選評の概要
79. 80.81. 82. 83. 84. 85.
86. 87. 88. 89. 90.
91. 92. 93. 94. 95.
96. 97. 98. 99. 100.
101. 102. 103. 104. 105.
106. 107. 108. 109. 110.
111. 112. 113. 114. 115.
116. 117. 118. 119. 120.
121. 122. 123. 124. 125.
126. 127. 128. 129. 130.
131. 132. 133. 134. 135.
136. 137. 138. 139. 140.
141. 142.
生没年月日【注】 | 昭和7年/1932年9月30日~ | |
在任期間 | 第79回~第142回(通算32年・64回) | |
在任年齢 | 45歳9ヶ月~77歳3ヶ月 | |
経歴 | 福岡県生まれ。早稲田大学文学部中退。 | |
受賞歴・候補歴 |
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サブサイトリンク | ||
処女作 | 「さらば、モスクワ愚連隊」(『小説現代』昭和41年/1966年6月号) | |
個人全集 | 『五木寛之小説全集』全36巻・補1巻(昭和55年/1980年8月~昭和57年/1982年7月・講談社刊) | |
直木賞候補歴 | 第55回候補 「さらば、モスクワ愚連隊」(『小説現代』昭和41年/1966年6月号) 第56回受賞 「蒼ざめた馬を見よ」(『別冊文藝春秋』98号[昭和41年/1966年12月]) 第56回候補 「GIブルース」(『オール讀物』昭和41年/1966年11月号) |
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サイト内リンク | ▼直木賞受賞作全作読破への道Part3 |
下記の選評の概要には、評価として◎か○をつけたもの(見方・注意点を参照)、または受賞作に対するもののみ抜粋しました。さらにくわしい情報は、各回の「この回の全概要」をクリックしてご覧ください。
選考委員 五木寛之 46歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
虫明亜呂無 | 55歳 |
○ | 12 | 「興味を持った。この短篇集の中では、候補になった作品よりも、巻末に収録されている〈ペケレットの夏〉のほうが、私は好きだ。虫明さんは若い作家ではないが、小説には新しいところがある。単なるモダニズムの作風と誤解されかねないところがあって、その辺がむずかしいのかもしれない。」 |
52歳 |
― | 0 | ||
42歳 |
― | 0 | ||
「それぞれに一家をなす作風の持主揃いであることに感心した。」「自然、小説づくり(原文傍点)の腕以外の部分での作者の目が問われることになってくる。或はまた、選者の好みの問題になってくるのも仕方がない。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』昭和54年/1979年4月号 |
選考委員 五木寛之 47歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
つかこうへい | 31歳 |
◎ | 4 | 「最終的に私は、つかこうへい氏の作品を受賞作に推したが、各委員の賛意を得ることができなかった。」 |
「直木賞がジャーナリズムの興味をひくために、芸能界に関係のある知名人を候補に集めたというような見方も、一部にはあるらしいが、そんなことはどうでもいいことだ。」「今後とも主催者側のますます大胆溌剌たる遺賢の発掘を望む。」「また訳知り顔の解説家の中には、直木賞の決定に主催団体およぶ文藝春秋社の意向が大きく反映するかのごとき説を述べられたりする向きもあるが、これも全くのナンセンスである。」「そんな無言の誘導や圧力を感じたら、私なぞ即座に選考委員をやめさせて頂く。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』昭和55年/1980年4月号 |
選考委員 五木寛之 48歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
森田誠吾 | 55歳 |
◎ | 3 | 「私は(引用者中略)強く推し、」 |
神吉拓郎 | 52歳 |
◎ | 3 | 「私は(引用者中略)「ブラックバス」を強く推し、」 |
山下惣一 | 45歳 |
○ | 4 | 「(引用者注:「曲亭馬琴遺稿」「ブラックバス」の)つぎに山下惣一氏の「減反神社」など一連の農村を背景にした作品を支持した。」 |
48歳 |
