芥川賞のすべて・のようなもの
第64回
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昭和45年/1970年下半期
(昭和46年/1971年1月18日決定発表/『文藝春秋』昭和46年/1971年3月号選評掲載)
選考委員  瀧井孝作
男76歳
丹羽文雄
男66歳
石川達三
男65歳
舟橋聖一
男66歳
中村光夫
男59歳
大岡昇平
男61歳
川端康成
男71歳
永井龍男
男66歳
石川淳
男71歳
井上靖
男63歳
選評総行数  29 22 33 40 26 19 30 33 20 16
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
古井由吉 「杳子」等
231
男33歳
17 9 3 40 21 10 25 9 20 13
畑山博 「狩られる者たち」
98
男35歳
0 0 5 0 0 3 0 3 0 0
日野啓三 「めぐらざる夏」
120
男41歳
0 0 2 0 0 0 0 3 0 0
李恢成 「伽倻子のために」
402
男35歳
11 10 11 0 7 8 5 7 0 3
森内俊雄 「〈傷〉」
78
男34歳
0 0 2 0 0 0 0 6 0 0
倉島斉 「兄」
90
男(39歳)
0 0 3 0 0 0 0 3 0 0
黒井千次 「闇の船」
106
男38歳
0 3 3 0 0 0 0 4 0 0
              欠席 欠席  
年齢/枚数の説明   見方・注意点

このページの選評出典:『芥川賞全集 第八巻』昭和57年/1982年9月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和46年/1971年3月号)
1行当たりの文字数:26字


選考委員
瀧井孝作男76歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
「杳子」を推す 総行数29 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
古井由吉
男33歳
17 「「杳子」は(引用者中略)何か混沌とした、暗い明晰でない、灰色の感じが、この小説の場合には、この灰色の混沌も、小説の色どりと持味になって、密度の濃い、面白いヤヤコシさで、筆の妙味に陶然とさせられた。」「次に同じ作者の「妻隠」を読んで、(引用者中略)明るい明晰で、別人の筆かと思う位に変って居た。これも佳作だが水彩画のような味で、「杳子」は油彩のようなねっとりした味の小説。」「これだけ打込んで描いたのは、大いに褒めてもよいと思った。」
畑山博
男35歳
0  
日野啓三
男41歳
0  
李恢成
男35歳
11 「第一章から第九章までは、少年少女の境遇と恋愛の気分が、素直な筆でのびのびと描きこまれて、読みながら草山を歩くような淡淡としたよい気分がしたが……。」「しまいの方は中間小説のような筋で、少し白けた感じもした。後半はなくもがな(原文傍点)と思った。」
森内俊雄
男34歳
0  
倉島斉
男(39歳)
0  
黒井千次
男38歳
0  
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他の選考委員
丹羽文雄
石川達三
舟橋聖一
中村光夫
大岡昇平
川端康成
永井龍男
石川淳
井上靖
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選考委員
丹羽文雄男66歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
才能のゆたかさ 総行数22 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
古井由吉
男33歳
9 「「杳子」はこの作者の持味が完璧にあらわれている。そのあとで「妻隠」を読んだが、前のあざやかな印象のためにさらに感心した。」「このひとの才能のゆたかさに感心した。「杳子」の世界にとどまるとなると、多少の不安を感じないでもないが、「妻隠」の方向にのびていくとなれば、この作者には洋々たる将来が約束されるような気がする。」
畑山博
男35歳
0  
日野啓三
男41歳
0  
李恢成
男35歳
10 「前半までがよい。」「後半になるに及んで、「実は」というふうに興味本位な筋が発展していくのは、技巧としても拙かったのではないか。このひとのものを三篇よんだことになるが、その中ではこの作がいちばんまとまっていた。」
森内俊雄
男34歳
0  
倉島斉
男(39歳)
0  
黒井千次
男38歳
3 「ひどく読みづらかった。だんだんとこの作者のものは、その傾向になってくる。必要でないことが書かれているからであろうか。」
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他の選考委員
瀧井孝作
石川達三
舟橋聖一
中村光夫
大岡昇平
川端康成
永井龍男
石川淳
井上靖
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選考委員
