芥川賞のすべて・のようなもの
第150回
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平成25年/2013年下半期
(平成26年/2014年1月16日決定発表/『文藝春秋』平成26年/2014年3月号選評掲載)
選考委員  村上龍
男61歳
川上弘美
女55歳
小川洋子
女51歳
宮本輝
男66歳
堀江敏幸
男50歳
高樹のぶ子
女67歳
山田詠美
女54歳
奥泉光
男57歳
島田雅彦
男52歳
選評総行数  113 102 152 132 158 150 121 123 152
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
小山田浩子 「穴」
160
女30歳
31 19 28 14 35 22 33 26 39
いとうせいこう 「鼻に挟み撃ち」
125
男52歳
5 15 11 13 35 17 26 27 36
岩城けい 「さようなら、オレンジ」
215
女42歳
10 28 57 34 22 31 29 25 39
松波太郎 「LIFE」
151
男31歳
0 18 19 17 36 0 21 13 15
山下澄人 「コルバトントリ」
115
男47歳
0 22 38 11 31 0 16 17 23
                 
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『文藝春秋』平成26年/2014年3月号
1行当たりの文字数:13字


選考委員
村上龍男61歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
選評 総行数113 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
小山田浩子
女30歳
31 「わたしは、『穴』を推したが、複雑な構造の作品ではなかったことにまず好感をもった。」「嫁として、知らない土地に引っ越すというどこにでもあるモチーフを通して、新しく出現してきたものと、失われたものが、一見無秩序に、実は高度な技術で巧みに構築されて提示される。」「「穴」が何を象徴するか、絶対に明らかにしないという意思さえ感じた。それは現代を描く作家として、正統的である。」
いとうせいこう
男52歳
5 「大きな違和感を抱いた。モチーフが交錯するが、複雑な構造にもなり得ていない。」
岩城けい
女42歳
10 「わたしは感動できなかったし、感情移入もできなかった。複雑な作品構造の、ディテールにおいて、「異文化によるパラダイムの違い」を発見できなかったからだ。」
松波太郎
男31歳
0  
山下澄人
男47歳
0  
  「全体的に「複雑な構造」を持つ作品が目についた。」「構造を複雑にすれば複雑にねじれた問題を露わにできるというわけではない。」
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他の選考委員
川上弘美
小川洋子
宮本輝
堀江敏幸
高樹のぶ子
山田詠美
奥泉光
島田雅彦
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選考委員
川上弘美女55歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
処理できないもの 総行数102 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
小山田浩子
女30歳
19 「見えているのに、見えていないものが、この小説にはたくさん出てきます。「幻想的な」という言葉では処理できないものとして、それらを書きとめたのが、この作品の素晴らしさだと思いました。」「言葉が、大切に使われていた。言葉を並べるためではなく、小説を書くために、言葉が使われていた。そしてそれらの文章の奥底に、笑いがあった。強く、推しました。」
いとうせいこう
男52歳
15 「先を読み進めたくなるたくみな語り、さまざまな試み、そして着地もしっかりなされている小説です。ただ、不思議なことに、この小説の核にあるものが、だんだんにわからなくなっていってしまったのです。」
岩城けい
女42歳
28 「ジョーンズ先生への手紙の中で「おとぎ話は書かない」と決意したはずの物語のメタな作り手によって作られているサリマの物語が、最後はまるでハリウッド式おとぎ話のようなエピソードをたたみかけてくるのは、なぜなのだろう。「おとぎ話は書かない」、その文章がなければ、これほどがっかりしなかったかもしれません。」「とはいえ、この小説には、作者の「書きたいこと」があふれていた。熱いものがあった。」
松波太郎
男31歳
18 「猫木という男の造形は、なかなかよかったです。」「けれど惜しい、生まれた子供を、だめになりきれなかった自分の心の中の王国の「二代目」としたところで、お話がずずっと流れてしまった。」
山下澄人
男47歳
22 「視点や時制があちらこちらに飛びつつ世界全体を俯瞰する、という表現方法をこの作者はいつも使っています。今回も、「またかー」と、内心でぶうぶう言いながら(だって、ちょっとこの文体に飽きてきましたし)読んでいたのですが、後半になってから、ぶうぶうはすっかり引っこみました。そうか、作者は、これが書きたかったんだ! と、はっきりわかったような気がしたからです。」「わたしにとって、次点の作品でした。」