△ | 41 | 「今回はほぼ満票に近いかたちで青島氏が選ばれることになった」「文筆の道ただ一つに夢を託する者たちには、小説という世界はもはや遠いエスタブリッシュメントになってしまったのだろうか。(引用者中略)そんな感慨をおさえきれず、臨席の水上勉氏に、「もう中退生や落伍者の時代じゃなくなったんですね」ともらした」 | |
選評出典:『オール讀物』昭和56年/1981年10月号 |
選考委員 五木寛之 49歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
33歳 |
◎ | 37 | 「つか氏の作品は、私たちの無意識の世界の深いところに鋭く触れるものがある。」「私はこの物語りを遠い祭ばやしを聞くような気分で楽しみながら一気に読み通し、やがて数日たってからずしんと来るものを感じた。」「面白おかしく書きとばせば、それがおのずからなる批評の色合いをおびるという痛快な結果をもたらすので、そういう無意識の狩人を天才と呼んで不自然なわけがない。」 | |
村松友視 | 41歳 |
○ | 20 | 「秀才の苦心作といった趣きだ。」「〈泪橋〉が〈蒲田行進曲〉より小説としていささかも劣るわけではない。私はこの作品の背景をなしている一帯に長く住んでいたことがあるためか、ことに興味ぶかく読んだ。」 |
49歳 |
□ | 10 | 「池波正太郎氏に強く推された。私は池波さんの真情あふるる推挙ぶりに感動し、最初は〈蒲田行進曲〉と〈泪橋〉の二作授賞を主張しながら、最後に変節した。池波さんの批評眼を私は信用しているし、そういう一途な推されかたをする作家には必ず何かがあると思えたからである。」 | |
選評出典:『オール讀物』昭和57年/1982年4月号 |
選考委員 五木寛之 51歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
55歳 |
◎ | 34 | 「二作(引用者注:「私生活」と「友よ、静かに瞑れ」)を受賞作として推したいと考えて選考会にのぞんだ。」「これはきわどい小説である。前作の「ブラックバス」よりも気難しくなく(原文傍点)なった部分だけ俗に近づいており、そのきわどい警戒水位のすれすれで踏みこたえたところが、この作家の手腕だろう。」 | |
北方謙三 | 36歳 |
◎ | 11 | 「二作(引用者注:「私生活」と「友よ、静かに瞑れ」)を受賞作として推したいと考えて選考会にのぞんだ。」「まだ充分に余力のある人だし、有無を言わさぬ作品をひっさげて再挑戦するほうが御本人も納得がいくだろう。」 |
54歳 |
□ | 34 | 「前に候補になった「地雷」とは、がらりと変った作風の力作である。」「人間の業の象徴としての怪魚であるから、原寸大で目に見えてしまうより、遂に得体の知れない幻の生きものとして海中にひそませておきたい思いもあった。そこを描き切れば、この小説はひとつの神話的な世界にまで高まったかもしれない。」 | |
選評出典:『オール讀物』昭和59年/1984年4月号 |
選考委員 五木寛之 53歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
56歳 |
◎ | 23 | 「最も印象にのこった。一見、古風な物語りのようでいて、かならずしもそうではない。」「もし受賞作を選ぶとすればこの作品だろうと考えながら選考の席にのぞんだ。」「幕末から明治という、それだけでも難しそうな時代を背景に、ゆうという女性の前半生を様々な群像とともに描いてみせた作者の力量は相当のものである。」 | |
泡坂妻夫 | 53歳 |
○ | 12 | 「魅力のある小説だった。あえて、ミステリ-に仕立てあげずとも、近頃めずらしい情感のある佳作として、大人が読むに耐える小説の一つになったに違いない。」「ひさびさに小説を読むたのしさをあじわうことができた。」 |
選評出典:『オール讀物』昭和61年/1986年10月号 |
選考委員 五木寛之 54歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
55歳 |
◎ | 13 | 「大きな存在感をもって迫ってきた作家」「お二人(引用者注:山田詠美と白石一郎)が図抜けていると感じた」「直木賞候補八回という実績は、今後ともそのような作家は二度と現れることがないと思われる。」 | |
28歳 |
◎ | 43 | 「ひときわ強い印象を受けた作品」「お二人(引用者注:山田詠美と白石一郎)が図抜けていると感じた」「〈ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー〉と〈ベッドタイムアイズ〉を、ほとんど同時といっていい数年の間に書き分けられる山田氏の才能も空前のものだ。」「林芙美子と同様、向日性のいささか古風なヒューマニストである。あえていうならば〈黒いひまわり〉とでも呼ぶべきその資質に、私は文句なしに共感した。」 | |
高橋義夫 | 41歳 |
