久世光彦
『逃げ水半次無用帖』
東野圭吾
『秘密』
横山秀夫
『陰の季節』
  ページの先頭へ

候補者・作品
横山秀夫男41歳×各選考委員 
『陰の季節』
連作4篇 376
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
井上ひさし
男64歳
14 「ただひたすら警察の内部に、とくに人事問題に的を絞る。これは新鮮な切り口で、すぐれた発明である。」「余計な注文をつけると、文章にほんの少し艶がほしい。それから話の転換を担うトリックにもう少し工夫をしていただきたい。」
田辺聖子
女70歳
5 「珍らしい題材と、力ある描写力、まことに心強い新人の登場。」
渡辺淳一
男65歳
11 「警察の事情に詳しい人らしく、その内部を窺うという点ではそれなりに面白い。しかし最大の欠陥は小説をこねすぎることで、それは裏を返せば、人間を軽く見すぎていることにもなる。」
阿刀田高
男64歳
10 「まだ不慣れのせいか無理に推理小説を作っている弱点が否めない。表題作はよいが、ほかは“こねた”ような感じがして、もう一息と思った。」
黒岩重吾
男74歳
4 「「鞄」が一番面白く読めた。ただ他の作品では味のない文章が多く、読後感が薄い。」
平岩弓枝
女66歳
0  
津本陽
男69歳
11 「大きくひろげうる内容を、きわめてコンパクトに仕上げているところが、将来の展開の可能性を予感させる力づよさである。」「今後、大きな作品を仕上げるまでには、苦労をかさねたあげくの成熟を待たねばなるまいが。」
五木寛之
男66歳
7 「警察小説のジャンルに新たな一ページを加えた佳作である。しかし、せっかくなら犯罪よりも、人事そのものの陰の部分を徹底的に描き切ってほしかったと思う。」
          - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
他の候補作
宮部みゆき
『理由』
服部まゆみ
『この闇と光』
久世光彦
『逃げ水半次無用帖』
東野圭吾
『秘密』
馳星周
『夜光虫』
  ページの先頭へ



ページの先頭へ

トップページ直木賞・芥川賞受賞作一覧受賞作・候補作一覧受賞作家の群像候補作家の群像
選考委員の群像小研究大衆選考会リンク集マップ