石川達三男65歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
当選作なし 総行数33 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
古井由吉
男33歳
3 「大部分が古井君を支持していた。古井君の作品に関しては私は異論がある。」
畑山博
男35歳
5 「面白い主題であり、その点が惜しまれたが、構成や描写の方にやや乱暴なものがあって、何かしら不安定な作品であるように私は感じた。」
日野啓三
男41歳
2 「或る断片で、断片のままで終っているように思う。」
李恢成
男35歳
11 「支持する人が多いかと思っていたが、ほとんど全委員がこれを次点というように見ていた。」「前半はなかなか良いが、全面的には賛成し兼ねる。」
森内俊雄
男34歳
2 「なかなか達者であるが、むしろもっと自分の才筆を抑えて行く方がよくはないかと思った。」
倉島斉
男(39歳)
3 「まことに達者な小説であるが、いささかあくどい所があり、少々嫌味なところが感じられた。」
黒井千次
男38歳
3 「作者が何か狭い所にはまり込んでいるような気がした。」
  「近ごろは短篇というもの自体がかなり長くなっているから、今後は二百五十枚程度までを短篇と見て、それ以上の長いものは除外する、という内規が確認された。」「私は腹の中では当選作なしと思っていた。」
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他の選考委員
瀧井孝作
丹羽文雄
舟橋聖一
中村光夫
大岡昇平
川端康成
永井龍男
石川淳
井上靖
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選考委員
舟橋聖一男66歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
持ち味 総行数40 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
古井由吉
男33歳
40 「作者の進境がよく見えた。「妻隠」と「杳子」の二作のどちらを受賞させるかについて、論議がわかれ、一票の差で「杳子」に決った。」「私は「杳子」のほうに票を入れた。これを古井の鉱脈とまでは言わないが、私はこの作品に陶酔したのだ。」「同じことをこんなに重複させて書きながら、退屈させないのは、至難の技であると共に個性的である。そこをよく乗り切っていると思った。」
畑山博
男35歳
0  
日野啓三
男41歳
0  
李恢成
男35歳
0  
森内俊雄
男34歳
0  
倉島斉
男(39歳)
0  
黒井千次
男38歳
0  
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他の選考委員
瀧井孝作
丹羽文雄
石川達三
中村光夫
大岡昇平
川端康成
永井龍男
石川淳
井上靖
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選考委員
中村光夫男59歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
まれに見る新人 総行数26 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
古井由吉
男33歳
21 「「杳子」よりも、「妻隠」の方がすぐれていると思い、これを当選作として推すつもりでした。」「「杳子」は(引用者中略)主人公の独り合点な抒情が、そのまま作者によって肯定されているようなところが、終りになるほど露骨になります。」「「妻隠」は、(引用者中略)若夫婦の生活の不安、空しさ、甘さなどが、彼らの肉体の曖昧のように、読者の心にやわらかく浸み透ってきます。」
畑山博
男35歳
0  
日野啓三
男41歳
0  
李恢成
男35歳
7 「骨太の構成力は、珍重すべき資性ですが、今度は作者自身がその力倆に少し溺れすぎた形で、とくに後半、人物を都合よく動かしすぎる粗雑さが目につきました。」
森内俊雄
男34歳
0  
倉島斉
男(39歳)
0  
黒井千次
男38歳
0  
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他の選考委員
瀧井孝作
丹羽文雄
石川達三
舟橋聖一
大岡昇平
川端康成
永井龍男
石川淳
井上靖
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選考委員
大岡昇平男61歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
日本文学になかったもの 総行数19 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
古井由吉
男33歳