○ | 22 | 「骨太な歴史小説として堂々たる作品であることに驚いた。」「横浜の元同心が主人公で、ふと〈ジャッカルの日〉などを連想しながら一気に読んだ。この長篇が受賞をいっしたのは、ただ他に山田、白石両氏の存在があったからに過ぎないだろう。高橋氏の受賞を強く推す声もあったのは当然である。」 |
選評出典:『オール讀物』昭和62年/1987年10月号 |
選考委員 五木寛之 55歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
54歳 |
○ | 9 | 「どの候補作が受賞してもおかしくないではないか、という意見が出てくるにちがいない。私はその通りだと思う。だが、阿部牧郎氏の「それぞれの終楽章」の受賞は、すべての選者の賛意を集めるなにか(原文傍点)を持っていた。それが何かを、私はいま考えているところだ。」 | |
西木正明 | 47歳 |
○ | 8 | 「これが受賞作となっても異論はないと思っていた、とだけ言っておこう。小説をつくろう(原文傍点)とするこの作家の意欲を、高く評価して今後を見守りたい。」 |
「直木賞という賞の肌合いというか、性格というか、そういったものが少し変ってきたようだな、と、いう感じがした。」「無名の新人がいきなり登場して、劇的な長打をかっとばすといった舞台では、なくなってきたような雰囲気なのである。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』昭和63年/1988年4月号 |
選考委員 五木寛之 57歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
57歳 |
○ | 31 | 「直木賞を新人賞と考えている私の目には、泡坂さんはすでに直木賞を超えた堂々たる既成作家として映っていたので、選考会にのぞんで少々とまどうところがあったのも事実である。」「驚くほど簡単に泡坂さんの受賞がきまったのは、当然の結果だろうと思う。他の候補作との差は、歴然たるものがあった。」 | |
高橋義夫 | 44歳 |
○ | 15 | 「(引用者注:『風少女』と)『北緯50度に消ゆ』の二作が受賞作に選ばれてもいいと思っていた。」「作家としての卓抜な構築力が感じられる。その筆力はただごとではない。いずれ私たちを瞠目させる作品を書く人だろう。」 |
樋口有介 | 40歳 |
○ | 20 | 「『風少女』のような作風は、とかくこの国の文壇では軽視されがちな傾向がある。(引用者中略)しかし、私は『風少女』の文体が好きだった。これと『北緯50度に消ゆ』の二作が受賞作に選ばれてもいいと思っていた。」「樋口さんはミステリーにこだわるのをやめたらどうだろう。そうすればもっと自由な、あたらしい小説が書けるのではあるまいか。」 |
「今回の選考会ほどすんなりというか、あっさり受賞作がきまった例を私は知らない。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成2年/1990年9月号 |
選考委員 五木寛之 58歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
酒見賢一 | 27歳 |
○ | 9 | 「すでに一家をなした感のある堂々たる作風で、これが受賞作として推されたとしても異存はなかっただろう。登場後みじかい間に、ここまで完熟する才能には恐るべきものがある。」 |
東郷隆 | 39歳 |
○ | 7 | 「「水阿弥陀仏」が奇妙に印象に残った。ふと魯迅の「故事新編」の作風を連想したのは、この作家の才能にただならぬものを感じたからである。」 |
65歳 |
□ | 23 | 「今回の候補作のなかでは、(引用者中略)最も安定した作家的力量を発揮されていた。」「ただ、直木賞はあくまで新人賞であるという私の固定観念が、この作品を無条件で推すことをためらわせるところがあったのも事実である。」「多少の躊躇はあったが、全選考委員が一致しての評価であれば、異論のあろうはずがない。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成3年/1991年3月号 |
選考委員 五木寛之 59歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
46歳 |
○ | 29 | 「小説としての結構がもっともよくととのっていた」「読んでいて素直にたのしむことができた。主人公の祝靱負の描きかたにふくらみがある。下級官吏の十兵衛にも人間的な魅力が感じられるし、狼狩りの絵巻物もなかなかの壮観だ。」 | |
44歳 |
○ | 18 | 「すでに独自の作風を確立している小説家である。そういう作家が受賞するためには、一種、新しい境地を切りひらく野心的な作品が現れなければならない。その困難を見事にクリアした」「モダンな描写の底に、どこか縄文的な粘りが感じられるのが、この作家の資質をこえた才能だろう。」 | |