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他の選考委員
村上龍
小川洋子
宮本輝
堀江敏幸
高樹のぶ子
山田詠美
奥泉光
島田雅彦
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選考委員
小川洋子女51歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
見返りに失った何か 総行数152 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
小山田浩子
女30歳
28 「人はしょっちゅう穴に落ちている。けれど面倒がって、落ちなかった振りをしたり、そもそも穴など開いていなかったと思い込んでいる。取り繕おうとすればするほど滑稽な振る舞いになるのにも、気づいていない。不穏の底からじわじわと滑稽さがにじみ出てくるまで、もう少しじっくりその場に踏みとどまれる小説であったなら、迷いなく一番に推しただろう。」
いとうせいこう
男52歳
11 「少しでも(引用者注:オリジナルの小説など最初から世界に存在しないという)結論を揺るがす可能性のある一行は、用心深く排除され、どこから突かれても安心なように言い訳が用意されている。その慎重さが私には重荷だった。」
岩城けい
女42歳
57 「(引用者注:「コルバトントリ」と共に)推した。」「生物の中で唯一言語を持ってしまった人間は、見返りに何を失ったのか。進化の過程でただ一人、特異な方向を選んだ者は、繰り返し何度でも分かれ道に立ち返り、選択の意味を問い直す必要がある。作家はその失われた何かを求めるため、言葉で小説を書かなければならない。」
松波太郎
男31歳
19 「猫木の危うさには、どれほど軽薄を装っても誤魔化しきれない切実さがあった。」「だからこそ彼が保育器に向かい、心の中で、〈生きてるかとしお〉と呼び掛ける声には重みがあった。もし妄想の王国にもっと奥行きがあり、としおのいるNICUとつながる秘密の通路が潜んでいたとしたら、彼の声の響きはもっと遠くにまで届いたに違いない。」
山下澄人
男47歳
38 「(引用者注:「さようなら、オレンジ」と共に)推した。」「本来記憶は混乱しているものであり、小説は時間の流れから人を解放するものではあるが、“ぼく”の描く無邪気なほどに自在な軌跡は、山下さんにしか表現できない模様を浮かび上がらせている。何を言われようと、山下さんが目指す方向へ、果ての果てまで突き進んで行ってほしい。」
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他の選考委員
村上龍
川上弘美
宮本輝
堀江敏幸
高樹のぶ子
山田詠美
奥泉光
島田雅彦
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選考委員
宮本輝男66歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
手法や様式の類型化 総行数132 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
小山田浩子
女30歳
14 「平凡な一主婦がなべて抱くであろう心の穴を普遍化している。」「だがそれを幻想や非日常や、マジックリアリズムの手法で描きながら、突然あらわれた穴も、得体の知れない獣も、たくさんの子供たちなども、小説の最後ですべて消えてしまうことに、私は主題からの一種の逃げを感じて推さなかった。」
いとうせいこう
男52歳
13 「ゴーゴリ―の「鼻」と後藤明生の「挟み撃ち」という小説を合体させているが、それによって何を語りたいのかが明晰ではない。」「私は前作もそうだが、今作も、いとうさんだけの独特の才気が無駄使いされているという歯がゆさを感じる。」
岩城けい
女42歳
34 「強く推した。」「外国語を「聞く、話す」だけではなく、「読む、書く」能力も持たなければ、その国での生活のランクアップは望めないのは、なにもオーストラリアに限ったことではない。サリマは挑戦を始めるのだ。」「私は一読して深く感動した。文学の感動、人間の感動というものに心打たれた。」
松波太郎
男31歳
17 「奇妙なエネルギーがある。」「さあ、このちゃらんぽらんな青年は、妻とその子をかかえて、これからどう生きていくのか。まだ何も始まっていないのに、小説はそこで終わってしまう。」「主人公が心のなかで創っている王国も王様の演説も、この小説ではまったく生きていない。」
山下澄人
男47歳
11 「時系列を入れ替えて、何がどうなっているのかわからなくさせる手法が、作者の意図的な企みなのか、自然発生的なものなのか区別がつかない。誤魔化されたという印象をぬぐうことができなかった。」
  「外野席からはうがった批判も多々あるようだが、選考にたずさわる多くの人々が真摯に作品と向き合って、この数十年間の日本の文学を担ってきたことは間違いのない事実なのだ。」「かつては新しいとされた幻想、非日常、マジックリアリズム等々も、すでに類型化している。今回、そのての「新しさ」が類型化したとき、作家は何に依って立つのかをあらためて考えさせられた。」