10 「二作(引用者注:「杳子」「妻隠」)では「杳子」の方が、よく書きこまれている。従来この作者の作品は、一本調子にすぎるのが欠点だが、「妻隠」においては、視点の転換、面の交錯が、実にうまく行われている。私はこの方を推したが、むろん「杳子」も授賞の価値は十分である。」「実感派と目されていた委員が、こぞってこの作品(引用者注:「杳子」)を推したのは、興味深かった。」
畑山博
男35歳
3 「題材的に面白く、一応こなしている。多分器用にこなしすぎているところがあるためか、他の委員には全然相手にされなかった。」
日野啓三
男41歳
0  
李恢成
男35歳
8 「李氏の作品を私はこれまで支持して来たが、それは在日朝鮮人という特異な条件から生れるリアリティを尊重したからである。こんどの作品にも部分的にそういうリアリティはあるが、焦点が愛情関係におかれているためか、やや便宜的に使われている。そしてその愛情関係は紋切型で、私には面白くもおかしくもなかった。」
森内俊雄
男34歳
0  
倉島斉
男(39歳)
0  
黒井千次
男38歳
0  
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他の選考委員
瀧井孝作
丹羽文雄
石川達三
舟橋聖一
中村光夫
川端康成
永井龍男
石川淳
井上靖
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選考委員
川端康成男71歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
さびしい簡単 総行数30 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
古井由吉
男33歳
25 「古井由吉氏の二作のほかに、取りあげる作品が見られなかった」「文藝春秋社内予選で意見が全く二分したので(引用者注:古井氏の候補だけ)二作をあげたというが、一編とできなかったのは不明断、不見識であろう。」「私は選後に「妻隠」を読んでみたが、印象は「杳子」にくらべて微弱であった。古井氏の以前の候補作(引用者中略)でも、私は作者の才質に興味と好意を感じていたので、「杳子」での当選をよろこぶ。」
畑山博
男35歳
0  
日野啓三
男41歳
0  
李恢成
男35歳
5 「芥川賞候補作としては長過ぎるが、それだけに李氏の才能は見られた。ただし後半(引用者中略)はぶちこわしで、今日この程度の書き方では通俗に落ちてしまう。」
森内俊雄
男34歳
0  
倉島斉
男(39歳)
0  
黒井千次
男38歳
0  
  「今回の銓衡は極めて簡単で、短時間に終結した。ほとんど議論もなく、あっけなかった。」
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他の選考委員
瀧井孝作
丹羽文雄
石川達三
舟橋聖一
中村光夫
大岡昇平
永井龍男
石川淳
井上靖
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選考委員
永井龍男男66歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
「妻隠」の手練 総行数33 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
古井由吉
男33歳
9 「「杳子」にぎっしり塗り込められた異常心理は、データとしては格別珍しいものではあるまい。」「閉じられた世界の開花は、この作の上では私には見られなかった。そこへ行くと「妻隠」の手練は大したもので、却って老成というような印象をうけた。」
畑山博
男35歳
3 「(引用者注:「闇の船」と)同様にみじめな人物群を追うが、(引用者中略)主人公を突き放すことで一篇を救っている」
日野啓三
男41歳
3 「他の作があまり持ってまわっているせいか、スッキリした少年小説とでもいうべき読後感であった。」
李恢成
男35歳
7 「作者の資質に好感をもった。しかしそれはそれとして、(引用者中略)今度これを短篇という人はなかろう。」
森内俊雄
男34歳
6 「作者が調子に乗り過ぎると、上方落語の「いかけや」を連想した。」「しかしこの現代版の後口は、意外に清潔であった。」
倉島斉
男(39歳)
3 「つらい小説で、再読するのが苦しかった。それほど危げのない手腕を持っている。」
黒井千次
男38歳
4 「(引用者注:「狩られる者たち」と)同様にみじめな人物群を追うが、(引用者中略)小説的努力は徒労という印象が濃かった。」
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他の選考委員
瀧井孝作
丹羽文雄
石川達三
舟橋聖一
中村光夫
大岡昇平
川端康成
石川淳
井上靖
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選考委員
石川淳男71歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
一本の杭 総行数20 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
古井由吉
男33歳