小嵐九八郎 | 47歳 |
○ | 11 | 「いっぷう変った全共闘家庭小説だが、両親や周囲の人物の描きかたに卓抜な才能が光っている。平成版の「坊っちゃん」とも読め、私はこの作品が受賞二作の内に入ってもいいな、と思った。」 |
「両高橋氏の受賞をよろこぶ反面、どちらか一篇にしぼる激論もたたかわせてみたかったと思う気持ちもあった。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成4年/1992年3月号 |
選考委員 五木寛之 61歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
37歳 |
◎ | 49 | 「文句タラタラで読んだが、それでも抜群におもしろかった。決して「文句なしの」おもしろさではない。そこにこの作家の力があると思った。」「総じてこの小説には、タフなジャケットの下から甘さが見え隠れするが、それを排除してしまうと、批評家にはほめられても、売れないだろう。ロックの感覚を生かした歌謡曲、というあたりが、この作品の取り柄なのである。」「大沢さんの一篇を受賞作として推した」 | |
小嵐九八郎 | 49歳 |
○ | 26 | 「「鉄塔の泣く街」が私は大好きで、たちまち小嵐さんのファンになってしまった。だが、なぜかその後、どうも会心の作がでてこない。」「こんどの「おらホの選挙」も、小嵐節はたしかにきこえるのだが、いまひとつ乗りがなく、笑いも中途半端にすぼんでしまう。」「この国の作家としては卓抜な批評性をそなえた異才なのだから、もうすこし気合いを入れて力投してほしい。」 |
52歳 |
□ | 4 | 「一家を成した作家である。(引用者注:「新宿鮫 無間人形」との)二作受賞に反対する理由はなかった。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成6年/1994年3月号 |
選考委員 五木寛之 61歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
東郷隆 | 42歳 |
○ | 11 | 「小説の運命に果敢に挑戦しようという野心を感じた」「この二作(引用者注:「蛇鏡」と「終りみだれぬ」)のうちのどちらかが受賞してもおかしくないと思ったのだが、少数意見であったようだ。」 |
坂東眞砂子 | 36歳 |
○ | 13 | 「小説の運命に果敢に挑戦しようという野心を感じた」「この二作(引用者注:「蛇鏡」と「終りみだれぬ」)のうちのどちらかが受賞してもおかしくないと思ったのだが、少数意見であったようだ。」 |
44歳 |
△ | 39 | 「これらの諸作品がすべて「オール讀物」という読物雑誌に発表されていることに私は感嘆した。表題作の『帰郷』をはじめ、いずれもチェホフの短篇を連想させる作風だったからだ。」「十九世紀の小説を思わせる作品が読物雑誌に載り、それが直木賞の候補として挙げられるということは、とりもなおさず小説が老成への道をあゆみつつある何よりの証拠だ」 | |
45歳 |
■ | 14 | 「私も気分よく読んだが、その自分の感覚にどこか素直になれないかすかな軋みをおぼえたことも事実である。小説としては、いささかひよわな面があるとも思った。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成6年/1994年9月号 |
選考委員 五木寛之 62歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
梁石日 | 58歳 |
◎ | 37 | 「異色の候補作だった。こういう作品が受賞すれば、直木賞のイメージも大きく変るかもしれないと思って一票を投じたのだ。この長篇には、何かを書かずにはいられないという、つよい衝動がみなぎっている。その粗削りなエネルギーこそ最近の小説に欠けている大事なものだろう。」 |
63歳 |
△ | 31 | 「私は後半三つの野球小説よりも、学生時代を描いた前半二作品につよく惹かれるところがあった。ことに『夜行列車』の背景をなしている時代相の描写に、胸をしめつけられるような感慨をおぼえたものだ。」 | |
「(引用者注:「夜を賭けて」と「白球残映」の)二作授賞という考えもないではなかったが、どちらか一つにしようという気配が大勢を占めて、投票ということになった。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成7年/1995年9月号 |
選考委員 五木寛之 63歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
43歳 |