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他の選考委員
村上龍
川上弘美
小川洋子
堀江敏幸
高樹のぶ子
山田詠美
奥泉光
島田雅彦
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選考委員
堀江敏幸男50歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
鼻と定説 総行数158 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
小山田浩子
女30歳
35 「他の人たちからは見えていないらしい元気なようでいてどこか影の薄い子どもたちや義兄だという謎めいた男、あるいはいつも携帯電話をいじっている夫までが、現実と非現実の境目に用意されたトランプの絵柄みたいに見えてくる。」「地方の町や義理の親族たちの持つ奇妙さが、穴のなかで《鼻》を利かせる手探りのリズムで描かれている」「過度なユーモアを抑えた生真面目さも、日常の《定説》を外れる力になっている。」
いとうせいこう
男52歳
35 「マスク男の言う、「誰も彼も鼻が利かなくなってきた」現代では(引用者中略)「臆測とか忖度とか屈折を通じて慎重に議論を深めていく『嗅ぎあい社会』が消滅しつつあるとの主張には、内だけでなく外への視線も確保されており、話の柄は見かけよりずっと大きい。実名をまじえた自分語りと批評の鼻の孔が、きれいな円ではなく楕円(原文傍点)で描かれていたら、全体の張力はさらに増していただろう。」
岩城けい
女42歳
22 「ひと周りしてすでに何を得た人の余裕が、新天地で言葉を一から学ぼうとしている友人の、緊張感に満ちているはずの現在と未来への眼差しをわずかに濁らせる。それがこの魅力的な作品に、手探りの感覚ではなく、出来あがった《定説》の匂いを呼び込む。」
松波太郎
男31歳
36 「社会常識に欠けるぐうたらに見せかけながらも、見るべきところはしっかり見ている夫と、目の前を見据えているのに自己中心的になりそうな妻の対比がやや図式的に過ぎるとはいえ、生まれてくる命は人をものさしで量ったり《定説》を繰り返したりしない《鼻》の利く世界に送りたいと思わせる一篇だった。」
山下澄人
男47歳
31 「「ぼく」の周囲では時間軸がゆらぎ、人物関係が不分明になる。」「登場人物はみなどこか遠い山の麓の、国王などいない小さな村の住人のようだ。しかも全体に漂う寂しさや悲しさと、王の不在は無関係である。そこがいい。」
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他の選考委員
村上龍
川上弘美
小川洋子
宮本輝
高樹のぶ子
山田詠美
奥泉光
島田雅彦
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選考委員
高樹のぶ子女67歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
「さようなら、オレンジ」 総行数150 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
小山田浩子
女30歳
22 「作者は才能がある。」「しかしそれでも、じくじくと不可解な出来事が続き、思わせぶりに終わってしまった感じが残った。もうすこし突き詰めるか妖しく爆発して欲しかった。」「夫は日常と非日常のどちらの住人なのか。夫の存在が都合良く後退しているのが気になった。」
いとうせいこう
男52歳
17 「現代に仄見える危機も提示され、ニヒルな居直りを装う話術、跳躍力にも優れていて、すでにこの世界に存在する作品をテコにした批評精神はベテラン作家のもの。」「私はこうした先行作品を使う重層小説があっても良いと思ったが、新人離れした知的豪腕ゆえに、マイナスの評価を受けた。」
岩城けい
女42歳
31 「母語とは何かという問題、異国で表現することの困難さに真正面から挑み、切実で美しい世界を見せてくれた。」「この小説は、母語での表現を決意するまでの苦闘の「説明」であり、同時に「結果」ともなっている。すぐれた作品を芥川賞に選ぶ事が出来なくて残念だ。作者にとってだけでなく、日本語の文学賞である芥川賞がこの作品を取り込むことで、内側から相対化をはかるチャンスでもあったのに。」
松波太郎
男31歳
0  
山下澄人
男47歳
0  
  「大事なことはそれが、人について考えさせ、人を励まし、人に滋養を与えるプロダクツかどうかということ。ひと言で言えば「感動」の有る無し、文字通り、感じて動かされるもののこと。」「どのような種類の感動か、何に対しての感動かは様々だ。書かれている中身への共感もあるが、特別な手法しかとることが出来ない作者、その切実さに心を奪われ揺さぶられることで、作品が異様に輝くこともある。」
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他の選考委員
村上龍
川上弘美
小川洋子
宮本輝
堀江敏幸
山田詠美
奥泉光
島田雅彦
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選考委員
山田詠美女54歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