20 「「杳子」を推す。」「もう一つの「妻隠」のほうは、力がおもうように行きわたらないけはいがする。」「「杳子」は今まですすんで来た道の里程を示す一本の杭のようである。ここから道のけしきがすこしかわって、「妻隠」のほうに出たのだろうか。」「古井君が硬質なことばをもって組みあげるスタイルは、なにかを表現するのではなくて、なにかを突きとめようとするもののごとくである。」
畑山博
男35歳
0  
日野啓三
男41歳
0  
李恢成
男35歳
0  
森内俊雄
男34歳
0  
倉島斉
男(39歳)
0  
黒井千次
男38歳
0  
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他の選考委員
瀧井孝作
丹羽文雄
石川達三
舟橋聖一
中村光夫
大岡昇平
川端康成
永井龍男
井上靖
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選考委員
井上靖男63歳×各候補作  年齢/枚数の説明
見方・注意点
行き届いた計算 総行数16 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
古井由吉
男33歳
13 「「杳子」と「妻隠」の二作が光っていましたので、最近では珍しいらくな銓衡になりました。」「「杳子」「妻隠」それぞれに特色ある作品で、どちらが選ばれても異存はありませんが、私の場合は「妻隠」の方を推しました。久しぶりに、作者の計算が行き届いている短篇らしい短篇にぶつかった思いでした。」
畑山博
男35歳
0  
日野啓三
男41歳
0  
李恢成
男35歳
3 「主題と正面から組んだ重量感のある作品だと思いました。」
森内俊雄
男34歳
0  
倉島斉
男(39歳)
0  
黒井千次
男38歳
0  
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他の選考委員
瀧井孝作
丹羽文雄
石川達三
舟橋聖一
中村光夫
大岡昇平
川端康成
永井龍男
石川淳
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受賞者・作品
古井由吉男33歳×各選考委員 
「杳子」等
中篇 231
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
瀧井孝作
男76歳
17 「「杳子」は(引用者中略)何か混沌とした、暗い明晰でない、灰色の感じが、この小説の場合には、この灰色の混沌も、小説の色どりと持味になって、密度の濃い、面白いヤヤコシさで、筆の妙味に陶然とさせられた。」「次に同じ作者の「妻隠」を読んで、(引用者中略)明るい明晰で、別人の筆かと思う位に変って居た。これも佳作だが水彩画のような味で、「杳子」は油彩のようなねっとりした味の小説。」「これだけ打込んで描いたのは、大いに褒めてもよいと思った。」
丹羽文雄
男66歳
9 「「杳子」はこの作者の持味が完璧にあらわれている。そのあとで「妻隠」を読んだが、前のあざやかな印象のためにさらに感心した。」「このひとの才能のゆたかさに感心した。「杳子」の世界にとどまるとなると、多少の不安を感じないでもないが、「妻隠」の方向にのびていくとなれば、この作者には洋々たる将来が約束されるような気がする。」
石川達三
男65歳
3 「大部分が古井君を支持していた。古井君の作品に関しては私は異論がある。」
舟橋聖一
男66歳
40 「作者の進境がよく見えた。「妻隠」と「杳子」の二作のどちらを受賞させるかについて、論議がわかれ、一票の差で「杳子」に決った。」「私は「杳子」のほうに票を入れた。これを古井の鉱脈とまでは言わないが、私はこの作品に陶酔したのだ。」「同じことをこんなに重複させて書きながら、退屈させないのは、至難の技であると共に個性的である。そこをよく乗り切っていると思った。」
中村光夫
男59歳
21 「「杳子」よりも、「妻隠」の方がすぐれていると思い、これを当選作として推すつもりでした。」「「杳子」は(引用者中略)主人公の独り合点な抒情が、そのまま作者によって肯定されているようなところが、終りになるほど露骨になります。」「「妻隠」は、(引用者中略)若夫婦の生活の不安、空しさ、甘さなどが、彼らの肉体の曖昧のように、読者の心にやわらかく浸み透ってきます。」
大岡昇平
男61歳
10 「二作(引用者注:「杳子」「妻隠」)では「杳子」の方が、よく書きこまれている。従来この作者の作品は、一本調子にすぎるのが欠点だが、「妻隠」においては、視点の転換、面の交錯が、実にうまく行われている。私はこの方を推したが、むろん「杳子」も授賞の価値は十分である。」「実感派と目されていた委員が、こぞってこの作品(引用者注:「杳子」)を推したのは、興味深かった。」
川端康成
男71歳
25 「古井由吉氏の二作のほかに、取りあげる作品が見られなかった」「文藝春秋社内予選で意見が全く二分したので(引用者注:古井氏の候補だけ)二作をあげたというが、一編とできなかったのは不明断、不見識であろう。」「私は選後に「妻隠」を読んでみたが、印象は「杳子」にくらべて微弱であった。古井氏の以前の候補作(引用者中略)でも、私は作者の才質に興味と好意を感じていたので、「杳子」での当選をよろこぶ。」