○ | 36 | 「ほとんど満票と言っていい支持を受けてのダブル受賞である。」「なにかを言いたい作家の息遣いが感じられるという点で、(引用者中略)際立っていたと思う。」「文体とか、文章とかいったものを新しい意匠として意識せずに、ひとつの機能としてぐいぐい駆使してゆく逞しさに才能があるのではあるまいか。」 | |
47歳 |
○ | 38 | 「ほとんど満票と言っていい支持を受けてのダブル受賞である。」「なにかを言いたい作家の息遣いが感じられるという点で、(引用者中略)際立っていたと思う。」「なによりの美点は、読者に対してフェアであることだ。」「フィクションをフィクションとして読者の前に提出しようといういさぎよさは、たしかに一つの才能である。」 | |
服部真澄 | 34歳 |
○ | 4 | 「私は非常におもしろく読んだが、選考の席では意外に不評だった。」 |
「直木賞の周辺には、どことなく波のうねりのような周期的なリズムがあるらしい。ある時期、しばらく候補作がひどく低調に感じられるときが続くと、こんどは急に迫力のある作品が一斉に押しよせてくる何年かがやってくる、という具合いなのだ。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成8年/1996年3月号 |
選考委員 五木寛之 63歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
浅田次郎 | 44歳 |
◎ | 26 | 「もっとも印象に残った。」「たしかに欠点は多い。」「しかし、それでもなお私は、この浅田氏の野心的な仕事に一票を投じたことを後悔してはいない。いかにエネルギッシュな作家でも、これだけの力作をたて続けに世に問うことは難しいだろうと思えば、「長蛇ヲ逸ス」の感をおさえることができなかった。」 |
35歳 |
△ | 13 | 「推理小説として読めば、いささかの難はあるが、サスペンス小説と受けとめれば納得もいく。ただ私には、バイクで狼犬を追走する場面の描写などひどく物足りなく感じられる部分もあって、『蒼穹の昴』の八方破れのおもしろさに一票を投じることになった。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成8年/1996年9月号 |
選考委員 五木寛之 64歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
篠田節子 | 41歳 |
◎ | 20 | 「前回の候補作『カノン』とくらべると、『ゴサインタン』ははるかに大きな可能性を感じさせる小説で、私に一票を投じさせる魅力があった。」 |
馳星周 | 31歳 |
○ | 37 | 「ド派手さにおいてきわだっている。」「胃もたれのする読者には苦手かもしれないが、ニラ、ネギ、ニンニクが好物という向きにはこたえられない御馳走だろう。」「馳氏は九〇年代の歌舞伎町を描いた作家というよりも、歌舞伎町という街に選ばれた書き手かもしれない。」「馳氏が受賞を逸したのは、現実のほうがさらに巨大な深淵をひめているのではないか、と、読後ふと思ったりする点にあったと思う。」 |
38歳 |
△ | 20 | 「直木賞近来の収穫と言っていい長篇、と脱帽しておこう。」「この作品の場合は、後半三分の一あたりから詠み進むために努力を必要としたあたりに問題がありそうだ。前半の見事な物語づくりに舌を巻かされただけに惜しまれる。」 | |
「今回はどの候補作が受賞しても、それなりに納得できるような気持ちで選考の席にのぞんだ。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成9年/1997年3月号 |
選考委員 五木寛之 64歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
41歳 |
◎ | 23 | 「いまさら言うまでもない当然の受賞と思う。」「今回の「女たちのジハード」は、優れた作家は常にオールラウンド・プレイヤーであることを示している。作中の女たちへの温かい目と、冷徹な目とが見事に共存して、複眼というか、対位法的な作品の構造に舌を巻く思いがあった。」 | |
45歳 |
◎ | 37 | 「どの作品も最近の世相のなかで私たちが見失ってしまっている人間の「情」というものが、たっぷり湛えられた鮮やかな物語で、この作家の大技、小技、ともに優れた実力をよく示す一冊だと感心した。」「「蒼穹の昴」で長蛇を逸した作家が、よくも再度の金的を射とめたものだ。強運も才能のうち、とあらためて思った。」 | |
藤田宜永 | 47歳 |
○ | 20 | 「もしも三作受賞が可能ならば、私は迷わずに藤田宜永さんの「樹下の想い」を推しただろう。すこぶる古風な味わいを持つ恋愛小説で、欠点も多々あるものの、この作家の一筋の「想い」が読む側に強くつたわってくるのを感じた。」 |