「選評」 総行数121 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
小山田浩子
女30歳
33 「今回、一番、おもしろく読んだのがこれ。ファンタスティックな風景のあちこちに読み手を躓かせる硬い石が散らばっているみたい。転びそうになって、ふと現実に引き戻されるような隅に置けない仕掛け。それらによって、読者は、この作品世界を二重に楽しめる。」「(引用者注:「コルバトントリ」の世界と)ネガとポジのようにも感じられ、両方に心惹かれて、どちらにも丸を付けた。」
いとうせいこう
男52歳
26 「亡くなった作家、そして、眠っている名作に命を与えて目覚めさせるという役割をになう小説というのは確かにあって、しかしながら、それに成功している作品は数少ない。この場合、あやういところを行ったり来たりしている印象を受ける。」「〈アドリブ〉も〈アミダクジ式〉も使わずに〈魂が「あくがれ」る〉小説が書けるくらいの蓄積は、この作者に確実にあると思う。私は、そこに、彼の小説家としての役割を見ている。」
岩城けい
女42歳
29 「感動作、に見える。けれども、読み進める内に幾度となく既視感に襲われる。たとえば、リー・ダニエルズ監督が「プレシャス」という題名で映画化したサファイアの「プッシュ」。」「また、たとえば、これもまた映画化されたキャスリン・ストケット作の「ザ・ヘルプ」。」「どちらも文句なしの感動作だが、そういった感動作を想起させる感動作は、私にとっての感動作ではないのであった。」
松波太郎
男31歳
21 「男の駄目駄目なヤンキー感を出すためなのか、彼の言葉づかいがあまりにも大時代的。」「彼の言葉に、もっと無知故の魅力があったなら、ずっと評価は上がったと思う。馬鹿の口の利き方はこんなもん、と見くびってはいかんよ。」
山下澄人
男47歳
16 「チャーミングな言葉の行きかう黄泉の国の物語として、私は読んだ。〈月の番をしているおじいさん〉を始めとしたいじらしい人々がいっぱいで胸に残る。」「(引用者注:「穴」の世界と)ネガとポジのようにも感じられ、両方に心惹かれて、どちらにも丸を付けた。」
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他の選考委員
村上龍
川上弘美
小川洋子
宮本輝
堀江敏幸
高樹のぶ子
奥泉光
島田雅彦
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選考委員
奥泉光男57歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
芥川賞の伝統 総行数123 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
小山田浩子
女30歳
26 「(引用者注:「コルバトントリ」と共に)推してもよいと考えて自分は選考会に臨んだ。」「「不思議の国のアリス」を導きの糸にして呼び込まれる幻想の物語が小説世界を巧みに彩り、細部へ行き届いた筆の運びとあいまって深い印象を残す。さりげないけれど、高い言葉の技術がここにはあって、堅固でしなやかな構築物の手触りを残す。」
いとうせいこう
男52歳
27 「模倣とパロディーを本質とする小説なるジャンルの伝統に忠実な作品といってよいだろう。」「「二代目後藤明生」を自称するいとう氏が、強い方法意識をもって作り出した、さまざまな逸脱を孕みつつ運動する一篇は高い水準を示して、エンターテイメント小説を含め頽落したリアリズムが支配的な日本語の文学界に活性を与えるものであり、受賞作にふさわしいと自分は考えた。」
岩城けい
女42歳
25 「難民女性が言葉を獲得し世界を獲得していく物語はなかなかに感動的である。だが、この感動は小説が生み出したものではなく、物語の枠組みからくるものにすぎぬとの印象がどうしても拭えなかった。」「類型的な物語から出発するのはべつに悪くない。だが、それを食破ってしまうような言葉の運動と想像力の羽撃きがあってはじめて、小説の感動はもたらされるのだと思います。」
松波太郎
男31歳
13 「未来への見通しがつかぬ不安のなか、人間の生をあくまで肯定しようとする全体の調子(ルビ:トーン)には共感するものを覚えた。悪くない作品であると思う。しかし選考と云うことになると、言葉が世界を切り裂くスリルのようなものがもっと欲しいと、どうしても思ってしまう。」
山下澄人
男47歳
17 「(引用者注:「穴」と共に)推してもよいと考えて自分は選考会に臨んだ。」「山下氏特有の時空や人称に意図的な混乱を呼び込む手法は今回、この手法でなければ浮かび上がらぬ世界の感触を生み出すことに成功していると自分は感じた。」「これは方法に徹底する作者の勝利といってよいだろう。」
  「魅力ある作品が候補作に並び、意見が割れたこともあって、議論にはだいぶ時間がかかった。会場の新喜楽では、選考しながら食事が供されるのだけれど、あまり食べた気がしないのはいつものこと、しかし今回は何が料理に出たのかすらよく覚えていないのはやや残念である。」
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他の選考委員
村上龍
川上弘美
小川洋子
宮本輝
堀江敏幸
高樹のぶ子
山田詠美
島田雅彦