永井龍男
男66歳
9 「「杳子」にぎっしり塗り込められた異常心理は、データとしては格別珍しいものではあるまい。」「閉じられた世界の開花は、この作の上では私には見られなかった。そこへ行くと「妻隠」の手練は大したもので、却って老成というような印象をうけた。」
石川淳
男71歳
20 「「杳子」を推す。」「もう一つの「妻隠」のほうは、力がおもうように行きわたらないけはいがする。」「「杳子」は今まですすんで来た道の里程を示す一本の杭のようである。ここから道のけしきがすこしかわって、「妻隠」のほうに出たのだろうか。」「古井君が硬質なことばをもって組みあげるスタイルは、なにかを表現するのではなくて、なにかを突きとめようとするもののごとくである。」
井上靖
男63歳
13 「「杳子」と「妻隠」の二作が光っていましたので、最近では珍しいらくな銓衡になりました。」「「杳子」「妻隠」それぞれに特色ある作品で、どちらが選ばれても異存はありませんが、私の場合は「妻隠」の方を推しました。久しぶりに、作者の計算が行き届いている短篇らしい短篇にぶつかった思いでした。」
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他の候補作
畑山博
「狩られる者たち」
日野啓三
「めぐらざる夏」
李恢成
「伽倻子のために」
森内俊雄
「〈傷〉」
倉島斉
「兄」
黒井千次
「闇の船」
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候補者・作品
畑山博男35歳×各選考委員 
「狩られる者たち」
短篇 98
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
瀧井孝作
男76歳
0  
丹羽文雄
男66歳
0  
石川達三
男65歳
5 「面白い主題であり、その点が惜しまれたが、構成や描写の方にやや乱暴なものがあって、何かしら不安定な作品であるように私は感じた。」
舟橋聖一
男66歳
0  
中村光夫
男59歳
0  
大岡昇平
男61歳
3 「題材的に面白く、一応こなしている。多分器用にこなしすぎているところがあるためか、他の委員には全然相手にされなかった。」
川端康成
男71歳
0  
永井龍男
男66歳
3 「(引用者注:「闇の船」と)同様にみじめな人物群を追うが、(引用者中略)主人公を突き放すことで一篇を救っている」
石川淳
男71歳
0  
井上靖
男63歳
0  
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他の候補作
古井由吉
「杳子」等
日野啓三
「めぐらざる夏」
李恢成
「伽倻子のために」
森内俊雄
「〈傷〉」
倉島斉
「兄」
黒井千次
「闇の船」
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候補者・作品
日野啓三男41歳×各選考委員 
「めぐらざる夏」
中篇 120
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
瀧井孝作
男76歳
0  
丹羽文雄
男66歳
0  
石川達三
男65歳
2 「或る断片で、断片のままで終っているように思う。」
舟橋聖一
男66歳
0  
中村光夫
男59歳
0  
大岡昇平
男61歳
0  
川端康成
男71歳
0  
永井龍男
男66歳
3 「他の作があまり持ってまわっているせいか、スッキリした少年小説とでもいうべき読後感であった。」
石川淳
男71歳
0  
井上靖
男63歳
0  
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他の候補作
古井由吉
「杳子」等
畑山博
「狩られる者たち」
李恢成
「伽倻子のために」
森内俊雄
「〈傷〉」
倉島斉
「兄」
黒井千次
「闇の船」
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候補者・作品
李恢成男35歳×各選考委員 
「伽倻子のために」
長篇 402
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
瀧井孝作
男76歳
11 「第一章から第九章までは、少年少女の境遇と恋愛の気分が、素直な筆でのびのびと描きこまれて、読みながら草山を歩くような淡淡としたよい気分がしたが……。」「しまいの方は中間小説のような筋で、少し白けた感じもした。後半はなくもがな(原文傍点)と思った。」
丹羽文雄
男66歳
10 「前半までがよい。」「後半になるに及んで、「実は」というふうに興味本位な筋が発展していくのは、技巧としても拙かったのではないか。このひとのものを三篇よんだことになるが、その中ではこの作がいちばんまとまっていた。」
石川達三
男65歳
11 「支持する人が多いかと思っていたが、ほとんど全委員がこれを次点というように見ていた。」「前半はなかなか良いが、全面的には賛成し兼ねる。」