「今回は会心の選考会だった。いかにも直木賞作家らしい受賞者二人を得て、すこぶる高揚した気分で帰途についた。それだけではない。惜しくも受賞を逸した他の候補作も、それぞれに魅力的な作品ぞろいだったこともあって、ひさしぶりに選者冥利につきる感じをおぼえさせられたのだ。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成9年/1997年9月号 |
選考委員 五木寛之 65歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
53歳 |
◎ | 24 | 「私は梁、車谷、両氏の二作受賞を提案した」「文句なしの受賞だった。」「一気に読み終えたあと、奇妙な満足感をおぼえた。ふと椎名麟三のことを思い出した、という友人がいたが、私も同じ印象を受けた。」 | |
梁石日 | 61歳 |
◎ | 21 | 「私は梁、車谷、両氏の二作受賞を提案した」「荒けずりな文章がむしろ効果的といっていいような骨太の物語である。」「この作家の会心の力作と言っていいだろう。いかに才能ある書き手にしても、そうちょくちょく書ける作品ではあるまいと思われるだけに、今回の受賞を逸したことは惜しまれる。」 |
重松清 | 35歳 |
○ | 16 | 「この二作(引用者注:「血と骨」「赤目四十八瀧心中未遂」)についで感心した」「人間の存在があらためていとおしくなってくるような作品だった。前作の「ナイフ」のほうがヒリヒリと強く心に刺さってくる感じはあるが、「定年ゴジラ」もまたこの作家の独特の世界であることはまちがない。いずれ必ず受賞して一家をなす才能だと信じている。」 |
「今回の候補作品は、いずれもくっきりした個性を帯びたものが多く、読んでいて非常に興味をそそられるところがあった。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成10年/1998年9月号 |
選考委員 五木寛之 66歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
天童荒太 | 39歳 |
◎ | 44 | 「最後まで推したのだが、意外なほど不評で、」「たしかに「永遠の仔」には多くの欠点がある。」「しかし、それにもかかわらず、この力作には何かがあると今でも思う。しかし、その肝心な何かをはっきりとつかみ出し、誰もが納得するような説明をすることが私にはできなかった。」「作品自体が、そのような小器用な解説を拒む謎、不可侵の核を抱いて成り立つ小説であるとも考えられるだろう。」 |
31歳 |
△ | 17 | 「佐藤賢一さんの作品は、新人賞のころからずっと読んできた。」「それもあって、「王妃の離婚」に、新星いず! と驚倒できなかったことを、すこし恥じる気持ちがある。選考する側にも、「初心忘るべからず」の緊張感が常に必要であると、あらためて反省させられた。」 | |
47歳 |
■ | 27 | 「「OUT」とくらべて、新人の小説としての野心に欠けると思った。」「制度としての直木賞のラインからはじき出されたところにこそ、「OUT」の真の栄光があったのではあるまいか。私は胸中にウメガイを抱いているかのように見えるこの作家が、ふたたび「OUT」の世界を描いて「平地人を戦慄せしめ」るであろうことを、ひそかに期待している。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成11年/1999年9月号 |
選考委員 五木寛之 67歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
重松清 | 37歳 |
◎ | 23 | 「私がまず推したのは、重松清さんの『カカシの夏休み』である。」「『未来』につよく惹かれるところがあった。」「彼のめざす道のかなたには、ドストエフスキーやトルストイではなく、ゴーゴリやチェホフの背中がみえているように思う。」 |
31歳 |
○ | 31 | 「二番目に興味ぶかく読んだのは、金城一紀さんの『GO』だった。背後をふり返ることなく前へ前へとつき進む物語りの疾走感は、まさしくエンターテインメントの新世界を切りひらいた感がある。」「主人公が調子よくいきすぎるんじゃないか、と苦笑しつつも、それを許さざるをえない爽快さがあった。」 | |
56歳 |
△ | 14 | 「これまでいくつか読む機会のあった船戸ワールドの諸作品とくらべて、ぬきんでた秀作とはいえないというのが私の感想である。」 | |
「これまでながく選者をつとめてきて、あのときの受賞は決定的にまちがっていたと感じる例は一度もなかったように思う。」「作品としては優れていても、「受賞力」が弱いという場合もありそうだ。しかしその「受賞力」は、かならずしも作品の質とはイコールではない。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成12年/2000年9月号 |