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選考委員
島田雅彦男52歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
メタとベタ 総行数152 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
小山田浩子
女30歳
39 「語り手の他人との接触の仕方が皮膚感覚をベースにしているので、読者にもその緊張が伝わりやすい。」「一文の情報量が多く、語り手は雑念だらけで、本筋から逸脱してばかりいるので、普通はすぐに飽きるところだが、リズムの良さがそれを補ってあまりある。」「イッセー尾形の人間観察にも通じる作者の眼差しは最良の意味で散文的である。」
いとうせいこう
男52歳
36 「ゴーゴリ論、後藤明生論を縦糸に、饒舌体の私語りを横糸にしたタペストリーになっており、随所に仕掛けられたヒューモアと本歌取りは技巧の粋を極めている、といえば、賛辞になるのだが、裏を返せば、インテリの落語のようで、完成された方程式になっているといえば、褒め殺すことになる。」「内輪話もメタフィクションに落とし込めば、知的なパズルになる好例を示してはくれたが、いとうせいこうは技巧的な安全地帯の外に出て、自分をもっと遠くへ飛ばすことができるはずである。」
岩城けい
女42歳
39 「労働者としてのサリマの日常とサユリが恩師ジョーンズ先生に宛てて書いた手紙が交互に示されるが、この構成は他者の目を通じて、自らを客観視するための装置ではあろうけれども、両者はそっぽを向きあっていて、移民同士の複雑な人間関係、習慣や言語の違いからくる摩擦にまつわるエピソードは伝わって来ない。おそらく、言語にまつわる感動的な物語を書こうとする作者の意図が前面に出て、それに必要な細部を取捨選択したからではないか。」
松波太郎
男31歳
15 「ここ十年来の若手作家の定番「ニート小説」と伝統的青春小説の一パターンである「妊娠小説」の進化形というべきもので、その狙いはよくわかる。」「あまりに前向きな倦怠、いかなる苦悩もギャグに変えようとする態度には不思議な感染力があり、作者と世代の違う私も妙に共感してしまった。」
山下澄人
男47歳
23 「山下澄人の文章は粗削りで、稚拙なのだが、それゆえに感情に直接突き刺さってくるところが魅力だ。」「登場人物たちが妙にリアルで、ああこれは山下版の『雪国』なのだなと思って、読むと、腑に落ちる。しかし、それは深読みというもので、読者がよほど解釈を補ってやらないと、今朝見た夢と同様、午後には記憶から消えてしまうのである。」
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他の選考委員
村上龍
川上弘美
小川洋子
宮本輝
堀江敏幸
高樹のぶ子
山田詠美
奥泉光
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受賞者・作品
小山田浩子女30歳×各選考委員 
「穴」
中篇 160
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
村上龍
男61歳
31 「わたしは、『穴』を推したが、複雑な構造の作品ではなかったことにまず好感をもった。」「嫁として、知らない土地に引っ越すというどこにでもあるモチーフを通して、新しく出現してきたものと、失われたものが、一見無秩序に、実は高度な技術で巧みに構築されて提示される。」「「穴」が何を象徴するか、絶対に明らかにしないという意思さえ感じた。それは現代を描く作家として、正統的である。」
川上弘美
女55歳
19 「見えているのに、見えていないものが、この小説にはたくさん出てきます。「幻想的な」という言葉では処理できないものとして、それらを書きとめたのが、この作品の素晴らしさだと思いました。」「言葉が、大切に使われていた。言葉を並べるためではなく、小説を書くために、言葉が使われていた。そしてそれらの文章の奥底に、笑いがあった。強く、推しました。」
小川洋子
女51歳
28 「人はしょっちゅう穴に落ちている。けれど面倒がって、落ちなかった振りをしたり、そもそも穴など開いていなかったと思い込んでいる。取り繕おうとすればするほど滑稽な振る舞いになるのにも、気づいていない。不穏の底からじわじわと滑稽さがにじみ出てくるまで、もう少しじっくりその場に踏みとどまれる小説であったなら、迷いなく一番に推しただろう。」
宮本輝
男66歳
14 「平凡な一主婦がなべて抱くであろう心の穴を普遍化している。」「だがそれを幻想や非日常や、マジックリアリズムの手法で描きながら、突然あらわれた穴も、得体の知れない獣も、たくさんの子供たちなども、小説の最後ですべて消えてしまうことに、私は主題からの一種の逃げを感じて推さなかった。」
堀江敏幸
男50歳
35 「他の人たちからは見えていないらしい元気なようでいてどこか影の薄い子どもたちや義兄だという謎めいた男、あるいはいつも携帯電話をいじっている夫までが、現実と非現実の境目に用意されたトランプの絵柄みたいに見えてくる。」「地方の町や義理の親族たちの持つ奇妙さが、穴のなかで《鼻》を利かせる手探りのリズムで描かれている」「過度なユーモアを抑えた生真面目さも、日常の《定説》を外れる力になっている。」
高樹のぶ子
女67歳