舟橋聖一
男66歳
0  
中村光夫
男59歳
7 「骨太の構成力は、珍重すべき資性ですが、今度は作者自身がその力倆に少し溺れすぎた形で、とくに後半、人物を都合よく動かしすぎる粗雑さが目につきました。」
大岡昇平
男61歳
8 「李氏の作品を私はこれまで支持して来たが、それは在日朝鮮人という特異な条件から生れるリアリティを尊重したからである。こんどの作品にも部分的にそういうリアリティはあるが、焦点が愛情関係におかれているためか、やや便宜的に使われている。そしてその愛情関係は紋切型で、私には面白くもおかしくもなかった。」
川端康成
男71歳
5 「芥川賞候補作としては長過ぎるが、それだけに李氏の才能は見られた。ただし後半(引用者中略)はぶちこわしで、今日この程度の書き方では通俗に落ちてしまう。」
永井龍男
男66歳
7 「作者の資質に好感をもった。しかしそれはそれとして、(引用者中略)今度これを短篇という人はなかろう。」
石川淳
男71歳
0  
井上靖
男63歳
3 「主題と正面から組んだ重量感のある作品だと思いました。」
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他の候補作
古井由吉
「杳子」等
畑山博
「狩られる者たち」
日野啓三
「めぐらざる夏」
森内俊雄
「〈傷〉」
倉島斉
「兄」
黒井千次
「闇の船」
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候補者・作品
森内俊雄男34歳×各選考委員 
「〈傷〉」
短篇 78
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
瀧井孝作
男76歳
0  
丹羽文雄
男66歳
0  
石川達三
男65歳
2 「なかなか達者であるが、むしろもっと自分の才筆を抑えて行く方がよくはないかと思った。」
舟橋聖一
男66歳
0  
中村光夫
男59歳
0  
大岡昇平
男61歳
0  
川端康成
男71歳
0  
永井龍男
男66歳
6 「作者が調子に乗り過ぎると、上方落語の「いかけや」を連想した。」「しかしこの現代版の後口は、意外に清潔であった。」
石川淳
男71歳
0  
井上靖
男63歳
0  
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他の候補作
古井由吉
「杳子」等
畑山博
「狩られる者たち」
日野啓三
「めぐらざる夏」
李恢成
「伽倻子のために」
倉島斉
「兄」
黒井千次
「闇の船」
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候補者・作品
倉島斉男(39歳)×各選考委員 
「兄」
短篇 90
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
瀧井孝作
男76歳
0  
丹羽文雄
男66歳
0  
石川達三
男65歳
3 「まことに達者な小説であるが、いささかあくどい所があり、少々嫌味なところが感じられた。」
舟橋聖一
男66歳
0  
中村光夫
男59歳
0  
大岡昇平
男61歳
0  
川端康成
男71歳
0  
永井龍男
男66歳
3 「つらい小説で、再読するのが苦しかった。それほど危げのない手腕を持っている。」
石川淳
男71歳
0  
井上靖
男63歳
0  
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他の候補作
古井由吉
「杳子」等
畑山博
「狩られる者たち」
日野啓三
「めぐらざる夏」
李恢成
「伽倻子のために」
森内俊雄
「〈傷〉」
黒井千次
「闇の船」
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候補者・作品
黒井千次男38歳×各選考委員 
「闇の船」
短篇 106
年齢/枚数の説明
見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
瀧井孝作
男76歳
0  
丹羽文雄
男66歳
3 「ひどく読みづらかった。だんだんとこの作者のものは、その傾向になってくる。必要でないことが書かれているからであろうか。」
石川達三
男65歳
3 「作者が何か狭い所にはまり込んでいるような気がした。」
舟橋聖一
男66歳
0  
中村光夫
男59歳
0  
大岡昇平
男61歳
0  
川端康成
男71歳
0  
永井龍男
男66歳
4 「(引用者注:「狩られる者たち」と)同様にみじめな人物群を追うが、(引用者中略)小説的努力は徒労という印象が濃かった。」
石川淳
男71歳
0  
井上靖
男63歳
0  
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他の候補作
古井由吉
「杳子」等
畑山博
「狩られる者たち」
日野啓三
「めぐらざる夏」
李恢成
「伽倻子のために」
森内俊雄
「〈傷〉」
倉島斉
「兄」
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