選考委員 五木寛之 68歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
38歳 |
○ | 10 | 「あえて言うことはない堂々たる佳作である。」「手だれの書き手であり、キャリアも十分、新しい野心作も期待できるはずだ。」 | |
37歳 |
○ | 10 | 「あえて言うことはない堂々たる佳作である。」「手だれの書き手であり、キャリアも十分、新しい野心作も期待できるはずだ。」 | |
田口ランディ | 41歳 |
○ | 17 | 「全員がその才能を認めた秀作である。」「どんなメディアから登場しようと、表現者の才能には壁などないのだと痛感させられた。賞をのがしたのは「未知数」という点が作用していると思うが、作家は処女作がすべてである。この人の将来に不安を抱くことはあるまい。」 |
選評出典:『オール讀物』平成13年/2001年3月号 |
選考委員 五木寛之 68歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
51歳 |
◎ | 24 | 「今回ほどすんなりと決まった受賞作もめずらしい。」「私は『愛の領分』と、田口ランディさんの『モザイク』に一票を投じた」「古風な小説である。しかし、立原正秋とも、加堂秀三ともちがう独自の世界を創りだしているところがいいと思った。登場する人物たちひとりひとりに存在感があるのも、この作家の才能だろう。」 | |
田口ランディ | 41歳 |
◎ | 29 | 「私は『愛の領分』と、田口ランディさんの『モザイク』に一票を投じたのだが、『モザイク』のほうは意外なほど不評で、ちょっとびっくりしたほどである。」「私などにはとてもこういうふうに渋谷の街を描くことはできない。」「新しさを感じさせる文章だった。」 |
選評出典:『オール讀物』平成13年/2001年9月号 |
選考委員 五木寛之 69歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
松井今朝子 | 48歳 |
◎ | 19 | 「興味ぶかく読んだ」「当選作となって少しも不思議でない作品である。」「これをミステリーとして読めば、幾分の不満もあろうが、江戸時代を背景にした風俗小説として読めば抜群のおもしろさである。章のはじめに引用される文章も卓抜な批評性を感じさせて、私は今回随一の力作だったと思っている。」 |
江國香織 | 38歳 |
○ | 15 | 「興味ぶかく読んだ」「詩人としての才能が小説を書く上でマイナスになっていない、めずらしい作家である。」「すでに山本周五郎賞を受けていることもあって受賞を逸したが、それもまたこの人らしいという思いもあった。私は好きな作品である。」 |
49歳 |
■ | 8 | 「技術的な安定感と作家としての誠実さには感心しつつも、どことなく印象が薄く、積極的に推すにはいたらなかった。」 | |
「今回の選考会は、非常に長い時間がかかった。」「ひとつひとつの候補作について、順番に、丹念すぎるほどの感想を語りあっていたために時間をついやしただけのことである。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成14年/2002年9月号 |
選考委員 五木寛之 70歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
京極夏彦 | 39歳 |
○ | 51 | 「好き嫌いや、文芸観の相違をこえて、その存在を誰もが無視することができない作家である。」「京極夏彦という小説家の世界は、直木賞の次元を突き抜けている。」「票が集ればそれもよし、もし支持が少ければ、受賞者なしに終るだろうと予想したのだが、結果はその通りになった。」「直木賞になじまない、さりとて芥川賞の枠にも入らない、というところが京極夏彦という作家の栄光と言えるのではあるまいか。」 |
「たぶん、受賞作なしの結果に終るのではないか、しかし、それは避けたい、と考えながら選考の席にのぞんだ。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成15年/2003年3月号 |
選考委員 五木寛之 71歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
田口ランディ | 44歳 |
◎ | 19 | 「私は田口ランディさんの『富士山』を推した」「世間の人びとが知っていて知らぬふりをしている問題を、きちんとふまえた小説だと思う。」「これまでの小説の文法をすてて、新しい小説世界を夢みているかのような作風に、ある共感をおぼえずにはいられなかった。」 |
44歳 |
□ | 26 | 「受賞の結果に異存はない。」「文句なしにおもしろい連作である。」「問題は人間の内面世界は、もっと奇怪で難解なものではないか、と、ふと感じさせられる点だ。」 | |