22 「作者は才能がある。」「しかしそれでも、じくじくと不可解な出来事が続き、思わせぶりに終わってしまった感じが残った。もうすこし突き詰めるか妖しく爆発して欲しかった。」「夫は日常と非日常のどちらの住人なのか。夫の存在が都合良く後退しているのが気になった。」
山田詠美
女54歳
33 「今回、一番、おもしろく読んだのがこれ。ファンタスティックな風景のあちこちに読み手を躓かせる硬い石が散らばっているみたい。転びそうになって、ふと現実に引き戻されるような隅に置けない仕掛け。それらによって、読者は、この作品世界を二重に楽しめる。」「(引用者注:「コルバトントリ」の世界と)ネガとポジのようにも感じられ、両方に心惹かれて、どちらにも丸を付けた。」
奥泉光
男57歳
26 「(引用者注:「コルバトントリ」と共に)推してもよいと考えて自分は選考会に臨んだ。」「「不思議の国のアリス」を導きの糸にして呼び込まれる幻想の物語が小説世界を巧みに彩り、細部へ行き届いた筆の運びとあいまって深い印象を残す。さりげないけれど、高い言葉の技術がここにはあって、堅固でしなやかな構築物の手触りを残す。」
島田雅彦
男52歳
39 「語り手の他人との接触の仕方が皮膚感覚をベースにしているので、読者にもその緊張が伝わりやすい。」「一文の情報量が多く、語り手は雑念だらけで、本筋から逸脱してばかりいるので、普通はすぐに飽きるところだが、リズムの良さがそれを補ってあまりある。」「イッセー尾形の人間観察にも通じる作者の眼差しは最良の意味で散文的である。」
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他の候補作
いとうせいこう
「鼻に挟み撃ち」
岩城けい
「さようなら、オレンジ」
松波太郎
「LIFE」
山下澄人
「コルバトントリ」
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候補者・作品
いとうせいこう男52歳×各選考委員 
「鼻に挟み撃ち」
短篇 125
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
村上龍
男61歳
5 「大きな違和感を抱いた。モチーフが交錯するが、複雑な構造にもなり得ていない。」
川上弘美
女55歳
15 「先を読み進めたくなるたくみな語り、さまざまな試み、そして着地もしっかりなされている小説です。ただ、不思議なことに、この小説の核にあるものが、だんだんにわからなくなっていってしまったのです。」
小川洋子
女51歳
11 「少しでも(引用者注:オリジナルの小説など最初から世界に存在しないという)結論を揺るがす可能性のある一行は、用心深く排除され、どこから突かれても安心なように言い訳が用意されている。その慎重さが私には重荷だった。」
宮本輝
男66歳
13 「ゴーゴリ―の「鼻」と後藤明生の「挟み撃ち」という小説を合体させているが、それによって何を語りたいのかが明晰ではない。」「私は前作もそうだが、今作も、いとうさんだけの独特の才気が無駄使いされているという歯がゆさを感じる。」
堀江敏幸
男50歳
35 「マスク男の言う、「誰も彼も鼻が利かなくなってきた」現代では(引用者中略)「臆測とか忖度とか屈折を通じて慎重に議論を深めていく『嗅ぎあい社会』が消滅しつつあるとの主張には、内だけでなく外への視線も確保されており、話の柄は見かけよりずっと大きい。実名をまじえた自分語りと批評の鼻の孔が、きれいな円ではなく楕円(原文傍点)で描かれていたら、全体の張力はさらに増していただろう。」
高樹のぶ子
女67歳
17 「現代に仄見える危機も提示され、ニヒルな居直りを装う話術、跳躍力にも優れていて、すでにこの世界に存在する作品をテコにした批評精神はベテラン作家のもの。」「私はこうした先行作品を使う重層小説があっても良いと思ったが、新人離れした知的豪腕ゆえに、マイナスの評価を受けた。」
山田詠美
女54歳
26 「亡くなった作家、そして、眠っている名作に命を与えて目覚めさせるという役割をになう小説というのは確かにあって、しかしながら、それに成功している作品は数少ない。この場合、あやういところを行ったり来たりしている印象を受ける。」「〈アドリブ〉も〈アミダクジ式〉も使わずに〈魂が「あくがれ」る〉小説が書けるくらいの蓄積は、この作者に確実にあると思う。私は、そこに、彼の小説家としての役割を見ている。」
奥泉光
男57歳
27 「模倣とパロディーを本質とする小説なるジャンルの伝統に忠実な作品といってよいだろう。」「「二代目後藤明生」を自称するいとう氏が、強い方法意識をもって作り出した、さまざまな逸脱を孕みつつ運動する一篇は高い水準を示して、エンターテイメント小説を含め頽落したリアリズムが支配的な日本語の文学界に活性を与えるものであり、受賞作にふさわしいと自分は考えた。」
島田雅彦
男52歳
36 「ゴーゴリ論、後藤明生論を縦糸に、饒舌体の私語りを横糸にしたタペストリーになっており、随所に仕掛けられたヒューモアと本歌取りは技巧の粋を極めている、といえば、賛辞になるのだが、裏を返せば、インテリの落語のようで、完成された方程式になっているといえば、褒め殺すことになる。」「内輪話もメタフィクションに落とし込めば、知的なパズルになる好例を示してはくれたが、いとうせいこうは技巧的な安全地帯の外に出て、自分をもっと遠くへ飛ばすことができるはずである。」