46歳 |
□ | 19 | 「受賞の結果に異存はない。」「良くも悪くも時空をずらせた(原文傍点)古風さが魅力となっている。」「粘りづよい描写力に圧倒されるような気がした。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成16年/2004年9月号 |
選考委員 五木寛之 72歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
岩井三四二 | 46歳 |
◎ | 53 | 「もっとも興味ぶかく読んだ」「商人や農民など実質的に社会を支える民衆の行動のモチーフに信仰という照明を当てることで、新しい小説世界の可能性をさぐろうとする野心的な試みである。」「史料的にいくつかの問題点があるという指摘もあり、また構成上の破綻も話題となったが、そういった欠点を超えて私を惹きつける力がこの作品にはあった。」 |
37歳 |
□ | 29 | 「生きるためには、誰しもが生きる意味を必要とする。その捕え難い感覚を、この作家はじつに的確に表現してみせて、間然する所がない。」「文章力は、今回の候補作のなかでもぬきんでていたと思う。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成17年/2005年3月号 |
選考委員 五木寛之 72歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
三崎亜記 | 34歳 |
◎ | 13 | 「私はこの作品をつよく推したが、「次作を待ちたい」という意見にしたがわざるをえなかった。これが傑作であるという考えは変らない。しかし、この書き手にはたしてこれを超える次作があるのだろうか。」 |
恩田陸 | 40歳 |
○ | 10 | 「それなりの作品だが、『夜のピクニック』と比較すると、やはり弱い。しかし、私は今回はこの作家が受賞するのではないかと思いながら選考会にのぞんだ。小説家としての安定した実力という観点からは、この人だろう。」 |
42歳 |
△ | 14 | 「(引用者注:授賞に)異論はない。」「私個人としては、(引用者中略)「トカビの夜」という冒頭の一作にことに惹かれるものがあった。」 | |
「今回はこれまでになく個性のつよい作品が候補として登場してきた。直木賞にも、どことなく新しい風が吹きはじめた予感がある。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成17年/2005年9月号 |
選考委員 五木寛之 75歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
三崎亜記 | 37歳 |
◎ | 11 | 「私は最初、(引用者中略)推したが、ほかに支持する人がなく、あっさり空振りに終った。表題作も興味ぶかく読んだし、『突起型選択装置』の奇妙な魅力も捨てがたい。エンターテインメント界の安部公房といった作風は、今後どこまで進化するのだろうか。」 |
47歳 |
○ | 18 | 「最後に残り、私も一票を投じた。」「主人公の「私」をはじめ登場人物の心と体の揺れうごくきわどさが、人間存在のきわどさを反映していると同時に、文章のもつ官能の力を巧みに使いこなしているところに、この作家の成熟度を感じた。その完成度の高さにかすかな不安もある。しかし、自然描写にさえセクシーな気配が漂うのは、貴重な才能というべきだろう。」 | |
「第一回目の投票では、各選者の支持作品が分散して、今回はかなり難航しそうな気がしていたのだが、最後は意外にあっさり受賞作が決定した。」「かつてこの賞の選考会は、良くいえば豪快、悪くいえばおおざっぱに事が運ぶのが特徴だったように思う。」「最近では皆さんが試験勉強のように微に入り細をうがって徹底的に準備をなさって選考会にのぞまれる。」 | ||||
選評出典:『オール讀物』平成20年/2008年9月号 |
選考委員 五木寛之 76歳 | ||||
候補 | 評価 | 行数 | 評言 | |
葉室麟 | 58歳 |
◎ | 12 | 「受賞作として推した」「定石どおりといえば、そうなのだが、どこかにあたらしい風を感じたからだ。」「書き古された題材だという声もあったものの、この作家には独自の作風というものがある。」 |
59歳 |
△ | 16 | 「これまでの安定した実績を踏まえて積極的に推す声もあり、また全面的に否定する声もあったが、受賞作にはそれなりの理由がある、というのが一貫した私の実感である。すんなりと圧倒的な支持で受賞しなかった、ということも、その作家の才能の一つなのだ。北村薫という書き手の存在感が、選考会を圧倒したともいえる、今回の直木賞だった。」 | |
選評出典:『オール讀物』平成21年/2009年9月号 |