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他の候補作
小山田浩子
「穴」
岩城けい
「さようなら、オレンジ」
松波太郎
「LIFE」
山下澄人
「コルバトントリ」
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候補者・作品
岩城けい女42歳×各選考委員 
「さようなら、オレンジ」
中篇 215
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
村上龍
男61歳
10 「わたしは感動できなかったし、感情移入もできなかった。複雑な作品構造の、ディテールにおいて、「異文化によるパラダイムの違い」を発見できなかったからだ。」
川上弘美
女55歳
28 「ジョーンズ先生への手紙の中で「おとぎ話は書かない」と決意したはずの物語のメタな作り手によって作られているサリマの物語が、最後はまるでハリウッド式おとぎ話のようなエピソードをたたみかけてくるのは、なぜなのだろう。「おとぎ話は書かない」、その文章がなければ、これほどがっかりしなかったかもしれません。」「とはいえ、この小説には、作者の「書きたいこと」があふれていた。熱いものがあった。」
小川洋子
女51歳
57 「(引用者注:「コルバトントリ」と共に)推した。」「生物の中で唯一言語を持ってしまった人間は、見返りに何を失ったのか。進化の過程でただ一人、特異な方向を選んだ者は、繰り返し何度でも分かれ道に立ち返り、選択の意味を問い直す必要がある。作家はその失われた何かを求めるため、言葉で小説を書かなければならない。」
宮本輝
男66歳
34 「強く推した。」「外国語を「聞く、話す」だけではなく、「読む、書く」能力も持たなければ、その国での生活のランクアップは望めないのは、なにもオーストラリアに限ったことではない。サリマは挑戦を始めるのだ。」「私は一読して深く感動した。文学の感動、人間の感動というものに心打たれた。」
堀江敏幸
男50歳
22 「ひと周りしてすでに何を得た人の余裕が、新天地で言葉を一から学ぼうとしている友人の、緊張感に満ちているはずの現在と未来への眼差しをわずかに濁らせる。それがこの魅力的な作品に、手探りの感覚ではなく、出来あがった《定説》の匂いを呼び込む。」
高樹のぶ子
女67歳
31 「母語とは何かという問題、異国で表現することの困難さに真正面から挑み、切実で美しい世界を見せてくれた。」「この小説は、母語での表現を決意するまでの苦闘の「説明」であり、同時に「結果」ともなっている。すぐれた作品を芥川賞に選ぶ事が出来なくて残念だ。作者にとってだけでなく、日本語の文学賞である芥川賞がこの作品を取り込むことで、内側から相対化をはかるチャンスでもあったのに。」
山田詠美
女54歳
29 「感動作、に見える。けれども、読み進める内に幾度となく既視感に襲われる。たとえば、リー・ダニエルズ監督が「プレシャス」という題名で映画化したサファイアの「プッシュ」。」「また、たとえば、これもまた映画化されたキャスリン・ストケット作の「ザ・ヘルプ」。」「どちらも文句なしの感動作だが、そういった感動作を想起させる感動作は、私にとっての感動作ではないのであった。」
奥泉光
男57歳
25 「難民女性が言葉を獲得し世界を獲得していく物語はなかなかに感動的である。だが、この感動は小説が生み出したものではなく、物語の枠組みからくるものにすぎぬとの印象がどうしても拭えなかった。」「類型的な物語から出発するのはべつに悪くない。だが、それを食破ってしまうような言葉の運動と想像力の羽撃きがあってはじめて、小説の感動はもたらされるのだと思います。」
島田雅彦
男52歳
39 「労働者としてのサリマの日常とサユリが恩師ジョーンズ先生に宛てて書いた手紙が交互に示されるが、この構成は他者の目を通じて、自らを客観視するための装置ではあろうけれども、両者はそっぽを向きあっていて、移民同士の複雑な人間関係、習慣や言語の違いからくる摩擦にまつわるエピソードは伝わって来ない。おそらく、言語にまつわる感動的な物語を書こうとする作者の意図が前面に出て、それに必要な細部を取捨選択したからではないか。」
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他の候補作
小山田浩子
「穴」
いとうせいこう
「鼻に挟み撃ち」
松波太郎
「LIFE」
山下澄人
「コルバトントリ」
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候補者・作品
松波太郎男31歳×各選考委員 
「LIFE」
中篇 151
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
村上龍
男61歳
0  
川上弘美
女55歳
18 「猫木という男の造形は、なかなかよかったです。」「けれど惜しい、生まれた子供を、だめになりきれなかった自分の心の中の王国の「二代目」としたところで、お話がずずっと流れてしまった。」
小川洋子
女51歳
19 「猫木の危うさには、どれほど軽薄を装っても誤魔化しきれない切実さがあった。」「だからこそ彼が保育器に向かい、心の中で、〈生きてるかとしお〉と呼び掛ける声には重みがあった。もし妄想の王国にもっと奥行きがあり、としおのいるNICUとつながる秘密の通路が潜んでいたとしたら、彼の声の響きはもっと遠くにまで届いたに違いない。」
宮本輝
男66歳
17 「奇妙なエネルギーがある。」「さあ、このちゃらんぽらんな青年は、妻とその子をかかえて、これからどう生きていくのか。まだ何も始まっていないのに、小説はそこで終わってしまう。」「主人公が心のなかで創っている王国も王様の演説も、この小説ではまったく生きていない。」
堀江敏幸
男50歳
36 「社会常識に欠けるぐうたらに見せかけながらも、見るべきところはしっかり見ている夫と、目の前を見据えているのに自己中心的になりそうな妻の対比がやや図式的に過ぎるとはいえ、生まれてくる命は人をものさしで量ったり《定説》を繰り返したりしない《鼻》の利く世界に送りたいと思わせる一篇だった。」
高樹のぶ子
女67歳
0  
山田詠美
女54歳
21 「男の駄目駄目なヤンキー感を出すためなのか、彼の言葉づかいがあまりにも大時代的。」「彼の言葉に、もっと無知故の魅力があったなら、ずっと評価は上がったと思う。馬鹿の口の利き方はこんなもん、と見くびってはいかんよ。」
奥泉光
男57歳
13 「未来への見通しがつかぬ不安のなか、人間の生をあくまで肯定しようとする全体の調子(ルビ:トーン)には共感するものを覚えた。悪くない作品であると思う。しかし選考と云うことになると、言葉が世界を切り裂くスリルのようなものがもっと欲しいと、どうしても思ってしまう。」
島田雅彦
男52歳
15 「ここ十年来の若手作家の定番「ニート小説」と伝統的青春小説の一パターンである「妊娠小説」の進化形というべきもので、その狙いはよくわかる。」「あまりに前向きな倦怠、いかなる苦悩もギャグに変えようとする態度には不思議な感染力があり、作者と世代の違う私も妙に共感してしまった。」
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他の候補作
小山田浩子
「穴」
いとうせいこう
「鼻に挟み撃ち」
岩城けい
「さようなら、オレンジ」
山下澄人
「コルバトントリ」
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候補者・作品
山下澄人男47歳×各選考委員 
「コルバトントリ」
短篇 115
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
村上龍
男61歳
0  
川上弘美
女55歳
22 「視点や時制があちらこちらに飛びつつ世界全体を俯瞰する、という表現方法をこの作者はいつも使っています。今回も、「またかー」と、内心でぶうぶう言いながら(だって、ちょっとこの文体に飽きてきましたし)読んでいたのですが、後半になってから、ぶうぶうはすっかり引っこみました。そうか、作者は、これが書きたかったんだ! と、はっきりわかったような気がしたからです。」「わたしにとって、次点の作品でした。」
小川洋子
女51歳
38 「(引用者注:「さようなら、オレンジ」と共に)推した。」「本来記憶は混乱しているものであり、小説は時間の流れから人を解放するものではあるが、“ぼく”の描く無邪気なほどに自在な軌跡は、山下さんにしか表現できない模様を浮かび上がらせている。何を言われようと、山下さんが目指す方向へ、果ての果てまで突き進んで行ってほしい。」
宮本輝
男66歳
11 「時系列を入れ替えて、何がどうなっているのかわからなくさせる手法が、作者の意図的な企みなのか、自然発生的なものなのか区別がつかない。誤魔化されたという印象をぬぐうことができなかった。」
堀江敏幸
男50歳
31 「「ぼく」の周囲では時間軸がゆらぎ、人物関係が不分明になる。」「登場人物はみなどこか遠い山の麓の、国王などいない小さな村の住人のようだ。しかも全体に漂う寂しさや悲しさと、王の不在は無関係である。そこがいい。」
高樹のぶ子
女67歳
0  
山田詠美
女54歳
16 「チャーミングな言葉の行きかう黄泉の国の物語として、私は読んだ。〈月の番をしているおじいさん〉を始めとしたいじらしい人々がいっぱいで胸に残る。」「(引用者注:「穴」の世界と)ネガとポジのようにも感じられ、両方に心惹かれて、どちらにも丸を付けた。」
奥泉光
男57歳
17 「(引用者注:「穴」と共に)推してもよいと考えて自分は選考会に臨んだ。」「山下氏特有の時空や人称に意図的な混乱を呼び込む手法は今回、この手法でなければ浮かび上がらぬ世界の感触を生み出すことに成功していると自分は感じた。」「これは方法に徹底する作者の勝利といってよいだろう。」
島田雅彦
男52歳
23 「山下澄人の文章は粗削りで、稚拙なのだが、それゆえに感情に直接突き刺さってくるところが魅力だ。」「登場人物たちが妙にリアルで、ああこれは山下版の『雪国』なのだなと思って、読むと、腑に落ちる。しかし、それは深読みというもので、読者がよほど解釈を補ってやらないと、今朝見た夢と同様、午後には記憶から消えてしまうのである。」
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他の候補作
小山田浩子
「穴」
いとうせいこう
「鼻に挟み撃ち」
岩城けい
「さようなら、オレンジ」
松波太郎
「LIFE」
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